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第13回:ディープ・ジャパン・トリップ 「イザベラ・バードの旅を追う Vol.2」

2018.05.18
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 「旧アイヌ民族博物館」 北海道や千島列島、樺太の先住民族であるアイヌの伝統的な住居建築「チセ」が並ぶ

 

 〜北海道アイヌの地へ〜

 もそも、旅のプロであった旅行家、イザベラ・バード (Isabella Lucy Bird; 1831~1904)が、日本を旅したいと思いたったのには、理由があった。それは、“文字を持たない民族”に興味を持ったためだった。即ち、アイヌの文化に強く惹かれ、ぜひとも彼の地を訪ね、アイヌの人々に会ってみたかったからだった。

今年は北海道命名150周年という記念すべき年だが、バードが日本にきたのは明治11年、今から140年前のこと。人力車や馬で東北から北海道までを旅したバードが、旅の最後に訪れたのがアイヌの地であり、そしてそこで、「もっとも美しい世界」に出合うのだ。

そのバードの足跡を辿るため、まだ雪が残る3月に北海道の白老(しらおい)と平取(びらとり)を訪ねた。まずは、白老のポロト湖の辺りに立つ旧アイヌ民族博物館へ。

入口に立つコタンコロクル像(むらおさ)

 

ードにとってそれは、故郷のイギリス・ヨークシャーの自然を思い出させ、懐かしさすら感じる風景だった。また、アイヌの人々の堂々した振る舞い、オープンな気質は、本土で出会った日本人よりもはるかに親しみ深く、むしろ、美しささえ感じる魅力的な民族として、バードの文章に描かれている。

アイヌにとって大切な熊の像もある。また「チセ(アイヌ住居)」の中では、舞踏や語りが楽しめる

「私はその顔型といい、表情と言い、これほど美しい顔を見たことがないように思う。高貴で悲しげな、うっとりと夢見るような、柔和で知的な顔つきをしている。未開人の顔つきというよりも、むしろ英国の歴史画家、サー・ノエル・パトン (Sir Joseph Noel Paton; 1821~1901) の描くキリスト像の顔に似ている」とは、バードがアイヌの人々を描写した一文だ。牧師の長女として生まれたバードならではの表現だ。

アイヌ民族博物館で巨大な木彫りの熊の彫刻に出合う

物館で、アイヌの歴史や、衣装、民具、歴史的写真などを見た後、カフェで、どんぐりうどんをいただいた。どんぐり粉で作ったうどんに、エゾジカの肉が入ったうどんは、食べると体が内側からポカポカしてくる。自然とともに生きるアイヌの地ならではのまさにオーガニックそのものの食事だ。

 

どんぐりうどん:エゾジカの肉入りは、自然な味わいとほっこり感が本当に美味しかった

このアイヌ民俗博物館は今年3月末で閉館したが、2020年に、この地に「国立アイヌ民族博物館」として誕生することになっている。これまで以上の規模で生まれるアイヌ文化の新たな拠点は、本当に今から楽しみだ。

平取町立二風谷アイヌ文化博物館

のあと平取に移動し、平取町立二風谷アイヌ文化博物館を訪ねる。こちらは、アイヌ文化を文化人類学的に考察し、デザイン面もフィーチャーした展示が楽しめる。アイヌの男たちが手がける木彫りの彫刻や道具類、女たちが手がける刺繍の衣装は、デザイン的にも素材的にも優れた、まさにアイヌの芸術品。魔除けのデザインや神を表すモチーフは、今見てもなお新鮮でおしゃれだ。

 

(写真左)美しいアイヌ刺繍には“魔除け”の意味が込められている  (写真右)アイヌは「人」を意味し、カムイは「神」を意味する

 

 

平取町立二風谷アイヌ文化博物館の側に立つ自動販売機も、アイヌデザインに包まれている

後に、萱野茂 二風谷(にぶたに)アイヌ資料館を訪ねた。アイヌ文化研究者、萱野茂氏が集取したアイヌ民具、世界中の先住民族の資料が並ぶ館内を見たあと外に出ると、可愛いコロポックルの家を発見。「蕗の葉の下の人」を意味するコロポックルは、ひょっとしてトトロの原点? そういえば、二風谷なんて地名は「風の谷のナウシカ」を思い出させるしーーと、皆で思わず宮﨑駿氏の世界に紛れ込んだような気分に包まれる。

幸せを呼ぶコロポックルの家(萱野茂 二風谷アイヌ資料館内)

 

のイザベラ・バードの旅をテーマにした展覧会を企画した。

5月19日より、東京ステーションギャラリーの回廊にて開催している。JR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE四季島」の運行開始1周年記念企画なのだが、その車内誌の編集長を任された時、巻頭の企画としてイザベラ・バードを取り上げたのだ。なぜなら、四季島を走るルートと、イザベラ・バードが辿った道筋とが、重なる部分が多いからだ。東北に眠る様々な物語を体感する「四季島」の旅を「深遊探訪」と題したのだが、まさしくイザベラ・バードの旅も、日本人のスピリットに深く触れる、奥深く、また遊び心やファンタジー溢れる世界感が楽しい。バードの旅を知ると、東北から北海道にかけての旅が、一層、楽しみに思えてくる。

 

 

「TRAIN SUITE四季島」運行開始1周年記念企画
イザベラ・バード展
〜明治初期に東日本〜北海道を旅した英国人女性旅行家の記憶〜

期間:   2018年5月19日(土)~7月1日(日) ※ 6月25日を除く毎月曜日は休館
開館時間: 10時~18時まで(金曜日は20時まで。入場は閉館30分前まで)
場所:   東京駅内 丸の内北口改札前 「東京ステーションギャラリー」(回廊展示)
入館料:  一般(当日)900円、高校・大学生(当日)700円、中学生以下無料

*入館には東京ステーションギャラリーで開催中の「夢二繚乱」展の入館券の購入が必要です。

 

 

アイヌ民族博物館
http://www.ainu-museum.or.jp/

 

平取町立二風谷アイヌ文化博物館
http://www.town.biratori.hokkaido.jp/biratori/nibutani/

 

萱野茂 二風谷アイヌ資料館
http://www.town.biratori.hokkaido.jp/kankou/bunka/bunka6/

 

《第12回:ディープ・ジャパン・トリップ  「イザベラ・バードの旅を追う Vol. 1」   はコチラから》

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。