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ホテルオークラ 至福のおもてなし 《第6話》

2018.03.10

ホテルオークラ 至福のおもてなし

《第6話》

 

ホテルが手がける、出張宴会の白眉

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ホテルオークラで体験するのと同じクオリティの設備やサービス、そして味わいを、同じようにオークラの外でも体験してもらうことが、ケータリング(出張宴会)に課せられた仕事」と語る、料飲部一筋の齋藤尚登

 

テルオークラ東京には、ベテラン社員にですら、その実態がよく知られていない特命めいた部署がある。料飲部の宴会サービス課に属するケータリング(出張宴会)部門である。わずか5、6人で構成される少数精鋭の部隊であるが、多いときはひと月で大小50もの出張宴会を担当するという。同課に所属する課長の齋藤尚登は、1986年の入社以来、料飲部一筋で、一年前にフィットネスクラブの担当から同課に移動してきた。ホテルオークラの部署名はどこかユニークで、オークラヘルスクラブ(フィットネスクラブ)も出張宴会も、飲食を提供するということで、同じ料飲部(飲料部ではない)の管轄なのである。それはさておき、齋藤によると、現在の主な仕事は“出張宴会”というのだが、それはどんなものか。わかるようでわかりにくいが、有り体に言ってしまえば、ホテルの外で行う宴席の運営であるという。

 もっとも、「出張」や「サービス」、あるいは「宴会」というソフトな字面だからといって、決して侮ってはならない。ホテルオークラ東京が過去に手掛けた“出張宴会”の中には、1964年の東京オリンピックの選手村、1998年の長野オリンピックの選手村のダイニング、2008年の洞爺湖サミットの接遇、ゴルフのクラブハウスやスポーツイベントの宴席、大小様々な企業の式典、あるいは個人の邸宅での宴席のサービスなど、スケールも内容も多岐に及ぶ。国際的なイベントであれ、個人の邸宅での宴席であれ、社内にも情報を表に出せないケースも多い。筆者が“特命部署”と表現したのは、そういう事情も踏まえてのことだ。

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開業当時から大切に使われているホテルオークラ東京の銀杏の紋章が付いたオリジナルの純銀製の器やカトラリーが、出張宴会でも惜しげも無く使われる。中には秘蔵の銀器も。それらは丹念に磨かれ、静かな輝きを放ちながら、出番に備えてスタンバイをしているかのようだ。

本的に出張宴会は、ほぼ全てがオーダーメイド。企画から下見、設営、そして運営から撤去まで自分たちで行うため、テーブルや椅子、キッチンツールやホットフードカートなど、あらゆる備品も持参する準備ができていると、齋藤はいう。「ホテルオークラ東京で体験するのと同じクオリティの設備やサービス、そして味わいを、オークラの外でも同じように体験してもらうこと」が、ケータリング(出張宴会)サービスに課せられた使命の一つと齋藤。そのためには、可能な限りの手段を追求する。

 ホテルオークラ東京には、開業当時から大切に使われている大小様々なオリジナルの純銀製の器やカトラリーなどがあるが、そうした秘蔵の器の多くも、備品として惜しげも無く宴席に使われる。中には一つ数百万クラスの銀器も含まれる。逆に、クライアントはそういう微細にも、オークラ・クオリティを期待するということである。

ちろん、料理の味わいもそうだ。食事は、オークラで供される和洋中のどれでも選ぶことが可能で、美味しさを追求するために、場所によってはホットフードカートやコールドフードカートまで持参する。昨今のビルや建物の中には、火気厳禁のところが増えてきた。料理を温めておく固形燃料が使えないというのは、宴席では時に致命的になる。そういう場合に対応するために開発した「ヒート棒」というオリジナルの電気器具があると聞きその実物を見せて頂いたが、髪を巻くホットカーラーのような外見のそれは、電気を熱源にしてお湯を温め続けることができるのだという。「ないのなら作ってしまおう」という自由な発想や精神は、実はオークラのDNAなのだが、こんなところにもさりげなく発揮されているのであった。

 出張宴会の演出は料理だけでなく、花や写真撮影など、可能な限りの対応をする。一つ一つが、試行錯誤の連続であるが、それが逆に仕事の醍醐味に通じていると齋藤はいう。意外と神経を使うのは、演出よりむしろ搬入搬出の経路の確保だったり、養生のテクニックだったりするそうだが、聞けば聞くほど、イベント会社や引っ越し会社顔負けの技術や経験値に舌を巻く。確かに人目にはつきにくいが、こういったサービスもホテルオークラが引き継ぎ続ける、伝統の技だと、改めて知るのである。

 

 

 

文・中村孝則

写真・青木倫紀

構成・藤野淑恵