日常04. アルフレックスで出合う笠間の陶芸

2018.01.05
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アルフレックスのLIFE with ART projectの一環である「VOICE」では、笠間と益子の作家をシリーズで紹介している。写真は『VOICE No.02船串篤司・Keicondo陶展 「Terra」』 より。「Terra」とはイタリア語で「土」を意味する言葉。陶芸家の二人には欠かせない素材であり、うつわに盛り付けられる料理の食材やワインのテロワールのルーツでもある「土」にフィーチャーしたもの。2人が得意とする定番の食器や、住空間に映える花器、オブジェなど、日常のアートとして楽しめる作品が展示販売された。

が降り注ぐ心地よいリビングルーム、蔵書に囲まれたライブラリー、ウォークインクローゼットを備えたベッドルーム―――東京・恵比寿のアルフレックス東京には、インテリアショップの枠を超えたリアリティのある豊かな生活の空間がひろがります。その一角、本格的なキッチンを備えたダイニングルームの大きなテーブル「シャーウッド」に、笠間のアーティストのうつわが並びました。

テーブルセッティングされたランチョンマットの上には、シンプルさと強さが共存する黒と黄色のディナープレートが料理を鮮やかに引き立て、テーブルの中央に並ぶオブジェのような個性的な花器には、季節の花がのびのびとあしらわれています。これらの、印象深い食器や花器の数々はすべて、船串篤司(ふなくしあつし)とKeicondo(けいこんどう)という、異なる強い個性を持つ笠間の二人の陶芸作家の作品。

研ぎ澄まされたシンプリシティの中にストイックさが漂う黒のプレートは船串篤司の作品。一方、まるで大地のような色と質感に目を釘付けにされる黄色い器の作者はKeicondo。これは、去る12月にアルフレックス東京で開催されたVOICE No.02船串篤司・Keicondo陶展 「Terra」の会期中のイベントのひとこま。「VOICE」は笠間と益子の作家に光を当てて展示販売するシリーズです。

 

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VOICE No.02船串篤司・Keicondo陶展 「Terra」の会期中には、二人のトークショーや、作品のディナープレートでイタリア料理とワインを楽しむというイベントも開催された。この日の料理は、彩り豊かなイタリアンと豊富なワインが楽しめる学芸大学のワイン食堂「レインカラー」によるもの。アルフレックス東京のダイニングスペースやリビングスペースが、豊かなアートのある生活の一幕となった夜。アルフレックス東京では今後もLIFE with ART projectの一環として「VOICE」を展開予定。www.arflex.co.jp

間は、関東地方では益子と並ぶ大きな窯業の産地。「日本各地に素晴らしい陶芸は数ありますが、まずは自分たちの生活の近くにある関東の作家を知っていただくことからスタートできればと。東京からそう距離もない笠間や益子の作家と深くかかわり、応援したいという気持ちもあります」と語るのは、「arflex LIFE with ART project」のキュレーションを手掛けるノイエキュレーション&クリエーションの鷹箸 廉(たかのはしれん)。「生活の中にアートがある豊かさや潤いを、陶芸などの日常に取り入れやすいものから提案したい」。そんな思いをアルフレックス社と強く共有しているといいます。彼がVOICE No.02に選んだ笠間の陶芸作家が、船串篤司とKeicondoの二人でした。

「古いものや骨董が高校生の頃から好きでした。古物商の認可を取得して骨董屋で働いていたこともあります。年月を経た美しいものに強く惹かれていました。江戸時代くらいに使われていた石皿との出会いもあり、古いものが今に残り、使われ続けるのっていいなあと。次第に自分でものづくりをして生きていきたいと考えるようになり、陶芸家を志しました」。こう語る水戸市出身の船串篤司は、2003年から笠間の陶芸作家、酒井芳樹に師事し、2009年に笠間市で独立。「自分が作る器は白と黒。独立する前から決めていました。モノトーンでソリッドなうつわを『普通でいいな』と思えたからです。何より料理の邪魔にならないのがいいと」。

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船串篤司の白と黒のうつわ。「無駄のない形、自分を出しすぎないバランスの良さがいい」と船串篤司のうつわの魅力を評するのはKeicondo。

