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【広島県 尾道】鮨 双忘:「食の王道」vol.50 広川道助

2016.10.27

瀬戸内の魚には江戸前寿司がよく似合う
そう実感した尾道「鮨 双忘」の夜

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作家の丸谷才一さんが随筆『食通知ったかぶり』で「西国一の寿司やあり」と称したのは岡山「魚正」ですが、私も以前、二度ほどうかがったことがあります。

丸谷さんが書いた時の主人は初代ですが、私が30年ほど前に出かけたときは二代目を継いだ娘さんでした。ままかりやはりいか、べらたといった瀬戸内海の魚を主に使い、握りも独特の手法。聞けば、先代のお父さんは脱サラで始められたとのことでした。

数年前に息子さんが三代目を継いでいますが、いまや岡山は、魚正以外にも東京まで名が轟いている有名寿司屋がいくつもあり、わざわざ寿司屋のはしごをしに出かける友人もいるほどです。そんなことが出来る地方都市は、ほかには福岡、金沢、札幌ぐらいではないでしょうか。

瀬戸内海はままかりを始めとして、独特の小魚が多く、それが寿司にうまく合っているせいではないかと思いますが、その証拠に先日うかがった尾道で、岡山に勝るとも劣らない寿司屋を知ることが出来ました。

「鮨 双忘」という店で、「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」の中にある寿司屋です。

ベラビスタは尾道の港を見下ろす丘の上に立つリゾートホテルで、かつてはホテルの経営母体である常石造船の迎賓館だったところだけに、特に「食」に力を入れています。

「鮨 双忘」はホテルの離れにあり、日本料理のフロアと独立した鮨カウンター8席に分かれています。鮨カウンターの向こうはガラス張りで、前面に瀬戸内海が広がり、緑が鮮やかな小島の数々が見えます。しかも、遮るもののない絶景です。

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この店の一番の特徴は、地産地消。瀬戸内の魚のみを使っているだけに、たとえばマグロは一切出ません。その代わり、魚屋すらもグループのひとつとして経営しているので、その日にあがった抜群の魚が双忘に届けられるというわけです。

主人は銀座の寿司屋で長く修業して、2015年にこちらに着任。江戸前の技術を瀬戸内海の魚に施した酒肴とにぎりを味わわせてくれます。

タコやサワラ、アワビといった酒肴はすべて近郊の海から届けられたもの。それを手を加えすぎない程度に着地させていく技術は見事です。

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にぎりで面白かったのが、ままかりと小肌。どちらも似たような魚だと思っていたのですが、香りが違うんですね。

 

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