写真家・高木由利子は2年前、軽井沢に家を建て、東京から移住をした。スタジオ、オフィス、住居の3つの機能を備えたその家は、静寂に包まれながらも季節の気配を感じ、余白と陰影がある日本的な空間だ。高木が自身の記録のために撮影した、自邸とそれを取り巻く軽井沢の季節の足音をとらえた写真を紹介する。
変容は無常である
この家にいると、季節が変わる気配を静かに感じる。静寂に包まれた環境に身を置くと、五感が研ぎ澄まされ、あらゆる自然現象に敏感になるように思う。


木々のすき間から望む夕日に染まる山々。その姿が幻想的に浮かび上がる。
秋から冬へ季節が変わり、朝晩の気温が下がり始めるころ、庭に置いた容器の中の水が凍り始めたことに気づく。そして日中気温が上がるとその氷は解けて水となり、また翌朝には凍っている。その氷を何気なく眺めていると、その凍り方や氷の結晶の見え方が日々違うことに気づく。自然がもたらすどんな小さな現象もいつも私たちを驚かせる。そのような日常を過ごしていると、自然現象の不可思議に着目するようなり、その不可思議がレンズを通して初めて見えてくるプロジェクト[chaoscosmos(ケオスコスモス)]が始動した。このプロジェクトは当分続行しそうである。


近くの池に氷が張ってきた。季節の気配には些細なことで気づく。
自然の中に身を置くと、二度と同じ瞬間はないということを強く感じる。変容することは無常であることを感じずにはいられない。そして、自然は驚異でもある。その壮大な自然は、私たちの想像をはるかに超えた美と神秘を生み出しては破壊し続けていく。ここ軽井沢に住むようになってから、そのような気づきを日々の生活の中に感じるようになった気がする。


浅間山山頂に雪が積もるころ、軽井沢にも厳しい冬が訪れる。


周辺を雪に覆われた自邸の全景。人が少なくて静かな冬の軽井沢が好きだ。
光の陰影
この家はかつての日本家屋がそうであったように、光や風が通る設計になっている。横に細長く取った窓から光が差し込む。その光は季節や時間によって、角度や高さ、色を変えることがわかる。そして冬であれば雪の白い輝きが部屋に反射し、春の桜が散るころであれば桜色が光とともに差し込んでいく。光はその季節の色を届けてくれるのである。


窓の外には雪が積もっている。スタジオには雪の反射で光が注ぐ。


横に細長く切り取られた窓からは広がる自然と空が伺えて、静寂が自邸を包んでいく。
ここを訪ねてくる人たちは、この静寂に包まれた空間に身を置き、風の揺らぎや光の陰影を敏感に感じると言う。この感性は日本人が本来持っている繊細さであり、奥深くに眠る日本人の遺伝子が呼び醒まされるのかもしれないと思う。


三方向へ伸びた屋根がぶつかる頂点の格子から光が注ぐ。
(敬称略)
高木由利子 Yuriko Takagi
写真家
1951年東京生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデサインを学んだ後、渡英。Trent Polytechnicでファッションデザインを学び、フリーランスデザイナーとしてヨーロッパで活動後、写真家に転身。現在は日本を拠点に、アジア、アフリカ、南米、中近東に撮影旅行を続けながら、積極的に活動している。独自の視点からファッションや人体を通して「人の存在」を追い求める作品は、繊細でありながらも、その場の独特な空気感とともに深く潜む生命をも曝す圧倒的な強度がある。近年は自然現象の不可思議を捉える「chaoscosmos」というプロジェクトも続行中。日本やヨーロッパで展覧会を開催。主な著作に『Nus Intime』(用美社)、『Confused Gravitation』(美術出版社)、『IN AND OUT OF MODE』(Gap Japan)、『Skin YURIKO TAKAGI × KOZUE HIBINO』(扶桑社)、『sei』(Xavier Barral)がある。
https://www.yurikotakagi.com
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