VAIO株式会社 代表取締役社長 山本知弘VAIO株式会社 代表取締役社長 山本知弘

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Portraits

日本のエグゼクティブ・インタビュー

2021.3.31

デザインと技術でイノベーションを加速していく VAIO株式会社 代表取締役社長 山本知弘

VAIO株式会社 代表取締役社長 山本知弘

類いまれなブランドストーリーを持つ企業のエグクティブにご登場いただくのが、Premium Japan代表・島村美緒によるエグゼクティブ・インタビュー。彼らが生み出す商品やサービス、そして企業理念を通して、そのブランドが表現する「日本の感性」や「日本の美意識」の真髄を紐解いていく。今回は、先日世界で初めて量産化に成功したフルカーボンボディのモバイルPC「VAIO Z」を発表したばかりのVAIO代表取締役社長 山本知弘氏に話を聞いた。

※ノート PC 筐体を構成する全ての面で、立体成型を行ったカーボン連続繊維素材を使用することにおいて。2021 年 1 月6 日時点 ステラアソシエ調べ。

 

 

ブランド、そしてデザインはVAIOの重要な経営資源

 

ソニーのPCブランドとして誕生し、2014年にソニーから分離・独立したVAIO。常にデザインと技術を融合した画期的商品を生み出すVAIO株式会社となって7年が経つ。

 

「VAIOは現在本社のある長野県安曇野と東京、大阪、名古屋、福岡の5拠点となっていますが、安曇野はソニー時代から長く生産拠点だった場所。先進技術を積み上げてきた歴史やレガシーを受け継ぎながら、現在は個人・法人向けPC事業のほか、トヨタ自動車の『KIROBO mini(キロボミニ)』など、クライアントの要望に応じたコミュニケーションロボットの設計・製造や産業用ドローンなどのEMS(Electronics Manufacturing service)事業を手掛けています」


そう話す山本知弘氏は2015年に社外取締役としてVAIOに参画。2019年にVAIOの4代目の代表取締役に就任し、まず取り組んだのがブランディングの再強化だったという。

 

「VAIOにとって技術はもちろん、ブランドそしてデザインも重要な経営資源です。その中でブランドとは、お客様などVAIOに関わってくださる方との一種の“約束”。お客様がそのブランドに期待を託し、我々がその責任を果たす、企業の約束を表すものだと思うんです。それが何なのか、明確に言語化できないとどんどん曖昧になり、VAIOがこれまで受け継いできたことも今後に残すべきこともわからなくなってしまう。それこそVAIO誕生以来築いてきたレガシーを、へたをすれば失くしてしまうことになりかねないと感じたんです」

 

経営直下にブランド戦略策定から実行までを担う部署『ブランド&デザイン戦略グループ』を設置。全部署を巻き込んで横断的に、VAIOとはどんなブランドなのか、何がVAIOであって何がVAIOではないのかと議論を重ねた。

 

「例えばVAIOを自動車メーカーに例えると、技術面を見ている人はBMWだと言うし、日本企業であってデザインにも技術にもこだわるという側面であれば、マツダだという意見も出る。VAIOを見る視点から、お互いの立場や考え方がわかってくるんですよね。互いを理解し、共に目指す未来がどこにあるかが徐々に明確になり、VAIOというブランドイメージの構築する上でとても効果があったと思います」


約1年をかけた1年をかけたブランドミッションの明確化。グループ会議では激論も交わされたとか。 約1年をかけた1年をかけたブランドミッションの明確化。グループ会議では激論も交わされたとか。

約1年をかけた1年をかけたブランドミッションの明確化。グループ会議では激論も交わされたとか。

同時に山本氏が取り組んだのが、ブランドを表現するクリエイティブ・ディレクションというコンセプトも社内すべてに浸透させること。「クリエイティブは、単に商品企画や広告宣伝といった部門のものではありません。ものづくりの最初から最後まで、企業の活動全体に取り入れるものだと考えています」

 

商品企画はもちろん、関わる全ての人が共通の認識を持つことで、商品の作り方、売り方、そしてアフターサービスに至るまで、VAIOらしさを醸成させたいと考えたのだ。


すべての部署の声を企画に反映するものづくり“上流設計”

 

そのプロセスの一助ともなったのが、VAIOのものづくりの特徴である“上流設計”だ。

 

「“上流設計”は、設計・製造や品質保証、カスタマーサービスにいたるまで、すべての部署の声を最初の商品企画の段階で反映させるVAIO独自のプロセスです。現在はさらに“上流戦略”と呼んで、ものづくりから先の、営業がお客さまへどうアピールしたいのかというところまで広げ、全工程のスタッフが同じ方向を見ながら商品づくりを行っています」


最新モデルVAIO Zも上流設計のプロセスで製品化された。 最新モデルVAIO Zも上流設計のプロセスで製品化された。

最新モデルVAIO Zも上流設計のプロセスで製品化された。

設計が良いデザインを目指しても、製造の段階でコストや技術的に難しいという判断になるかもしれない、さらに品質保証の立場から見れば製品としてGOを出せないとなるかもしれない。そうやって分業的なプロセスで各部署がその都度判断するのではなく、最初に一堂に会しお互いの知見と工夫を加えることで、高品質なものづくりのスムーズなプロセスとブランドイメージの共有を実現させているのだ。

 

 

VAIO初のブランドミッションのもと、挑戦を形に

 

ブランドミッション策定に約1年をかけ、生み出されたのが「挑戦に火をともそう。デザインと技術で、世界のイノベーションを加速する」というVAIO初のブランドミッションステートメントだ。「もちろん挑戦ですから全部成功するとは限らない。でも、これまでならできないと言われていたことも、それが必要なら追求してみる。常にその取り組みが挑戦になっているかという視点で再認識することが大事だと思っています」

