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古寺と茶文化を京都に訪ねて(後編)

2022.3.25

茶どころ・京都へ 香り豊かな茶文化に触れる京都旅



京都は言わずと知れた茶どころ。京都府内には有名な茶商も多く、あちこちでお茶やお茶を使ったお菓子などを楽しむことができる。でも京都上級者なら、ほんの少し足をのばして、京都の茶文化に触れるショートトリップはいかが? 茶畑の深い緑に、香り高い味わいに、新たな発見がいっぱい。豊かな自然に育まれた茶どころ・京都を探検してみる。

 



どこまでも続く、山並みと茶畑
茶どころの町・和束

 

どうしても一度は、茶畑をこの目で見てみたい。そう思っている方は多いだろう。和束町を訪れればその思いは叶う。それも、想像を大きく凌駕するかたちで。

 

京都市内からは車を飛ばして1時間ほどで和束町にたどり着く。この地が開墾され、お茶が栽培されるようになって800年の歴史を誇る町だ。車で和束町の中を走れば、いたるところに茶畑を見つけ、思わず歓声を上げる。車窓から見える景色に、子どものように夢中になってしまうのは、わずかなスペースにも、そして、山々のきつい稜線の、そのまた向こうの山の斜面まで、緑濃い茶畑が連なっている様子に驚かされるからだ。

 

 

お茶の木は常緑樹。茶畑は季節問わず深い緑で彩られている。4月後半から7月くらいかけては茶葉を直射日光から守るためにシートに覆われていることもあるが、夏以降、秋、そして冬に訪れても、美しい茶畑を見ることができる。



安積親王陵墓(あさかしんのうりょうぼ) 安積親王陵墓(あさかしんのうりょうぼ)

別名太鼓山と呼ばれる小高い丘の中央が、安積親王陵墓(あさかしんのうりょうぼ)。聖武天皇の皇子だった安積親王をお祀りしている。その周囲をぐるりと茶畑が囲む。茶畑に入らないように、注意しながら見学してほしい。通りをはさんですぐ近くに、和束町の生産者のお茶の直売所「和束茶カフェ」もありにぎわうエリアだ。



和束 石寺の茶畑 和束 石寺の茶畑

どこまでも続く茶畑は、まさに圧巻の眺め。いつまでも見とれてしまう「石寺の茶畑」。京都府の景観資産登録地第1号にも選ばれている。その他、安積親王陵墓からも近い「釜塚の茶畑」、傾斜の険しい山あいの「白栖・撰原の茶畑」など、見比べても楽しい。

 



日本茶製法の歴史を変えた男
永谷宗円の生家を訪ねる

 

中国から日本へお茶がもたらされたのは奈良時代の頃。お茶を嗜むのは長いこと、高僧や貴族、武士などに限られてきた。庶民も日常的にお茶を口にするようになるのは江戸時代に入ってのこと。それも簡単な製法で煮だして、赤黒い色のものを飲んでおり、見た目も味わいも、決して良いものではなかった。

 

それを覆したのが永谷宗円だ。その生家を訪ねると、宗円が考案した焙炉(ほいろ)と呼ばれる器具を見ることができる。元文3年(1738年)、焙炉で茶葉を手揉み乾燥させる青製煎茶製法(宇治製法)を編み出し、美しい緑色で、さわやかな味わいを表現することを可能とした。現在の日本茶への大転換点だったのだ。



永谷宗円生家 永谷宗円生家

復元された生家の内部には、製茶道具や当時の焙炉跡が保存されている。



永谷宗円生家内部 永谷宗円生家内部

永谷宗円生家

京都府綴喜郡宇治田原町大字湯屋谷小字空廣
見学時間:10時~16時(土曜、日曜、祝日のみ)
維持管理協力金:100円
※駐車場はないため、宗円交遊庵やんたんの駐車場を利用。徒歩14分ほど。



お茶を楽しむ
茶農家が営む、農家民宿だからできる体験

 

和束町で代々続く茶農家・北家が営む「茶農家民宿 えぬとえぬ」。自宅の古民家を改装し2017年にオープンした。民宿を営んでいる今も現役の茶農家で、24種類のお茶の木を栽培しているという。古民家はどこか懐かしく、まるで田舎の親戚の家を訪れたようだ。

 

