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ホテルオークラ 至福のおもてなし《第4話》

2018.01.23

ホテルオークラ 至福のおもてなし

《第4話》

全館を舞台に季節を彩る、石草流の生け花

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ロビー正面、通称「六角」と呼ばれる場所の作品は、数あるホテルオークラ東京の花の中でもメインと呼べるもの。縦横数メートルに及ぶ大規模な作品は、季節や日本の有職故実に基づいて石草流の三代目家元、奥平清鳳さんがアイデアやイメージを立案。素材の選択や調達、創作から管理まで行う。

「ホテルオークラ東京といえば、あの生け花が素晴らしいホテルですね」。歴代の要人やゲストたちたけでなく、国内外の多くのホテルの関係者たちからも高く評価されるのが、ホテルオークラ東京に飾られる花の数々である。オークラの歴史は生け花の歴史、とも言えるほどその繋がりは深い。オークラに飾られる主だった花は全館ほぼすべてを、開業当時から石草流が担当している。世界的なホテルの花の装飾が、同じクリエーターの創作に委ねられているというのも、業界では珍しいことだ。裏を返せば、石草流の歩みもオークラの成長と共にあったのである。

「世界をもてなすホテルオークラ」というキャッチフレーズで、ホテルが開業したのが1962年5月のこと。開業準備にあたり、ホテルの内装や備品、装飾のあらゆるデザインのアイデアは、内外の識者による意匠委員会にから出されたが、その委員の一人に選ばれたのが石草流の初代家元、岩田清道であった。岩田は、そのクリエーションの手腕を買われ、当時の野田岩次郎社長の指名を受けて、意匠員会に加わったという。それを機に、岩田清道は活動の拠点を葉山に移し、オークラを飾る流派として石草流を設立した。以来、石草流はホテルオークラの理念でもある「西洋の真似ではなく、日本の特色を出したホテル」を目指し、独自の創作活動を展開している。

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敢えてお客様の目の前で花を行けることも石草流の特徴のひとつ。一般的にホテルでは、花を含め内装の演出は陰の仕事になるが、オークラでは営業中に、ゲストの目の前で花を生けている。石草流では、花を生けることは仏教の供華(くげ)にも通じ、その所作のひとつひとつもゲストに対するもてなしだと考えているという。

 して現在、ホテルオークラ東京の花を担当するのが、石草流三代目家元の奥平清鳳(おくだいらせいほう)さんである。奥平さんは、「最後の立華士」と謳われた岡田幸三に師事し、華道の原点を修行した後に石草流三代目家元に就任。以来、38年にわたり、ホテルオークラ東京の花を生けてきた。奥平さんによると、基本的に週三回のペースでホテルに通い、お弟子さんと共に生け込みや水やり、あるいは微細なメンテナンスの調整まで行っているという。現在は、別館だけの営業であるが、それでも大小あわせて17箇所全てを合わせる花を創作・管理しているのだという。

 最大の作品は、ロビー正面の通称「六角」と呼ばれる作品で、写真のように縦横数メートルに及ぶ大規模なものである。こうした作品は、季節や日本の有職故実に基づいて奥平さんがアイデアやイメージを立案し、素材の選択や調達、創作から管理まで行う。奥平さんによると、創作のイメージの源は素材や造形だけなく、ホテルという空間の中での映えかたや調和、あるいは石や花器とのバランスも大切だという。実際の創作は2時間ほどで形ができるが、実はそれで終わりではない。石草流の作品は、季節の移ろいといった時間的な演出も加わってはじめて完成すると奥平さんは続ける。「桜の季節は、桜を使いますが、最初はあえて蕾の枝を選びます。それが徐々に開花する様も、作品と考えるからです」。それは、ホテルへ連泊するお客さまへのもてなしに通ずるのではないかと、奥平さんは考えている。

  草流のもうひとつの特徴は、敢えてお客様の目の前で花を生けることにある。一般的にホテルでは、花を含め内装の演出は陰の仕事になるが、オークラでは営業中に、ゲストの目の前で、花を生け続けている。石草流では、花を生けることは仏教の供華(くげ)にも通じ、その所作のひとつひとつもゲストに対するもてなしだと考えるからだと、奥平さんは言う。それは、かつて貴人や将軍の目の前で立花の所作を披露する室町時代の「花所望」の歴史を源にしているが、ホテルの中で披露する現代の「花所望」として大切にしていきたいという考えから、ホテルオークラでは臨時的に、石草流による「花所望」のイベントも開催している。その所作の美しさはもちろん、単純にクリエーションの工程を垣間見れるとあって、人気が高い。

 7年ほど前、90歳を超えるオークラの常連のお客さまから「花が楽しみで、オークラを指名している」と声をかけられたことが忘れられない思い出になっていると、奥平さん。それがご縁で、毎年そのゲストの地元で産する様々な花材を、厚意により提供して頂いているという。それは、信濃大町の立派な柿の樹で、以来その柿はオークラの秋を飾る風物詩になりつつある。ホテルオークラ東京は、日本の季節の移ろいを彩る花の舞台、ともいえるのである。

 

 

文・中村孝則

写真・青木倫典

構成・藤野淑恵