一休寺 枯山水庭園一休寺 枯山水庭園

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古寺と茶文化を京都に訪ねて(前編)

2022.2.25

冬にこそ本当の京都がある。京都・南山城へ、まだ見ぬ古寺を訪ねて



桜の。青葉の。紅葉の。季節ごとに美しい姿を見せる京都は、日本人のみならず、世界中の人々を魅了するものである。では、冬の京都はどうだろうか。京都上級者こそ、冬に訪れるべきである。特に古寺を訪ねるなら、あえて冬の京都を勧めたい。

 

そこにあるのは、私たちが思い描く京都そのものである。厳かな静けさの中で、時を忘れて仏像と対峙し、心ゆくまで過ごす時間がそこにはあるのだ。京都の南部・南山城は、京都府下では京都市内に次いで国宝や重要文化財を擁するエリア。レンタカーやタクシーチャーターなどを使えば、魂が洗われるような冬の京都・南山城エリアの古寺にも気軽にアクセスできる。今こそまだ見ぬ古寺を訪ねてみよう。



海住山寺
茶畑を越えて、りりしい五重塔の寺を訪ねて

 

京都市内から車を走らせること1時間ほど。点在する茶畑を縫って進み、傾斜のきつい山道を登りきるとやっと山門が見えてくる。海住山寺(かいじゅうせんじ)は、天平七年(735)、聖武天皇の命により、良弁僧正によって創建された古刹である。

 

京都の総菜を指す言葉「おばんざい」を世に広めたことで知られる、1980年代に活躍したエッセイスト大村しげは、海住山寺を愛したひとりだ。彼女のエッセイ集『静かな京』では、海住山寺に一章を割き、訪れたときの様子を記している。山道を自力で歩き、十一面観音に天平の面影を追い、松林を背にして建つ五重塔のきりっとした姿に見とれている。なにより豊かな自然と静けさを気に入っていたようだ。

 

「梅が咲く。桜が咲く。それが過ぎたら、さつきが咲いて、そのころのさわやかに青い楓は、秋には錦の幕を張ったように紅葉して、やっぱり、ここは観音浄土の地やろうか。一日ゆっくりと、生命のせんたくをするのには、格好のお寺さんである」とベタ褒めなのだ。



五重塔 五重塔

国宝の五重塔は鎌倉時代のもの。総高17.7mと小ぶりだがすっきりとした姿が美しい。京都駅近くの東寺の五重塔の1/3ほどの大きさだという。



1万坪の境内に配置された国宝の五重塔や重要文化財に指定された文殊堂、山門、本堂、本坊、鐘楼、奥の院、薬師堂、納骨堂、春日大明神など拝観しつつ、散策するのもいいだろう。

 

なにより、冬の海住山寺には、冬だからこそ出会える自然美がある。境内の裏手を少し上がり、山々を見渡せば、大村しげが「一日ゆっくりと、生命のせんたくをするのには、格好のお寺さん」と記した気持ちがわかる気がする。澄み切った空気に差す冬の陽がきらきらとして、今少しだけ、時が立ち止まるのを感じるようだ。

 

 



海住山寺 海住山寺

冬の海住山寺は人も少なく、心おきなく拝観することができる。



海住山寺からのながめ 海住山寺からのながめ

本堂の裏からの眺め。木津川の向こうに続く山並みが冬の陽に浮かび上がる。

海住山寺

京都府木津川市加茂町例幣海住山20
拝観時間:9時~16時30分
拝観料:本堂内拝観(本尊重文十一面観音菩薩、他) 500円(入山料を含む)
※ハイキング・写真撮影・散策等の方は入山料1名100円
※特別展期間中は別料金



浄瑠璃寺
長閑な時間が流れる、九体仏のおわす古寺

 

界隈に住まう猫たちがのんびりと昼寝しているのを横目に、山門までの細い参道を歩けば、山里の雰囲気にほっと心が和む。可愛らしい赤い実をつける南天の植込みや、かやぶき屋根の茶店などを通り過ぎると見えてくるのが浄瑠璃寺である。

