聖地・熊野特集Vol.1 熊野という聖地の不思議

2015.10.16

 

黄泉の国、熊野。

0401見晴台からの風景

紀伊半島の南端にあり、海と山に囲まれた熊野は、神話『日本書紀』で、国生みの女神・伊邪那美命(いざなみのみこと)が葬られた黄泉国(よもつくに)として登場します。伊邪那美命は、日本書紀の中で男神・伊邪那岐命(いざなぎのみこと)とともに、日本を生んだのち多くの神々を誕生させますが、火の神である迦具土神(かぐつちのかみ)を生んだ際、大やけどを負って亡くなり、熊野の地に葬られたとされています。こうした記述から、熊野は死後の世界と通じる“黄泉の国”として考えられるようになります。

0611熊野川(新宮市)

平地がほとんどなく、うっそうと繁る樹木に包まれた熊野は、こうした土地の神秘性からも神々が宿る霊験あらたかな聖地として信仰を集めてきました。熊野信仰の中心となったのは、「熊野三山」と呼ばれる熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の3つの神社。この熊野三山を目指し、平安の昔から貴族や上皇、たくさんの庶民が全国から参拝に訪れました。非常に多くの人々が参詣にきたため、その様子は「蟻の熊野詣で」と呼ばれたほど。当時の聖地としての人気を伺うことができます。熊野古道はその参詣道として、熊野三山と同じかそれ以上に人々を引き付ける存在となっていったのです。

平安時代から盛んだった熊野信仰

0708発心門王子

熊野三山をめぐる参詣道・熊野古道は、山深い紀伊半島の山間を縫うように広がっています。その全貌は、東は伊勢神宮から紀伊半島の中央に位置する山深い密教の聖地・高野山、西は大阪までつなぐ長大な参詣道。道中は険しく、貴賤を問わずにみな命がけで熊野三山へ参詣しました。そうした厳しさがあったからこそ、熊野信仰はより霊験あらたかなものとなっていったのです。

世界遺産に登録された熊野古道

0203果無峠越の道

熊野古道は、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産に登録され、現在では世界的にも知られる有数の聖地となりました。エリアは5つに分かれ、大阪から田辺をつなぐ「紀伊路」、田辺から那智をつなぐ「大辺路」、那智から本宮、そして新宮という三山をつなぐ「中辺路」、本宮から高野山をつなぐ「小辺路」、そして本宮から伊勢神宮までをつなぐ「伊勢路」に分かれます。

0303三越峠の雲海(田辺市本宮町)

険しい自然ゆえ、山岳信仰を主とする修験道の聖地でもある熊野。そこには八百万の神々の存在を感じさせる自然の厳かさと、何千年もの間生きてきた巨木が魂を浄化してくれるような不思議な感覚を味わうことができます。熊野三山を参拝するなら、一部でも自然の畏怖を感じられる熊野古道を自分の足で歩いてみましょう。平安の昔からさまざまな願いや苦しみを胸に秘めた人々が踏みしめてきた道をたどり、聖地・熊野の真髄に触れてみては。

0605熊野川(田辺市本宮町)

 

Text/Makiko Inoue

写真提供/熊野本宮観光協会

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