食事を担当するのは若女将・紀子さんである。菜の花をお茶で蒸して一晩昆布しめにしたり、自家製なますにお茶がらと干し柿を和えたり、碾茶と三つ葉の天ぷらなど、ほとんどのお料理に自園で採れたお茶を使っている。どの食材ともお茶との相性はぴったりで、箸が進む。



えぬとえぬの料理 えぬとえぬの料理

先付けの数々。食材とお茶がマッチしてどれも美味しい。



食事の後は「茶歌舞伎」にトライした。「茶歌舞伎」とは平安時代からある、お茶を当てるゲームのことで「闘茶」ともいう。数種類の茶葉の香りを聞き、記憶する。そして実際に淹れたお茶を飲み、どれがどのお茶か当てるのを競うものだ。味や香り、お茶の色(水色という)を観察しながら、どのお茶か推理していくという、優雅なゲームだ。

 

「茶歌舞伎」でお茶を淹れていただきながら、普段自分でお茶を淹れるときのお湯の温度が高すぎることに気づく。一服目は70度ほどでよい。香りも味も普段飲んでいるお茶とはまるで違う。二服目は90度で淹れる。お茶の表情が一服目とは異なるが、またこれも美味しい。

 

自園の茶畑で茶摘み体験、茶畑のウォーキングツアーなど、茶農家だからできるエクスカーションも魅力。楽しみながらお茶を学び、触れることができる農家民宿である。



茶歌舞伎 茶歌舞伎

お茶の種類は伏せられ、「花」、「鳥」、「月」と仮の名前が付与されている。


農家民宿 農家民宿

よく手入れされた古民家を民宿にリニューアル。茶畑もすぐ近くにある。

若女将 紀子さん 若女将 紀子さん

お料理を一手に手掛けるのは若女将の紀子さん。

茶農家民宿 えぬとえぬ
京都府相楽郡和束町中菅谷30
080-3867-8884
電話が繋がりにくい場合はメールで問い合わせを。enutoenu@gmail.com
1泊2食付き    13,800円
1泊朝食付き  9,900円(いずれも税込)
※茶摘み体験、茶歌舞伎などエクスカーションは別料金。
※ランチ3,850円、ディナー5,500円だけでも利用可。要予約。(いずれも税込)



さわやかで素直な味わい
堀井七茗園で宇治茶を堪能する

 

和束町を後にして、多くの有名な茶商が集まる宇治へと向かい、堀井七茗園を訪ねた。室町時代、足利義満が制定した7か所の茶園のひとつ、「奥ノ山」の茶園を今も守る老舗である。7か所あったと伝わる茶園だが現存するのはこの「奥ノ山」だけ。当時と変わらぬ伝統栽培で、創業以来守り抜いてきた。

 

現在、多くの茶畑の木はもこもこと丸く刈られているが、それは機械で刈り取っているためだ。「奥ノ山」では、昔ながらの手摘みだから、茶木は上へ上へとまっすぐ伸びている。周囲は住宅街に姿を変えたが「奥ノ山」茶園は650年以上経った今も変わらない。

 

堀井七茗園六代目当主の堀井長太郎さん自ら「奥ノ山」茶園が育んだ碾茶「成里乃(なりの)」を淹れていただいた。「成里乃」は合組(ごうぐみ。ブレンドのこと)をしない、シングルオリジンのお茶だ。飲んでみると、淡い水色からは思いつかないほど、口腔に濃厚な旨味と香りが広がり、鼻へ抜け、身体全体が香りに包まれる。すーっとのどへと落ちていく感覚は、五月の風のように和やかだ。

 

「宇治茶の特徴は素直であること。のどごしがよく、バランスの取れた味わいを大切にしています」と堀井さんは言う。素直で、気立てが良く、気品がある。そんな、さわやかな薫風のような宇治茶に魅了されたのだった。



