ジャン・ジョルジュと言えば、「卵黄とキャビア」の前菜だジャン・ジョルジュと言えば、「卵黄とキャビア」の前菜だ

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グルメ最前線 トップレストランを探訪する

2024.2.7

京都でフレンチの巨匠ジャン-ジョルジュ クリエイティブ・フレンチの絶品を味わう

ジャン・ジョルジュと言えば、「卵黄とキャビア」の前菜だ.

 




ニューヨークのミシュランスターシェフ、ジャン・ジョルジュ・ヴォンゲリステンは、モダンフレンチの巨匠として知られる。彼が監修するレストランが「Jean-Goerges at The Shinmonzen(ジャン・ジョルジュ アット ザ・シンモンゼン)」である。この有名シェフを招聘したのは、京都・祇園のホテル「The Shinmonzen」だ。彼の料理のベースはフレンチだが、バンコクのマンダリン・オリエンタルを皮切りにアジアでの経験が長いことから、フレンチ・アメリカン・アジアンを巧みに融合させたところにその最大の特徴がある。
そして、ジャン-ジョルジュの技と精神を完璧に継承し、2023年3月のオープンに際して、当レストランに任命されたのが女性総料理長のハナ・ユーン氏だ。






女性総料理長のハナ・ユーン氏。ニューヨークでジャン・ジョルジュの右腕だった。 女性総料理長のハナ・ユーン氏。ニューヨークでジャン・ジョルジュの右腕だった。

女性総料理長のハナ・ユーン氏。ニューヨークでジャン・ジョルジュの右腕だった。






「京都・祇園という伝統と創造性、芸術性が交差する土地で、京都と日本にある最高の旬の食材を使って創作できることが何よりも嬉しい」と、彼女は話す。

 

レストランはオープンキッチンで、ライブ感が楽しめるカウンター席とテーブル席に、個室も1つある。

 





カウンター側から見たレストラン全景。 カウンター側から見たレストラン全景。

カウンター側から見たレストラン全景。






前菜の雲丹、マグロ、トラウトに舌鼓

 

コース料理は大体2~3カ月ほどで内容が変わる。ジャン・ジョルジュも季節ごとに来日しては、新メニューの構築の指揮を執るという。実際のディナーを紹介する。今回は「テイスト・オブ・ウィンター6コース」で、ワインのペアリングはお任せだ。
まず、シャトー・ラ・コストのスパークリングワイン「ラ・ビュール」で乾杯した後、登場したのは自家製焼きたての「バターミルクビスケット」とブルターニュ産の「ボルディエ」バターだ。最高品質の発酵バターは塩味と旨味に優れ、焼きたてサクサクのビスケットとバターの相性が最高に良い。






前菜3種は世界共通だが、ウニは日本の最高品質。 前菜3種は世界共通だが、ウニは日本の最高品質。

前菜3種は世界共通だが、ウニは日本の最高品質。





続いて世界共通で供されるアミューズ・ブッシュで、写真左手前から「雲丹、柚子、セラーノチリ」には、日本最高の品質を誇る北海道「小川のうに」を使用。甘く濃厚な雲丹の中を、柚子とチリが爽快な刺激を走らせる。真ん中の「マグロ、ジンジャー、アボカド」は、細いリボンのように縒(よ)ったマグロにアボカドを組み合わせ、ジンジャー風味をつけたものだ。ねっとりしたマグロとアボカドのコンビネーションがいい。右が「トラウト、ライス、マヨネーズ」は、クリスピーに焼いたマヨネーズライスの上に新鮮なトラウトが載っている。見た目は握り寿司である。いずれも日本料理をフレンチで解釈し直したような品々だ。

 

卵黄とキャビアに悶絶






ジャン・ジョルジュを代表するキャビアの前菜。 ジャン・ジョルジュを代表するキャビアの前菜。

ジャン・ジョルジュを代表するキャビアの前菜。








2品目は、これまたジャン・ジョルジュを代表する前菜の「エッグトースト、キャビア、ハーブ」。卵黄のコンフィを半分に切ったものをトーストで挟み、その上にディルとシブレットで緑を敷き詰め、さらにフランスのフレッシュなキャビアをこんもりと盛った一品。香ばしく濃厚な卵黄に、キャビアの塩味が混ざり合い、口中で2種の卵の旨味が溢れかえるのだ。合わせたのはアルゼンチンの白ワイン「Andillian(アンディリアン)」だ。







帆立の前菜は旨味の三重奏だ。 帆立の前菜は旨味の三重奏だ。

帆立の前菜は旨味の三重奏だ。







メイン前の「帆立、蕎麦、黒トリュフ」は、蕎麦粉で作ったガレットにサワークリームを塗り、生の帆立を載せたものだ。ガレットの薫香と生の帆立の甘味の上に、黒トリュフの芳香が重なる。つまり旨味の三重奏である。クリスピーなものと柔らかいものが混じり合う、その食感は愉楽そのものだ。五感が動かされる一品で、とても美味しい。

 

フィナーレの黒毛和牛の素晴らしさ






上質な半生サーモンを出汁で。 上質な半生サーモンを出汁で。

上質な半生サーモンを出汁で。






メインの一品目の魚料理は、「信州サーモン、椎茸、根セロリ」。半生にボイルした上質な養殖サーモンに、炊いたシイタケと根セロリと黒ゴマのピュレを合わせ、最後にユズの香るカツオ出汁をかけるというとても凝った品である。日本人が慣れ親しんだ各パーツの味が、相乗効果をもたらす。合わせたのは白の「シャトー・ラ・コスト」。






