自分らしさを探し続ける画家、神津善之介《後編》

2017.12.07
図5

「画家の日常」と題したパネルの前で。写真には、息子さんやアトリエでの製作風景も

 

—風景画のほかにも、静物画や転写シリーズなどさまざまな作品を制作されていますね。

はデビュー後にリャドさんのアトリエを出て、スーパーリアリズムの師匠につきました。リャドさんがひと筆で色や形、明暗を描き表す引き算の人だったので、次は写実でとことん足し算を学べば理解が深まると考えたんです。もしかしたらこういう思考は理数系出身ゆえですかね。日本では一つのスタイルをとことん追求する画家が多いので、僕のように興味を持ったスタイルをいくつも学ぶというのは珍しいかもしれません。

転写シリーズは、2001年に参加したコンクールで生まれたもの。静物を一つだけ筆で描き、背景に撮影画像をデジタル処理して作ったシルクスクリーンの版で、色を使わずに何度も転写を繰り返します。日本ではスーパーリアリズムが流行していて僕も画面全体を写実的に描いていましたが、だんだんと写真のように描いて勝負することに疑問を感じていきました。実像からブレていくことこそが個性なのに、まるで個性を無に近づけているようなものだなと。だから徹底的に色を引き算し、主題となる対象物を一つだけ描く転写シリーズで、自分なりのリアリズムを追求したんです。コンクールでは、大賞をいただくことができました。

 

図6
本当は4つの作品を屏風に仕立てたかったという神津さん。「転写Secret Garden シリーズ 四季」(2017年)の前で

 

—スペインに暮らすことで見えてくる、日本の良いところと悪いところを教えてください。

日本は家族より仕事優先ですが、スペインでは仕事を犠牲にして家族を守ります。また、日本は愛よりも情が強いけれど、スペインでは愛の意識が強く、情はかなり薄い。仲の良い相手に対しても、自分が違うと思ったら決して合わせたりはしません。絵に関していえば、しっかりしたテクニックで緻密で隙のない絵を描く日本人は世界的に見てもすごいと思います。ヨーロッパの画家が描く絵は、画質よりも思ったこと、描きたいことを重視するから観念的な要素が強いですね。日本がディティール重視なら、向こうは全体が持つハーモニー重視といった感じ。

これは宗教観の違いも影響しているのではと思っていて、常に神様に見られているという教えを持つキリスト教圏の人たちは、自分が神様に見せていいと思ったことなら何をしてもいいと思っている。だから人にどう思われるかより、自分がどう思うかがすべてなんです。日本人はどちらかといえば人の目を気にする。トイレの個室に入ったらもう何をしているかわからない(笑) どちらにもそれぞれに良さがあると思いますが、僕はスペイン人に憧れます。でも、結局そうはなれない自分をいつも感じるんですよね。

 

図8 

 

―最後に日本のみなさんにメッセージをお願いします。

最近のインターネットや日本のニュースを見ると、皆が少し偏った見方をしていたり、大げさな表現を好んでいるように感じるときがあります。実際に自分で確かめたわけではなさそうな情報を鵜呑みにして、まるで自分の意見のように発信している。これは怖い事だと思います。僕は、日本人特有の考えすぎて自信を持てない人にはもう少し自分に「根拠のない自信」を持って欲しいと思いますし、自分が正しいと信じ過ぎている人には、改めて自分の意見に疑問も持つべきではないかと思っています。まるで真逆のことを言っているようですが、両方とも今の時代には必要なんじゃないかなと。まあ、今でも悩み迷いながら絵を描いている僕が言えた義理ではないのですがね(笑)

 

図9
戸外での製作風景。スペインのマヨルカ島にて

 

〈プロフィール〉

神津善之介

1972年生まれ。音楽家の神津善行さんと女優の中村メイコさんを両親に持つ。武蔵工業大学入学後、J・トレンツ・リャド氏に師事するため、スペインのマヨルカ島へ移住。1997年に東京、ガレリア・プロバにて初個展開催。2001年には、バルセロ財団主催国際絵画展、大賞受賞。ほか、数々のコンクールや絵画展で大賞を受賞。マドリードやパリ、ミラノ、東京をはじめ日本全国で個展を開催している。