日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

生駒芳子コラム第8回:日本の美とは?vol.4「西陣織」——金糸、銀糸が織りなす、ほのかな輝きを宿した最上級の織物の美学。

2018.02.02
col7_2

「シチズンL アンビリュナ」の西陣織ヴァージョン

 統と革新という言葉に、まさにふさわしい活動が、京都の西陣織の展開です。伝統工芸に出会って、まだ間もない頃、京都の西陣織の老舗、「細尾」を訪ねる機会を得たのですが、そこでは「こんな形で、伝統が革新されていくことが、あるんだーー」という、まさに目から鱗的な発見をしたことが忘れられません。
 西陣織といえば、帯素材です。帯の幅に織られる訳ですから、自ずと、帯以外への使い道は限られます。ところが、その幅を広めてみようと思いつき、そのことを実行し、ビジネスベースへと展開させることに成功したのが、「細尾」だったのです。
 西陣織の輝きは、仄かで、奥深く、独特のラグジュアリーなきらめきーーまさに、日本の美意識を集積したような輝きです。日本のジュエリーの歴史を振り返ると、古代では女性たちは華やかに装飾品を身につけていましたが、奈良時代以降、明治時代に至るまで約1100年間、女性は装飾品を身につけなくなります。その代わりに何が起こったかというと、着物や帯の素材に、金糸や銀糸を織り込んだり、刺繍を施すなど、素材自体に装飾を施すという技でした。さらに、身につける装飾品といえば、帯留めとかんざしくらいーーというのが、実際のその1100年間の状況だったようです。

 西陣織の工房を訪ねると、和紙に金糸や銀糸を張った素材を、細く切り刻んで作られる糸が、拝見できます。その糸を、織り込んだ素材には、欧米のゴブラン織などのように表面から強い輝きを放つのではなく、密やかにして奥深い輝きが、宿るのです。
 「細尾」の西陣織は、30〜35センチという、昔ながらの帯の幅を、徐々に広げて、ついには、1m50cmにまで広げることにより、建築資材として今や世界を唸らせる存在となっています。ラグジュアリーブランドの雄、「Dior」の世界中のショップの壁を覆うことができた「細尾」の素材は、今や、他のブランドからも引っ張りだこの状態であり、工房はまさにフル稼働で対応に追われる日々だというのです。

 「細尾」の西陣織に感動し、私が企画した展覧会で紹介をしたことがあります。2012年、表参道の EYE OF GYREにて開催したファッションと伝統工芸の融合世界を表現した「GOTHICOUTURE(ゴシックチュール)」展です。

GOTHIC_TURE_TOP-thumb-660xauto-133694
ゴシックチュールの写真(2012年、 EYE OF GYRE)

 こでは、靴からジュエリー、ドレスまで、伝統工芸と最先端のデザインが融合することで生まれる“ゴシックな”そして“クチュールな”世界を表現したものですが、その中でご紹介したのが、三原 康裕さんが手がけられた西陣織のドレスでした。三原さんは細尾さんに、迷彩柄の西陣織をオリジナルな形で注文され、その素材を用いて、美しいロングドレスを作られたのです。そして実際、このドレスは、モデルやセレブリティによって着こなされ、レッドカーペットをも彩ったのです。そのドレスを、古典的な帯と共に展示することで、伝統が革新されていく様子を表現したのがこの展覧会でした。

  また、2016年、シチズンからブランド・アドバイザーを頼まれ、時計を開発した際にも、西陣織とのコラボレーションに取り組みました。建築家藤本壮介氏をデザイナーに迎え、「シチズンL アンビリュナ」の開発に臨んだとき、当初「エシカル」がテーマであると聞いたのですが、その時素材として選んだのは、漆と西陣織でした。このエッセイvol.2 でも紹介をした会津塗りの坂本これくしょんによる漆玉を添えた時計のラインと並んで、西陣織を用いた時計、バングル、クラッチバッグを開発するという試みでは、バングルとバッグの開発には串野真也さんという、レディガガが履くシューズをデザインしているデザイナーにデザインを依頼しました。その結果、ドレスにはもちろん、着物にも似合う、素敵な時計のラインが生まれ、おかげさまで高い評価をいただいております。

 

_DSC4981
山口情報芸術センター「YCMA」で開催中の「布のデミウルゴス―人類にとって布とは何か?」展

 の「細尾」の新展開を率いている細尾の12代目、細尾真孝さんが今取り組んでいるが、伝統素材とテクノロジーとのコラボレーション。その展開は、現在、山口県のメディアアートの拠点、山口芸術情報センター「YCAM」にて開催中の展覧会「布のデミウルゴス―人類にとって布とは何か?」(〜2018年3月11日(日))において体験できます。伝統が新たなコンピュータープログラムや新素材と組み合わさることで、未来のファッションやライフスタイルに適合する革新的素材が生まれるーー西陣織のこういった進化が、伝統工芸世界全体の革新をも刺激していることは間違いないのです。

 

「シチズンLアンビリュナ」の西陣織ヴァージョン
http://www.citizenwatch-global.com/l/special/detail/nishijin/

「布のデミウルゴス―人類にとって布とは何か?」展
http://www.ycam.jp/events/2017/hosoo/

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。