黒毛和牛のフィレは圧巻だ。 黒毛和牛のフィレは圧巻だ。

黒毛和牛のフィレは圧巻だ。






フィナーレを飾るのは「和牛フィレ、パースニップ、味噌」だ。京都の黒毛和牛にパースニップ(白ニンジン)のピュレを添えて、最後に味噌のソースをかけたものだ。和牛の焼き具合が素晴らしく、パースニックはジャガイモのように甘く、味噌ソースという発酵した辛味が肉に合うことには驚いた。付け合わせの焼いた芽キャベツも美味しい。まことに大団円を飾るのに相応しい品だった。合わせた赤の「シャトー・ラ・コスト」は、余韻が実に長い。





イチゴのバリエーションに心躍る。 イチゴのバリエーションに心躍る。

イチゴのバリエーションに心躍る。





最後のデザートのイチゴ尽くしが嬉しい。フレッシュなイチゴ、イチゴのジュレ、イチゴのソルベ、ホワイトチョコレートの中にイチゴのジュレ、周囲にはラズベリーにブルーベリーにエルダーフラワー。イチゴのバリエーションと様々なフレーバーが混合したとても楽しくも美味しいデザートだった。
ニューヨークからレシピが届くとはいえ、調理の腕がなければ美味しいものにはならない。その意味で、随所にハナ・ユーン総料理長の腕の冴えを感じた。
味は言うに及ばず、上質な雰囲気、スタッフのサービスの高さ、3000本のワイン。やはり、総合力がモノをいう時代なのだ。宿泊せずとも、レストランだけの利用が可能なのは喜ばしい限りである。京都の一夜をぜひともこのレストランに充(あ)てたいものだ。

 

京都で最高にラグジュアリーなホテル

 

「The Shinmonzen」は、南仏プロヴァンス地方にある広大なワイナリー「シャトー・ラ・コスト」の中心部に位置する「ヴィラ・ラ・コスト」の姉妹ホテルとして2021年に開業した。わずか9室のオールスイートを備える、京都でもトップクラス――いや、随一と言っても過言ではない――のラグジュアリーなブティックホテルだ。




周囲と馴染む墨色の板壁。 周囲と馴染む墨色の板壁。

周囲と馴染む墨色の板壁。




祇園の真っ只中の白川沿いにあり、10年以上の歳月をかけて、周囲の環境に溶け込むようにして作られた。表道路から眺めれば、墨色の板壁は古色蒼然としており、街並みとしてまったく違和感がない。建築を手掛けたのは安藤忠雄氏である。

 

このホテルの魅力を5つに要約する。

 

1.建築・インテリアのセンスが素晴らしい。古材を使用することはもちろん、ゲストルームのテーブルやソファ、ベッド、檜風呂、室内灯にいたるまで、それぞれのセンスが心憎いほどだ。全室に川を望むバルコニーがついている。




極楽なベッド。全室にバルコニー付き。 極楽なベッド。全室にバルコニー付き。

極楽なベッド。全室にバルコニー付き。




2.究極のホスピタリティ。ゲストが新幹線で来る場合には、京都駅のホームまで出迎えがある。ホテルに入ればスタッフがゲストの名前を呼んでくれることだけでも嬉しいものだ。しかも、スタッフの数が多いから、対応が機敏だ。ターンダウンサービスでは、リクエストがあれば檜風呂にお湯を張ってくれる。

 

3.環境の良さ。祇園の真ん中にありながら極めて静寂。客室のバルコニーからは遠くに東山、眼下には白川が流れる。オーバーツーリズムの喧騒とは無縁である。




レセプションもアートの数々が囲む。 レセプションもアートの数々が囲む。

レセプションもアートの数々が囲む。

 




4.アート好きにはたまらない。ビリオネアでもあるホテルオーナーは、現代アートのコレクターだ。ダミアン・ハーストは友人だし、ルイーズ・ブルジョワ、マーク・ニューソン、杉本博司……等々、ホテル内に飾られたモダンアートはまさにミュージアムのよう。ホテル内のアートツアーがあり、また古美術店90軒が並ぶ新門前通りを巡るアートツアーも、ともに無料(1時間)で行ってくれる。

 

5.飲食が出色である。ジャン・ジョルジュについては縷々述べたが、宿泊者は彼の朝食を食べられる。世界中で、ここ以外にロンドンの名門ホテル「コノート」だけでの特典だ。それ以外にも、サイフォンコーヒー日本チャンピオン(世界大会2位)のバリスタ・矢橋伊織氏がスタッフにいるので、彼がブレンドしたサイフォンコーヒーを目の前で淹れてくれる。

 

至れり尽くせりとはこのことだろう。まさに夢のような滞在は唯一無二で、リピーターが途切れないのも当然と思われる。

 

Photography by Hiro Matsui

 

 

Jean-Goerges at The Shinmonzen

京都府東山区新門前通西之町235
TEL:075-600-2055
E-mail :jg@theshinmonzen.com
営業時間:18:00~23:00(ラストオーダー21:00)

「テイスト・オブ・ウィンター6コース」22,000円(税サ込)

文:石橋俊澄
Toshizumi Ishibashi

慶應義塾大学大学院文学部フランス文学科修士課程修了後、文藝春秋入社。「クレア・トラベラー」、「クレア」、「増刊ムック編集部」で編集長を歴任、最終は編集委員。私財での海外グルメ旅行は数知れず、また、5年間に及ぶ「クレア・トラベラー」時代には、30カ国余で最上の食巡りをする。公私にわたる食体験で衝撃を受けた店を7つ挙げれば、フランス・マントン「ミラズール」、パリ「エピキュール」、スペイン・ジローナ「エル・セジェール・デ・カンロカ」、イタリア・ソレント「トッレ・デル・サラチーノ」、香港「大斑樓」と「アンバー」、東京「セザン」。現在、食・ホテル・旅館から歴史・医療・ビジネスもののエディター兼ライター。

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