 


そしてその挑戦がまさに形となったのが、今回発表された最新モデルVAIO Zだ。ブランド誕生当初からモビリティを追求してきたVAIOは、レーシングカーのボディに使われるほどの軽さと強靭さを兼ね備えた素材・カーボンファイバーを早くから採用。しかし加工技術の難しさから、これまでは天板など部分的に使用されるのみにとどまっていた。

 

「ボディを大きくすれば、もちろん性能もスタミナも上げられる。でも気兼ねなく持ち運べる重さで、今までありえなかったスピードとスタミナを両立できないのか。両立は不可能と思われているこの課題を解決すること、それがこれまでもカーボン技術やモビリティを追求してきたVAIOがすべき挑戦だと思いました」


立体成型のフルカーボンボディの最新モデルVAIO Z。 立体成型のフルカーボンボディの最新モデルVAIO Z。

立体成型のフルカーボンボディの最新モデルVAIO Z。


そして課題を乗り越え、今回6年ぶりに発表されたVAIOの最上級モデル「Z」は、世界で初めて立体成型のフルカーボンボディの量産化に成功。並外れたスピード、スタミナそして強靭さを持ちながら、1㎏を切る軽量ボディを実現した。

 

「PCで立体成型のフルカーボンボディは、このVAIO Zが世界で唯一無二の存在。そして並外れたスタミナとスピード、強靭さの両立は、オンリーワンでありナンバーワンでもあると自信を持っています。このVAIOで最高のコンピューティング体験を味わっていただきたいと思います」

 

 

日本のものづくりに宿る美意識とは

 

武士が好んだという勝色(濃い藍色)をコーポレートカラーとし、一貫して安曇野を拠点に日本のものづくりを行うVAIOだが、ものづくりから見た「日本の美意識」とはどんなところにあると考えているだろうか。

 

「日本のものづくりで言えば、伝統と革新、その言葉に尽きるかもしれません。祖先から受け継いできたものが、すごく豊かにあるのが日本。でもそれをただひたすら守り続けているのではなく、時代の中で本質を見極め、さらに良くするにはどうあるべきかをずっと追求し革新を続けるのが、日本のものづくりなのではないでしょうか」

伝統に奢らず、革新をし続けること。それが新たな伝統となるというわけだ。

 

 

 

 

 


PC事業のほか、近年伸びているのがEMS事業。後ろにあるのが、富士ソフト(左)、講談社(右)、ミクシィ(左手前)から受託したコミュニケーションロボットだ。 PC事業のほか、近年伸びているのがEMS事業。後ろにあるのが、富士ソフト(左)、講談社(右)、ミクシィ(左手前)から受託したコミュニケーションロボットだ。

PC事業のほか、近年伸びているのがEMS事業。後ろにあるのが、富士ソフト(左)、講談社(右)、ミクシィ(左手前)から受託したコミュニケーションロボットだ。


「さらに言えば“不言実行”でもあると思います。ある建築家の方が造った家は、普通の窓のように見えて、実はある季節になるとちょうどその窓から月が見えるように計算されて作ってある。建築家からは一切そのことは告げず、住んでる人がふと気がついてこの家で良かったと感じてもらいたいと、そんな場所をあちこちに隠してあるそうなんです。もちろん、すべて言葉にして正しく伝えることも時には必要かもしれませんが、1から10まですべてを言うのではなく、相手自身が感じる余白を少しでも残しておく。そんなちょっとした遊び心みたいなものが、日本のものづくりにはあるような気がするんです」


天気がよければテラスに出て執務することも。わずか1㎏弱の薄型軽量のVAIO Zはリモートワークに最適。 天気がよければテラスに出て執務することも。わずか1㎏弱の薄型軽量のVAIO Zはリモートワークに最適。

天気がよければテラスに出て執務することも。わずか1㎏弱の薄型軽量のVAIO Zはリモートワークに最適。

 

 

 


使って感じる、VAIOでワクワクする体験を

 

実はVAIO Zもスピード、スタミナ、強靭さ以外に40以上ものアピールポイントがあるという。でもそれをすべて開示し声高に言うことはない。

 

「使っているうちに『あっ、このボタンはこのためにあるんだ』と気づいたり、半年、あるいは1年使ってさらにその快適さを実感していただく。VAIOには、実際に触れて使って、徐々に発見する楽しみがあるんです。それこそ商品を初めて知るところから、モデルを選び、手に入れ、外に持ち出し実際に使う、そのすべての段階でワクワクする気持ちや、楽しさや幸せを感じてほしい。VAIOはそんな体験ができるプロダクトであり、ブランドでありたいと思います」

 

ブランドミッションのサブタイトル「デザインと技術で、世界中のイノベーションを加速する」の言葉通り、VAIOが造る唯一無二のPCや最先端の技術を搭載したロボットが、人々のビジネスや暮らしを飛躍させる、そんなVAIOの挑戦はこれからも目が離せない。

 

 

 

 

 

山本知弘 Chihiro Yamamoto

1972年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。三菱総合研究所などシンクタンクで研究開発職に従事した後、ボストンコンサルティンググループなど経営コンサルタントファームに転じ、主にハイテク、通信、消費財・サービスの分野で、事業戦略策定・実行、M&A、組織改革、新規事業、R&D強化などのプロジェクトを数多く手掛ける。2013年日本産業パートナーズ入社後、複数の投資先企業に経営陣として参画。2015年VAIO株式会社に社外取締役として参画し、執行役員副社長を経て、2019年8月代表取締役社長に就任。

 

 

島村美緒  Mio Shimamura

Premium Japan代表・発行人。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。2019年株式会社アマナとの業務提携により現職。

 

 

Text by Yukiko Ushimaru
Photography by Toshiyuki Furuya

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