奥の山の茶園 奥の山の茶園

室町時代から続く「奥ノ山」茶園。茶園の土壌は、やわらかく、ふわふわしていることが大切だという。碾茶「成里乃」はこの茶園で育つ。



堀井さんがお茶を検査する様子を特別に見せてくださった 堀井さんがお茶を検査する様子を特別に見せてくださった

堀井さんがお茶を検査する様子を特別に見せてくださった。茶葉の色、形、水色というお茶の色も見るため、自然光がたっぷり入る場所で、午前中に行う。


お茶の検査 お茶の検査

それぞれの茶葉を茶碗に入れ、お湯を注ぎ、水色などを見る。



堀井長太郎 堀井長太郎

茶葉を入れた茶碗にお湯を注ぎ、スプーンですくい、色、香り、味を確かめていく堀井さん。堀井七茗園のお茶はすべて、堀井さんが検査、味を決めていく。「それが当主の役目であり、責任です」と語る。

 



堀井七茗園
京都府宇治市宇治妙楽84
(0774)23-1118(代)
営業時間:8時30分〜17時30分
不定休
※奥ノ山茶園案内と抹茶「成里乃」一服ご賞味  13,300円で体験可能。詳細は事前に電話にて問い合わせを。

茶どころならではのティーペアリングを追求する
リストランテ ナカモト

 

 

JR 木津川駅のほど近くにある「リストランテ ナカモト」は、京都はもとより、近畿圏外からも足を運ぶファンの多い、人気のイタリアンレストラン。茶どころならではの本格的ティーペアリングがすごい、という評判を知り、ぜひ訪ねてみたかったレストランだ。

 

昨今、ティーペアリングを実施しているレストランは多いが、有名ティーマスターのブレンドしたボトルドティーを料理に合わせて提供するという形態を取っているところが一般的かもしれない。しかしここでは、仲本シェフ自らが料理に合わせて茶葉の選定から、ブレンド、どのように淹れるのかまで研究し、創り上げているのだ。



ティーペアリング ティーペアリング

ワイングラスに注がれるお茶を固唾をのんで見つめる瞬間。


ティーペアリング ティーペアリング

芳醇な大地を感じさせるサラダ「季節の野菜の一皿」は木津で採れた約30種類の野菜を、碾茶の水出しとともに。木津のテロワールをサラダとお茶で堪能する。


ティーペアリング ティーペアリング

「鹿児島から届く、尾長鴨」にほうじ茶ベースのお茶を合わせて。


料理とのマリアージュを考え、カルダモンやバニラビーンズなどのスパイスや、クランベリー、トロピカルフルーツを加えたものなど、お茶の種類も、色も、味わいも、そのバラエティの豊かさに驚くほど、様々なタイプのお茶がサーブされる。

 

「ここは茶どころですから、ティーペアリングはやってみたかったことのひとつでした。お茶を仕事にしている、信頼できる人と知り合って、こんなお茶があるよ、こういう生産者さんがいるよ、と紹介してくれるので、試行錯誤しています」。

 

碾茶、阿波番茶、かぶせ茶、抹茶、ほうじ茶、和紅茶など、あらゆる茶葉を用いて、日々研究する。スパイスやフルーツを合わせたり、水だしの時間を変えてみたり。自由な発想で「ナカモトの料理に合わせるティー」を創り上げていく。うまくいくこともあれば、失敗もある。しかし、この過程のすべてが仲本シェフの表現であり、結晶なのだ。

 

アペリティーヴォからドルチェまで、驚きとともにサーブされ、その一皿、グラスごとのお茶に、歓声を上げてしまうような体験がある「リストランテ ナカモト」。今、絶対に行くべきレストランである。

 

仲本章宏シェフ。 仲本章宏シェフ。

仲本章宏シェフ。フィレンツェのエノテカピンキオーリ、ニューヨークや東京での経験を経て、2011年出身地である京都・木津に「リストランテ ナカモト」をオープン。「お茶は生き物と同じ。抽出時間や、温度、サーブするまでの時間などで鮮度が変わってくるので、日々研究です」と語る。

 

 

リストランテナカモト
京都府木津川市南垣外122−1
050‐3134₋3550
 ランチコース 12,000円/ディナーコース 20,350円 (いずれも税込サービス料別)
どちらもドリンクペアリング付き

 

茶畑の美しさに、お茶の歴史や味わいに、料理の素晴らしさにと、茶どころ京都の旅は、驚きの連続。京都市内の観光だけでは知りえない、もっと深い京都へとショートトリップしてみては。京都府の南部のエリアの観光情報、アクセス情報などは一般社団法人京都山城地域振興社(お茶の京都DMO) でぜひチェックを。

Photography by Noriko Kawase

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