 

 

浄瑠璃寺は別名九体寺とよばれる。その理由は九体の阿弥陀如来坐像を擁することからである。平安時代は、九体の阿弥陀座像をまつる堂が多く建立されたが、現存するのはこの浄瑠璃寺だけ。長い歳月の中、戦乱などに巻き込まれ、多くの九体の阿弥陀座像は失われていってしまったのだ。当時の浄土思想の隆盛を今に伝える貴重な仏像である。



阿弥陀如来坐像 阿弥陀如来坐像

「九体阿弥陀如来坐像」が常時拝観できる本堂内部。ひときわ大きい中尊を中心に、個性豊かな8体が並んでいる。12世紀はじめに作られた阿弥陀像は、随時2体が修理に。本堂も阿弥陀如来もともに国宝。



取材時は、秘仏 吉祥天女立像の厨子が特別開扉されていた。鎌倉時代の作と伝えられている美しい天女像は重要文化財。



三重塔 三重塔

平安時代後期に作られたとされる三重塔は、京都市内から移されたと伝わる。

うっすらと入る外光で、ほの暗い本堂の中におわす阿弥陀如来のお姿が浮かび上がる。寒さを忘れてそのお姿を見つめ、手を合わせる。何を祈るでもない、ただ限りない慈悲に抱かれていることの安心感にひたる。できれば、この静かな時間が許される人の少ない午前中に訪れてみたい。

 

 

池を中心に、西に本堂、そして東に三重塔が配置されている。いずれも国宝である。特別名勝に指定されている庭を散策したあとは、参道の茶店で蕎麦などを食し、山里の雰囲気にひたれるのがいい。ほっこりと、この静けさを存分に享受できるのが、冬の京都の贅沢である。



庭 庭

浄瑠璃寺

木津川市加茂町西小札場40
開門時間:9:00~17:00
※本堂拝観受付は16:30まで(12月~2月は10:00~16:00、本堂拝観受付は15:30まで)
拝観料:400円(中学生以上)



酬恩庵 一休寺
枯山水庭園に憩う、一休さんの寺

 

日本人、いや、アニメを通じて世界中に知られる一休さん。その一休さんこと一休宗純(いっきゅうそうじゅん)が晩年を過ごしたのがこの酬恩庵  一休寺である。この寺に住まうことになったのは室町時代中期、1456年(康正2年)63才のころ。81歳で大徳寺の住職になってからもこの寺から通い、88歳で亡くなるまでの25年間の長きを過ごした。

 

 

酬恩庵 一休寺は、枯山水の美しい庭が有名だ。縁側に座し、方丈から眺める枯山水庭園はすがすがしい。南庭、東庭、北庭と、それぞれ異なる景色を時間をかけて対峙していくひとときに、心が満たされていくのを感じるだろう。修行時代の一休さんの像や「このはしわたるべからず」のとんちのシーンを模した橋などが配置されている境内を歩くのも楽しい。緑豊かな境内は、どの季節に訪れても心を奪われる。



枯山水 枯山水

方丈から眺める枯山水。



毎年9月には薪能を開催している。金春禅竹や音阿弥などの能楽師が一休宗純に教えを請うためによく訪れていたこと、観世流三代音阿弥、十五代元章、十九代清興の墓所もあり、能ともゆかりが深い寺なのだ。そもそも地名である薪(たきぎ)から、薪能とよばれるようになったといわれている。

 

 

本堂の喫茶スペースではお茶どころ京田辺のお茶や、一休禅師が名付けたといわれるお善哉がいただけるのもうれしい。時間の余裕を持って訪れたい。

一休寺 本堂 一休寺 本堂

本尊釈迦如来坐像、文殊普賢菩薩像が安置されている本堂。永享年間に室町幕府六代目将軍足利義教公の帰依により建立された、山城・大和地方の唐様建築中で最も古い建造物といわれる。秋の紅葉は見事。



