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第20回:ディープ・ジャパン・トリップ「伊勢神宮の神嘗奉祝祭にて、初穂を捧げる陸曳きと川曳きを体験」

2018.11.16
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伊勢神宮には、式年遷宮や正式参拝など、ご縁をいただいて何度か訪ねていますが、この度、初めて、神嘗奉祝祭(かんなめほうしゅくさい)の初穂曳(はつほびき)に参加させていただきました。伊勢の神宮で行われる神嘗祭を奉祝して、地元の神領民(しんりょうみん)らが、その年の新穀を神宮の神域に曳き入れ、奉納する行事が「初穂曳(はつほびき)」です。稲穂を奉納する儀式ですが、内宮や外宮まで、その稲穂を運ぶ「陸曳き(おかびき)」と「川曳き(かわびき)」の行事に参加させていただきました。本来は地元の神領民(しんりょうみん)と呼ばれる方々が参加される行事ですので、我々は外部からの参加者、まさに初陣チームです。

身真っ白な出で立ちに、白い法被を着て、準備万端! この旅を計画してくださった株式会社伊勢之里の永井千佳子さんと、そしてこのツアーをご一緒するメンバーと、出陣のポーズ! 今回のメンバーは、建築家、デザイナー、プロデューサー、ジャーナリストと、クリエイティブな面々です。さて、クリエイティブな皆さんの目に、意識に、神嘗奉祝祭がどう映るのかーー楽しみです。

でに大通りには、初穂や米俵を満載した奉曳車(ほうえいしゃ)が佇んでいます。奉曳車とは、大きな車輪のついた木製の台車で、「初穂曳」の幟(のぼり)と神宮を意味する「太一」(たいち)の木札・提灯を掲げ、注連縄(しめなわ)と榊で飾られています。その巨大な車を、2本の太い綱で引っ張って、外宮まで運ぶというのが「陸曳き」ですが、綱は運動会で使われる綱引き用の綱を思わせる極太の綱で、握るだけでも力がいる上に、引っ張るのもかなりのエクササイズ。雨模様で、しとしと雨も降っているので、用意していただいたビニールのレインコートを羽織っているのですが、雨などなんのその、かなりな勢いと気概で綱を握り、引っ張ります。皆の力で引っ張って行くと、そろりそろり、ごとごとと音を立てて巨大な奉曳車が動き出すのを感じて、なんとも言えない荘厳な気分に包まれました。


2本の縄の間に、木遣子がいて、木遣唄を歌い、掛け声をかけてくださる。(写真左)あいにくの雨模様ですが、頑張る気概でいっぱいの私たち初陣チーム。(写真右)

と綱の間には、木の持ち手に白い和紙をつけた采(ざい)を手にした木遣子(きやりこ)がいて、かわるがわる自慢の喉を披露してくれます。木遣子は、陸曳きに勢いをつける存在。「ヨーイトコ、ヨーイトコセー」「エンヤ!」「エンヤ!」と掛け声に励まされて、前に進みます。

ただ、綱を引っ張って入ればいいーーと思っていたら、大間違い。時々、すごくやんちゃなことが起こるのです! 綱をぐるぐる前後に回し始める人がいて、その波が押し寄せてくると、綱を持っているのも大変なくらいに綱がバウンドし始める。その上、2本の綱を持っている人々が駆け寄って、2本の綱を重ねようとする!なんと、間に立っている木遣子と呼ばれる方々が、挟まれて、時に持ち上げられてーー奉曳の熱気は絶頂に!!! しばらくして、再び綱を持つ人々は整然と列に戻り、木遣子が木遣唄を歌い始め、行進は再開。そうしたことが繰り返されて、外宮にたどり着くと、初穂が配られ、外宮に奉納しに行きます。そこからは静謐な空気に包まれ、荘厳な時間が広がります。

曳きの前日、二見ヶ浦に詣でました。伊勢神宮の正式な詣で方としては、二見ヶ浦で禊いでから詣でる、という古くからの習わしがあったようです。しめ縄に結ばれた夫婦岩の周りの海は、波も荒く、しぶきが飛んでくるほど。そのしぶきで禊がれるとあっては、しぶきも有難いお参りです。そのあと、御塩の神様が祀られている御塩殿神社を訪ねました。御塩のお供えは、天照大御神の御鎮座以来、続いていると言われています。鳥居をくぐって境内に入ると、別世界のように静まり返った鎮守の森が広がり、神秘的な空気に包まれます。


夫婦岩の周りは、荒々しい波しぶきが舞う。(写真左)神宮御料の御塩の守り神、御塩殿鎮守神(みしおどののまもりのかみ)を祀る御塩殿神社。(写真右)

特別な計らいで、稲刈りも体験させていただきました。神宮神田のすぐ近くの田んぼで、人生初の稲刈り。用意してくださった鎌を手に、果たしてできるだろうかと不安に包まれたのですが、ザクザクと刈って行くと、なんとも気持ち良く、癖になる?と思うくらい、次々刈っていってしまいました。

翌日は、川曳きに参加しました。初穂を乗せた橇(そり)を、五十鈴川に浮かべ、内宮まで曳いて行きます。地下足袋をはき、川の中に足をじゃぶじゃぶつけて、綱を曳くのですが、川の流れを感じる、そして跳ねる水も浴びる、これもまたとても特別な体験です。

 
伊勢神宮に奉納される稲穂は、この神宮神田から収穫される。(写真左)人生初の稲刈り。しかも、神宮神田で生まれた奇跡の品種と言われるイセヒカリの稲刈りに感動。(写真右)


木遣子の掛け声とともに、五十鈴川で橇を曳く壮大な行事。

神宮に、正式参拝をさせていただきました。詣でるたび、感謝の気持ちが自然と湧いてくる、神秘的でかけがえのない素敵なひととき。自然を敬い、自然と共にあり、自然から芸術や文化を編み出し、何千年もの間、営々とスピリットを受け継いできた「常若(とこわか)」の郷には、いつ訪れても深い懐で迎え入れられる、そんな気持ちに包まれます。一緒に訪れたクリエイターの皆さんも、建築、デザイン、もてなし、グローバルといったそれぞれの観点から、伊勢神宮の世界に、言葉を超えた次元で、無限の可能性と魅力を発見された様子です。

本人の心のふるさとと言われる伊勢神宮は、訪れるたび、さらなる奥深さを感じさせてくれるーー。外宮や内宮の静謐な空気とは正反対の、初穂曳に宿っている熱気は、神域に初穂を届けようという人々の熱い心と願いが込められているようで、とても印象深い、意義深い体験でした。

 

協力:伊勢之里 http://www.iseno-sato.jp/

※2019年初穂曳ツアーに関するお問い合わせは HPのお問合せフォームへ

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。