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第17回:ディープ・ジャパン・トリップ「〜神々の遊ぶ庭〜大雪山の自然の神秘に酔いしれる」

2018.09.14
DaisetsuMT1

 

海道の中央にある火山群「大雪山」は、雄大な自然を有する素晴らしいネイチャースポットですが、アイヌの歴史の中ではカムイミンタラと呼ばれ、その意味は「神々の遊ぶ庭」。大雪山は、このアイヌ文化を伴って、文化庁の日本遺産の一つに認定されました。「カムイと共に生きる上川アイヌ〜大雪山のふところに伝承される神々の世界〜」というタイトルのもと、自然を愛で、敬意を表するアイヌの精神世界に光を当てるプロジェクトとなっています。

高台から眺める、雄大な十勝平野の風景

 その大雪山を、訪ねました。日本遺産プロデューサーとして、私は3つの会議をはしごするため、移動のためのドライブを強いられたのですが、広大な大雪山を縦断する旅は、まさに3時間にも及ぶロング・ドライブ! とはいえ、ドライブは退屈などころか、視界に美しい山々の緑が溢れるようになだれ込んできて、オゾンを満喫することもできる、陶酔的なひとときとなったのです。

地視察としてまず立ち寄ったのは、然別湖(しかりべつこ)。冬になると2ヶ月間だけ、湖面を覆う氷の上に、氷で作られた建造物が現れるという「しかりべつ湖コタン」で知られる湖ですが、訪れた夏には、極めて静かな緑豊かな湖だ。湖畔には、散策路やベンチが設けられ、ボートはもちろん、足湯なども楽しめます。

然別湖の湖畔。散策や足湯が楽しめる

 あいにく、天候が悪く、山道を走っていくと、たちまち視界は霧に覆われ、いつしかドライブもままならないほどの濃い霧に包まれました。それもまた風情あり、なのですが、三国峠に差し掛かる折には、視界は真っ白に。思わず、神秘的——という言葉が思い浮かぶが、この後トンネルを抜けると、霧はすっかり晴れてしまい、またもや緑に覆われた雄大な大雪山が姿を現わすのです。

 宿泊は、層雲峡温泉を訪ねました。宿ではたっぷりと豊かな単純旒黄泉の温泉を楽しみつつ、散策では、層雲峡のダイナミックな自然を満喫。石狩川を挟んで、24キロに渡り、断崖絶壁が続く層雲峡は、轟音に近い水音を立てて流れる渓流と、荒々しい岩肌をむき出しにした絶壁とが相まって、自然が生んだまさにパワフルな絶景に圧倒されるのです。

絶壁が、渓流と山に彩られ、ダイナミックな造形美を生み出す

雲峡で、素晴らしい滝に出会いました。その名も、「流星の滝・銀河の滝」。岩肌荒々しい絶壁と、覆い隠すような緑の合間から、いとも美しい滝が見える。エレガントで、エロティックで、凛とした空気を孕む滝は、まるで、立体的でカラフルな水墨画のよう。冬になると滝は凍り、そこを滑り降りる強者がいるというから驚きです。

水墨画のような滝は、まるで美しい絵を眺めているよう。紅葉の時期は格別の美しさだという

 イヌの文化が今、見直されつつあります。2020年には、白老に、国立アイヌ民族博物館が設立予定とされ、アイヌ文化は世界的に注目を集め始めています。アイヌの人々は、動植物、生活の道具や家、山や湖などの自然自然現象のそれぞれに「神(カムイ)」が宿るとして敬い、人間も自然の一部であると考えています。 自然は神そのものであり、アイヌの暮らしに欠かせない存在とする自然観は、大雪山にも生きているのです。広大にして雄大な、火山群を成す大雪山は、「神々の遊ぶ庭」とされ、アイヌの人々の暮らしぶりや自然観を追うことのできるスポットでもあります。

旭川市北部の自然公園「嵐山」にある、「アイヌ文化の森・伝承のコタン」。ここでは伝統的なアイヌの家(チセ)に出会える

 アイヌの人々の、自然を愛でる気持ち、敬う気持ちは、なんとも美しく、社会の発展の限界が見えた感のある今、まさにバック・トゥ・ルーツ、教えてくれることの多い世界観でもあるのです。「神々が遊ぶ庭」であると知りつつ大雪山を旅する気分は、まさしく格別な味わいのあるネイチャー・トリップとなりそうです。

 

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。