鳥居平今村 上菱平圃場2010「いますぐ飲みたい日本ワイン」vol.09 柳忠之

2015.12.09

rd500_yng09_01
勝沼に行かれたことのある方なら、笹子峠から抜け出した柏尾山の山肌に、鳥居の形をした野焼きの後があるのをご存知でしょう。

毎年10月の第1土曜日に開催される勝沼ぶどう祭り。その際、京都の大文字焼きのように、鳥居の形をした野焼きが行われます。これはブドウ畑の害虫駆除を目的に、1000年以上も前から続く風習で、盆の送り火の意味も含まれているそうです。

この鳥居の焼き跡の真下にもブドウ畑が広がり、地元の農家の人たちはこの一帯を古来より鳥居平と呼んできました。鳥居平の甲州ブドウは勝沼の中でもとくに品質に優れ、江戸時代には徳川将軍家に献上されていたそうです。

今のように自動車も鉄道もない時代、江戸まで30里の道のりを、馬を使い幾日もかけて運んでもくたっとせず、しゃきっと瑞々しさを保っていたのが、鳥居平の甲州ブドウだったと言われています。

これにはいくつもの理由があります。まず鳥居平が南西向きの斜面で陽当たりがよいこと。雨が多く、水膨れしやすい日本の環境でも、斜面のであることに加えて、粘土の中に礫を含んだ土壌のため、水はけに優れること。そして、標高1000メートルを越える笹子峠から吹き下ろす冷たい風、通常、笹子下ろしが猛暑の夏でも暑さを和らげ、夜間はぐっと気温を下げて、ブドウを完熟させると同時に豊かな酸味を残すこと……などなど。

鳥居平今村の「上菱平圃場2010」は、この鳥居平の一区画「上菱平」の甲州のみを用いて造られたワインです。今年の夏、この畑を見てきましたが、ひと房にブドウの粒がまばらに実った、いわゆるバラ房でした。このようなブドウは見てくれが悪くて生食用には不向きですが、ひと粒ひと粒は凝縮し、優れたワインを生み出すので、醸造用としては理想的なのです。

口に含んでみると、甲州にしては味わいの密度、凝縮感がケタ違いに大きく、酸味もしっかり。硬度の高いミネラルウォーターを飲み込んだようなテクスチャーが、口の中いっぱいに感じられます。ブルゴーニュのコルトン・シャルルマーニュのような風格があり、甲殻類などの料理と合わせてもよさそうです。

フランスのようにブドウ畑の格付けが勝沼にも出来るとしたら、鳥居平は間違いなくグラン・クリュ、特級に格付けされるでしょうね。

 

5400円(税込)/ヴァンパッシオン TEL03-6402-5505

 

取材・文/柳忠之

【柳忠之の〈いますぐ飲みたい日本ワイン〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/tadayuki-yanagi/

 

Area