一休さん 一休さん

境内には修業時代の一休さん像や石仏などがあり散策するのにもぴったり。

酬恩庵 一休寺

京都府京田辺市薪里ノ内102
開門時間: 9:00~17:00 ※ 宝物殿は、 9:30〜16:30
拝観料:大人 500円、高校生400円、中学生300円、小学生200円



萬福寺
普茶料理の美味しさと禅の精神に触れる寺

 

広い境内の奥に見えてくるダイナミックな伽藍は、どこかエキゾチックな雰囲気。それもそのはず、萬福寺は中国 明代の高僧、隠元隆琦禅師によって建立されたお寺だ。

 

天王殿に足を踏み入れると、黄金色に輝く、ふくよかなほていさまが目の前に。中国の寺院ではこのスタイルが普通なのだという。卍の意匠の勾欄、アーチ形の天井、円形の窓、扉に彫られた桃の実の飾りなど、日本の寺院とは異なる様式が随所に見られる。



法堂 法堂

重要文化財である法堂(はっとう)。須弥壇上の額「法堂」は隠元の書である。法堂正面の勾欄は卍くずしの文様となっている。



建築様式以外にも、隠元禅師は様々なものを日本へ伝えた。名前からもわかるように、インゲン豆、スイカ、レンコンなどの野菜類、そして中国風の精進料理「普茶料理」ももたらした。普茶とは「普く(あまねく)大衆と茶を供にする」という意味。萬福寺では青磁の大皿に盛られた料理をみんなで分け、席の上下の差もなく集い、楽しく食するのがその精神だ。萬福寺を訪れるなら、普茶料理を食してほしい。

 

若いアーティストのためにアトリエと作品を展示するスペースを提供するアーティストインレジデンスや、カフェスペースを設けるなど、萬福寺は開かれたお寺を目指しているのも特色のひとつ。中国風の様式美や普茶料理、そしてアーティストインレジデンスなど、隠元禅師が体現した進取の気性を忘れないお寺だ。

 



普茶料理 普茶料理

筝羹(シュンカン/旬の野菜や乾物の煮物など盛り合わせ)、麻腐(マフ/胡麻豆腐)、もどき(蒲焼やカマボコに見立てた料理)、油茲(ユジ/素材や衣自体に味がついた唐揚げに近い料理)など、調理法などや盛り付けが日本の精進料理とは異なり、めずらしいものばかり。本来は青磁の大皿に人数分を盛付け、皆で和気藹々と食すのものだが、現在感染症対策のため、1人分ずつお弁当形式で紹介している。昼食のみ。3日前の午前中までに予約を。


木魚 木魚

斎堂(食堂)前の回廊に吊されている大きな木彫りの魚は、木魚。食事の時間を知らせるために用いている。どこのお寺にもある木魚の原型も隠元禅師がもたらしたもの。木魚を突いてくれたのは萬福寺の吉野弘倫さん。


アーティストインレジデンス アーティストインレジデンス

萬福寺の新しい試み、アーティストインレジデンス。若いアーティストに自由に創作できるアトリエと展示スペースを提供している。すぐ横にはカフェスペースも。

萬福寺

京都府宇治市五ケ庄三番割34
開門時間: 9:00~17:00  ※受付は16:30まで
拝観料:大人 500円 大学生・高校生 500円、中学生・小学生300円

 


京都市内から車で30~1時間ほどのドライブで行く南山城エリアは、京都好きでもなかなか深堀りできていない場所のはず。里山の景色の中で巡り合う由緒ある古寺の数々は、ぜひ訪れてほしい場所だ。京都府の南部のエリアの観光情報、アクセス情報などは一般社団法人京都山城地域振興社(お茶の京都DMO)が便利。詳しい南山城エリア情報が得られるから、自分だけの旅をプランできる。後編は茶畑をめぐり、茶どころとしての京都を訪ねる。

Photography by Noriko Kawase

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