一方で、笠間で生まれ育ち、陶芸家を父に持つKeicondoにとっては、陶芸を生業にすることは自然の流れだったといいます。「アフリカ人の父が笠間で陶芸家として仕事をしている環境で生まれ育ちました。とにかくものを作ることが好きでしたね。父に『車のおもちゃが欲しい』とねだると粘土を与えられ、粘土で車を作ると窯で焼いてくれる。『飛行機が欲しい』と言ってもまた粘土を渡されて・・・・あれっ?変だぞと思いながらも、作り始めると没頭して夢中になってしまうんです」。2007年から2年間、現地で窯業技術を教えるためにJICAの陶磁器隊員としてボリビアへ派遣された際に、現在のKeicondoの代名詞ともなる自分の「色」との運命的な出会いが。「南米ボリビアは、鮮やかでカラフルな色彩に溢れていましたが、私の心を捉えたのは乾いた大地の赤茶けた土の色や太陽の色でした。ボリビアで自分の『色』を早く見つけることができて良かった」。

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Keicondoのうつわ。「見るだけではわからないが、実際に使うと料理が引き立つ」とは船串篤司のKeicondoの作品評。

串篤司とKeicondoの二人展は、これまでにも東京、那須、九州などで開催されていて、今回のアルフレックスでの展覧会で6回目を数えます。ともに2009年に笠間で独立し近くに工房を構える二人は、プライベートでもとても仲が良いそう。日常の生活に寄り添う「食」のうつわを仕事の中心に置くなど、用の美や食をテーマに据えているという共通点も。「ケーキとうつわとオキーフ」、「Formal」、「esquisse」など過去の二人展のタイトルからも、作風の異なる二人に共通するコンテンポラリーな趣向が垣間見えるような気がします。

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2017年1月に開催された船串篤司 Keicondo二人展「esquisse」noie. ccより。料理家のリクエストから四角のプレートもお目見え。esquisse=スケッチの意味の通り、二人のプレートはキャンバスのように料理を引き立てる。© Yuichiro Tamura

Keicondoは「決められた形と色の中でどう料理が映えるか。自宅で使うのはもちろん、私のうつわに盛り付けた料理をインスタグラムにアップしてくださる料理家やユーザーの写真もとても勉強になります」と語ります。「自分のうつわが目立たないように、存在感を出さないように。料理がいかに映えるかということ、そして使い手と共に育つ『用の美』とを念頭においています」と語るのは船串篤司。異なる個性を持ちながらも、同じテーブルの上にあっても違和感なく溶け込む二人の作品。ライバルというよりもむしろ相手が認められると誇らしく、自分も負けないように頑張ろうという気持ちになる存在、とお互いを評します。

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左が船串篤司、右がKeicondo2015年に開催した二人展「Formal」の際に撮影したイメージビジュアル。スタイリッシュなイメージを提案したのは笠間市在住のアートディレクター笹目亮太郎。

船串篤司とKeicondoの作品の背景にある笠間の魅力について、鷹箸さんは語ります。「笠間に初めて行ったときに驚いたんです。長くこの地に根差した地元の作家、新しくこの街に来た作家、異業種から作陶を始めたという作家。様々なバックグランドを持つ人々の間に垣根がなく、とてもオープンでフレンドリー、自由な空気がある。船串くんやKeiくんのような若い人たちが面白がって、おしゃれに、かっこよく作陶をしているんですね。アルフレックスのイベントを通して笠間の作家の魅力を体験したら、その次は笠間にも足を運んでいただきたいですね」。

生活のベースである自宅を、心地よい好みのインテリアで美しく整えること。そしてその空間にアートを取り入れて日常の中で楽しむこと。その作家について、ものづくりの背景にあるその思いについて知ること。さらにその魅力に誘われて、産地へと旅すること。―――アルフレックスで出合った笠間の陶芸には、人生を豊かにしてくれる連鎖の始まりがありました。

 

 

選・文 藤野淑恵

 

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト

「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、チーズ、ガンドッグ、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、保護犬/猫など。