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「マイスターストラーセ日本版」 未来へ駆ける伝統工芸の匠たち

2021.10.11

竹定商店 竹の育成から製品づくりまで、一貫して行う竹のエキスパート

世界の伝統工芸を紹介するウェブサイト『マイスターストラーセ 日本版』に参加する匠たち。今回は、竹の育成から製品造りまで一貫して行っている竹定商店を紹介する

京都の町家をはじめ、料亭やレストラン、ホテル、また住宅などに見られる様々な竹垣。竹定商店は、京都の美しい景観のひとつともいえる、竹を育て、加工までを行う老舗である。

 

 

 

 


創業144年、竹の一生に寄り添う職人たち

 

観光名所、京都・嵐山に近い太秦に竹のすべてを取り扱う老舗がある。それが1877(明治10)年創業の竹定商店だ。こちらの強みは、竹の育成から、竹林の管理、竹製品の製造までを一貫して行う点。彼らが手掛ける製品は、お箸やカゴといった小さなものから、寺院や庭園の竹垣まで、竹にまつわるものならなんでもござれ。有名なお寺の竹垣も多数手掛けているので、私たちも京都観光で、知らない間に目にしているに違いない。さらに5年ほど前からは、建物の内装用の特注品制作を始めるなど、積極的に新しい取り組みも行っている。


竹定商店6代目の井上定治さん。現在は営業部長を務めている。 竹定商店6代目の井上定治さん。現在は営業部長を務めている。

竹定商店6代目の井上定治さん。現在は営業部長を務めている。


今回、竹定商店6代目の井上定治さんの仕事を拝見することができた。後をついて昼でも薄暗い竹林に分け入ると、彼はそびえ立つ竹の太い根元にのこぎりを入れた。慣れた手つきで竹を伐り終えるやいなや、軽く傾いたそれを持ち上げ、素早く前へ歩き始める。すると竹は自重で後方へ傾きはじめ、葉音を立てながら横倒しになっていく。井上さんにとっては、これが日常。とはいえ、その一連の動きは、初めてみるものにしてみれば、まさに職人技。

 

 

「竹林に入ったときに、竹に囲まれている感じが一番いい」と竹の魅力について井上さんはいう。

伐り終えた竹を素早く抱えると、前へ進み、竹の自重を利用して緩やかに横倒しにする。 伐り終えた竹を素早く抱えると、前へ進み、竹の自重を利用して緩やかに横倒しにする。

伐り終えた竹を素早く抱えると、前へ進み、竹の自重を利用して緩やかに横倒しにする。


増える放置竹林をどうすれば活かせるのか?

 

そんな彼がいま熱心に取り組んでいるのが放置竹林の再生である。現在、伐り子(竹を伐る職人)の減少とともに、竹の供給が減る一方で、放置竹林が増えている。

 

 

「竹は成長速度が速く、一年で大きく育ちます。樹木と同じ場所では、ほかの木々の光合成を妨げ、生態系が破壊されるのです。また、根を生やし、田畑が浸食されてしまうこともあります。増えすぎた竹を伐ることで、周囲の光合成を促し、またCO2の削減にも貢献できるのではないか。そんなことも考えています」。


工房内には、洗い上げて磨かれた無数の竹が立てかけられている。 工房内には、洗い上げて磨かれた無数の竹が立てかけられている。

工房内には、洗い上げて磨かれた無数の竹が立てかけられている。


まさにサステナブルな竹林の再生

そこで、考えたのが、地域の人々に竹を伐るノウハウを伝えてそれを適正な価格で買い取る活動。うまくいけば、将来、竹の供給を安定させられるとともに、伐り子になった人に新たな収入源を確保できる一石二鳥の策といえる。また、竹を伐ることで、樹木と竹の共存もできるというのが、井上さんの考えだ。現在、放置竹林再生の活動は1カ所で行っており、今後はさらに拡大し、伐り子を増やしたいとのこと。

 

 

竹の一生を見届ける、昔ながらの仕事を続けつつ、未来を見据えて次の一歩を踏み出す姿は、いまさかんに叫ばれるサステナブルそのものに思える。古くから、日本人の文化にも密接であった竹と人の新しい関わりが、次の時代に向かって、いま動き始めている。



Text by Tsuyoshi Kawata

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