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第10回:ディープ・ジャパン・トリップ  「忍者の隠れ家に出会う Vol. 1」

2018.03.16
_DSC4102(而今禾3)

関宿の風情ある街並み

事で日本の地方を旅することの多い今、時々、ハッとするような、場所、人、風景、情報に出会うことがあります。知られざる日本、とでも呼べばいいか、旅行ガイドには載っていない、観光客も少ない、でもなんて素敵な体験をしているのだろう・・・そんな感動を胸に、東京に戻ってくることが多い。
素敵な場所は、他人に知らせたいような、知らせたくないような、そんな複雑な思いもある。急に大勢の観光客が押し寄せることで、場の風情が消えてしまわないか・・・そんな気持ちにさせられるとっておきの旅先を、プレミアムジャパンの皆様にだけ、こっそりご案内してまいります。


ずは、今の私にとって、最も縁の深い三重県からの得ネタです。


三重県のアンテナショップ、東京での営業拠点として創業した「三重テラス」の、クリエイティブ・ディレクターに任命されたのは、今から5年前のこと。祖母が三重県伊賀上野の出身だったことから、ご縁をいただき、任命されたのですが、以来、会議や取材や見学などの目的でおおよそ数十回余りは、三重県に足を運んでいます。数々出会う素敵なスポットの中でも、もっとも、魅了されたのが、亀山市にある関宿(せきじゅく)です。東海道五十三次でも知られる47番目の宿場町として栄え、今もなお、当時の雰囲気や風情が美しく残されている関宿には、江戸時代後期から明治時代にかけて建てられた町家が200 棟以上も現存していて、国の重要伝統的建造物群保存地区(昭和59年選定)や日本の道百選(昭和61年選定)に選定されており、全長約1.8キロの宿場町は、見どころがいっぱいです。


江戸時代には伊勢国の西の入り口とされ、人々はこの関宿から伊勢神宮に詣でていたのです。今でこそ、ひっそりとしたエリアですが、江戸時代には、参勤交代や伊勢参りなど、多くの人や物の出入りがあり、一日1万人もの往来があったとか。実際に訪れてみると、まさに気分はタイムスリップ!!!地元の方々の努力があって、チープな観光地化は避けるという方針は功を奏したようで、江戸時代の風情はそこかしこに感じられます。

の関宿のパワースポットを2箇所、ご紹介します。一つは、関宿のスローライフをまさに象徴する而今禾(じこんか)。おおよそ160年前に建てられた町家を、必要最小限にリノベーションし、衣食住にまつわるアイテムを独自の視点で紹介している生活道具とカフェからなるお店です。オーナーの米田恭子さんの美意識と哲学を反映した空間で、足を踏み入れると、自然や歴史と程よいテンポで共生する米田さんの世界に滑り込むことができ、しばし、美しいスローライフの世界にトリップできるのです。



而今禾(じこんか)

東京の世田谷や台湾にもお店を構えられていますが、ここ、関宿の本店は、街並みに溶け込んでいる様子が、なんともかけがえのない風情であり、その世界観を体験することで多くのインスピレーションを浴びることができそう。


もう一つのパワースポットは、この而今禾からちょっと足を伸ばしたところ、まさに関宿の中心とも言える場所にある、創業370年の老舗和菓子屋「深川屋陸奥大掾」です。店の向かい側には、江戸時代、徳川家康の御茶屋御殿があったという、徳川三代将軍家光の時代から続く老舗で、こちらの銘菓「関の戸(せきのと)」は、街道を行き来する大名たちに気に入られ、その噂は京都の朝廷にも伝わり、御所の御用達菓子ともなったと言われる由々しき歴史を持つ伝説の和菓子です。



深川屋陸奥大掾と銘菓「関の戸」

その関の戸の現在のご主人、14代当主で、関宿まちなみ保存会の副会長を務められている服部さんにお目にかかり、関宿を案内していただき、興味深い話を山ほどお聞きできたのですが、そのうちの一つをご紹介すると---店頭に飾られている看板は、江戸側がひらがなで書かれ、京都側が漢字で書かれています。それは、京都へ向かう旅人はひらがなばかりを見ることになり、江戸に向かう旅人は漢字ばかりを見ることになるという意味だったそうです。


この説明だけでも、そうなんだ〜! と江戸時代にトリップした気が味わえたものですが、それより何より、もっとすごいトピックに出会いました。まずは、ご主人のお名前が、服部吉右衛門亜樹さん、と言います。服部といえば---と、忍者の話を持ち出すと、ご主人は否定されるどころか、関の戸本店の階上に保管されている資料室にご案内くださったのです。そこには、江戸時代からの文献、様々な生活道具、旅道具などがおかれているのですが、なんと、こちらの服部家は、伊賀者である忍者「服部半蔵」の親戚筋にあたり、こちらの服部さんのご先祖様は、和菓子販売という仮の姿で全国を旅しながら、忍びの者として情報収集されていたと言うのですから、服部さんは正真正銘、忍者の末裔、ということになります! こんな旅先で、本物の忍者の末裔に会えるとは!!!と、思わず唸って感動してしまったものです。昨今の忍者ブームの勢いもあり、こちらには、テレビ局や学術関係者が押しかけているそうです。

宿で関の戸の本店を訪ねれば、忍者の面影、忍者の足跡に触れることができる---そんな想像力と歴史への好奇心溢れる訪問は、ちょっと楽しい旅の目的になりそうですね。

 

INFORMATION/インフォメーション

 

而今禾(じこんか)

http://www.jikonka.com/

 

深川屋陸奥大掾
http://www.sekinoto.com/

 

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。