日常03. MIKAKO NAKAMURAのコート「LUNA(ルナ)」

2017.11.11
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コート「LUNA」はMIKAKO NAKAMURAのブランド設立当時からのパーマネントコレクション。写真は真夏以外の3シーズン着用できるウールシルク素材、2018春夏シーズンのカラーのひとつネイビー。その他に定番カラーも揃う。「LUNA」 オーダー価格¥240,000(税別)/MIKAKO NAKAMURA (MIKAKO NAKAMURA 南青山サロン)03-6427-2435

 

 

日常03.

MIKAKO NAKAMURAのコート「LUNA(ルナ)」

 

 そのコートとの出合いは深く印象に刻まれています。

 2004年、MIKAKO NAKAMURAのブランド立ち上げに際して、私が当時仕事をしていた編集部に、キャラバンに来社してくださったプレス担当の方が目の前に広げたのは、着物を包むために使われる「たとう紙」と呼ばれる和紙に収められた、一着の美しいコートでした。

「使い捨てされる服は作らない。日本の着物と同じように、長きにわたりご愛用いただきたい、というデザイナーの思いをお伝えしたくて、たとう紙に包んで参りました」。

 「LUNA(ルナ)」と名付けられたコートは、MIKAKO NAKAMURAを代表するコートであり、デザイナーの中村三加子さんご自身も最も好きなコートだといいます。選び抜かれたメルトンカシミヤやシルクウールの上質な素材。顔と首のバランスが美しく映えるように計算されたネックライン。前から見ても横から見てもAラインを描く、立体感のある美しいフォルム。左右2つずつ配されたフラップの他は襟裳、ボタンも一切ないシンプルを極めたデザイン。袖丈は手がきれいに、腕が長く映えるバランスを幾度も作り直して研究したもの。コートにしては短めの着丈は、ジャケットとコートの中間ということで、「ジャコット」とも呼ばれています。ボタンの代わりに前を留めるステンレスフックは、手が触れたときに温かく感じられるよう、1点1点に糸が手巻きされているという細部へのこだわりーーー2004年のMIKAKO NAKAMURA設立と同時に発表された「LUNA」のデザインは、当時も現在も、そしてこれからも不変ということです。

 

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MIKAKO NAKAMURAの製品は100%日本製。デザイン同様に素材、縫製へのこだわりも強い。日本の文化でもある「織物」の文化技術を、途絶えさせることなく大切に受け継ぎたいという思いから、シグネチャーブランドであるMIKAKO NAKAMURA以外に中村三加子さんが手がけるデイリーウェアブランドの「M・Fil(エムフィル)」、ウエストゴムを使用したパンツのみのブランド「NUMBER M(ナンバーエム)」でも、可能な限りの国内生産を続けていきたいという。

 

 着物と違って洋服は、同じ形に見えても毎シーズン少しずつディテールやデザインが変わるのが常で、定番アイテムとして知られるトレンチコートやチェスターコートにおいても然り。しかし、MIKAKO NAKAMURAには「LUNA」の他にも、ブランド設立時から毎シーズン素材や色を変えて発表され続けている、デザイン不変の「パーマネントコレクション」と呼ばれるアイテムが12もあるといいます。

 中村さんは語ります。「服の美しさを考えてたどり着いた答えは、『less is more』。いかにデザインをしないか、という挑戦です。また、私の服作りの原点は素材づくり。選び抜いた最高の素材を使い、シンプルに仕上げることを大切にしています。主役はデザイナーでも服でもなく、着てくださるお客様ご本人。お客様と私の服が人生を共にするために、生涯おつきあいさせていただきたい。MIKAKO NAKAMURAの服がほつれたり、穴が開いたりしたときは、いつでもお持ちください。大切にお直し致します」。

 私もパーマネントコレクションのひとつである「SOPHIA(ソフィア)」の、深いパープルのカシミヤのライナーが付いた、ベージュのコットンギャバジンのベーシックなコートを持っています。10年以上愛用していますが、袖を通さない年はなく、今では体の一部のように馴染んできました。「どちらのコートですか?」と訊かれることもあるお気に入りの大切な一着ですが、このコートを選び、当時は目白にあったMIKAKO NAKAMURAのサロンで採寸した日のことをはっきりと覚えています。自分のサイズに近い「SOPHIA」のサンプルを羽織り、全身鏡でバランスを確認しながら、肩回りのサイズ感を調整し、最もきれいに見える着丈、袖丈がどこにあるのか、時間をかけて丁寧に採寸していきました。このブランドのコートが時を超える存在であり得るのは、完成度の高いデザインと選び抜かれた素材によるのはもちろんのこと、着る人それぞれに寄り添ったオーダーシステムに鍵があるのだと思います。

 注文してから仕上がるまでに要す時間は3か月。身長や雰囲気、どのようなシーンで着こなしたいかという顧客の希望を丁寧にくみ取りながら、素材や色を選び、身丈や袖丈、全体のバランスを調整するので、同じデザインの服であっても、装う人によって全く違う印象をもつ一着となります。それは、MIKAKO NAKAMURAの服が、「自分はこう着たい」、「こうありたい」という、自分自身の軸と尺度、そして意志を持った女性のためのものであることを意味するのかもしれません。20代で世界に出て活躍するバレリーナから、銀座で服を選ぶ80代の凛としたご婦人まで、年齢や職業で一括りにできないこのブランドの広い顧客層を知ったとき、私の予感は確信となりました。

 

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南青山のサロンはエントランスを入ってすぐM・FilとNUMBER M、奥がMIKAKO NAKAMURAのサロンとなっている。ダークなブラウンカラーを貴重とした店内はアンティークの家具やレザーソファが配されて落ち着いた雰囲気。コートはもちろん、スーツ、セットアップ、ドレス、ブラウス、シャツなどの美しいアイテムが揃う。

MIKAKO NAKAMURA 南青山サロン 03-6427-2435 mikakonakamura.com

 

 

写真 小澤達也

選・文 藤野淑恵

 

 

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト

「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、チーズ、ガンドッグ、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、保護犬/猫など。