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特別インタビュー:落合陽一写真展『質量への憧憬』にて、「デジタル世界のノスタルジア」を体感する

2019.01.23
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界的なメディアアート賞、アルス・エレクトロニカ賞を受賞するなど国内外で注目される落合氏の活動がさらに一歩進んで、今度は私たちに写真の新次元を提示する。アマナで開催される展覧会「質量への憧憬〜前計算機自然のパースペクティブ〜」に向けて、落合陽一氏にインタビューする機会を得た。

アマナといえば、ヴィジュアルコミュニケーションの最先端を行く企業であり、進化する写真世界の開拓者として、業界をリードする存在。そのアマナと、落合陽一氏のコラボレーションには、未来を予見させる化学反応が期待される。


Photo by 落合陽一

覧会を間近に控え、慌ただしく活動する落合氏は、いつものように全身黒のヨウジヤマモトに身を包んで現れ、一つ一つの質問に真摯に応じる。

「僕らは今、どんどんデジタルとアナログの区別がつかない世界に入っていっている。SNSを使って情報を受け取ったり発信したり、ほとんどの情報がインターネットで検索すれば出てくるし、スマートフォンで誰でも簡単に写真が撮れる。そうした時に、例えば温かさとか温もりを感じるものって、何だろう。それは、質量に対する愛着、ノスタルジアなんじゃないかと思うわけです。デジタルの空間にはなかった表現、つまり重さとか、湿度とか、高い解像度とか、そういったものへの憧れや愛着を、純粋に撮ってみたら面白いんじゃないかと思ったのが始まりですね」

今回、落合氏は、あえて7、8年前に発売されたライカのデジタルカメラを用いて撮影し、ソルトプリントという、19世紀に写真家タルボットが発明した印画紙にイメージを定着させている。撮影された内容は、地面に落ちてくるまっている葉や、鉄塔、夕陽など、繊細な光とミクロ・マクロの構図で捉えられた地球上のどこかに潜む叙情的な心象風景的イメージが、塩と銀というずっしり重たい質感を伴うソルトプリント技術を使い一枚一枚手作業で物質化されている。

「僕らの世代には、フィルムにそこまでノスタルジーを感じる感性はないです。僕が何にノスタルジーを感じるかと言うと、例えばCCDのイメージセンサーに乗ってくる光って、赤がぐちゃっと潰れたり、暗い中に緑がいっぱい混ざったり、あれってノスタルジックだよねって思う。つまり、フィルムのノスタルジアと違うノスタルジアが、デジタルにはある。僕らは、コンピュータグラフィックスという質量のない世界で研究をしていて、 CGで表現されているものとは全く違う質量があり、それを見たいと思っています」

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合氏の言う「質量」を落合氏に解説してもらうと、「物質性というか、解像度がものすごく高いもの。それが故に、不完全であったり、数学的でないもの」。それでは、我々の今いる現実世界がまさに「質量」の世界なのかと言うと、その定義も変わってきていると言う。「デジタルの空間にいる人間からすると、その質量性はだんだん現実世界からも失われていくと思っています。例えばインスタで撮った方が綺麗に見えることってあるじゃないですか、いわゆるインスタ映え。それは現実の世界から質量が減っているからだと、体感的に感じています。つまり、インスタに変換した瞬間に完成される作品は、質量を取り去った瞬間が一番きれいに見えていて、そう考えると、物質って何だろう、質量って何だろうといった意味が出てくる、最近はずっとそのことを考えています。」

デジタル世代にとっては、フィルムの世界に感じるノスタルジーより、デジタル世界の中に生じるノイズや不完全性の方が、はるかにノスタルジックに感じられると言う。「初期のデジタルカメラはノイズがあるし、あんまりきれいに撮れない。けどそのノイズこそが美しい。フィルムにはなかったデジタルの視点で面白いです。」

デジタルとソルトプリント、その対極的な組み合わせから見えるものは何か?「今回は、デジタルで撮ってソルトプリントしたことで、質感のあるものができた。デジタルの高解像度の映像を、ソルトプリントする。これって、ある種すごく不思議ですがこの組み合わせでしか作れない仕上がりの質感は非常に美しいと感じています。」

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ヴァーチャルとリアリティ、と言う二極化の構図は、アナログ世代が幅を占めていた時代の産物だったのか? デジタル世代においては、境界線は意味を持たず、時に曖昧で、地続きの世界なのかもしれない。

「僕はフィルムの画像と、SDカードによる画像データは、ほぼ同じものだと、ふだん処理していて感じます。その感覚に、実際の社会が近づいてきているのが、アナログとデジタルの境界線がなくなってきているということではないだろうかと。ただデジタルが持っているノスタルジアとか、質量が持っているものへの感覚とかは、徐々に徐々に鋭くなっていると感じます。つまりあらゆるものがデジタルになっているが故に、デジタルの世界からものを見ていると、アナログの世界にあった小さな違和感とか、ふだん僕らが見てこなかった美しさとかが見つかるのではないでしょうか。それを日々探しています。例えば、苔が生してくるのが、僕は好きなんです。苔はプログラムしたみたいに生えてくる。視点をかえてこの世界を捉えると今までにない美しさを感じることがあるんです。」


質量への憧憬No.1 鉄骨  Photo by 落合陽一

展覧会開催と並行して、落合陽一の感性と美意識の結晶である写真集「質量への憧憬」が限定200部で発売される。物質と非物質、デジタルとアナログの間から産み落とされたノスタルジックで繊細な世界は、見るものを確実に“次の時代””次の次元”へと誘ってくれそうだ。

 

■EXHIBITION INFORMATION

メディアアーティスト・落合陽一の世界
『質量への憧憬〜前計算機自然のパースペクティブ』

会期:2019年1月24日(木)〜2月6日(水)
時間:11:00〜21:00(会期中無休)
   (展覧会初日の1月24日(木)はレセプション開催のため、 16:30終了)
会場:amana square (session hall/IMA gallery/IMA cafe)
    140-0002 品川区東品川2-2-43 T33ビル1F
    https://imaonline.jp/imaproject/ima-gallery/ 
入場料:無料
主催:株式会社アマナ、落合陽一

 

■PHOTO BOOK INFORMATION

写真集:『質量への憧憬』

販売開始日:2019年1月18日(金)〜
価格:99,800円(税・送料別)
体裁(予定):A3変形、ハードカバー、専用ボックス入り、120ページ(予定)、ソルトプリント写真1点
エディション: 200部限定
予約サイト:https://shitsuryou2019.jp/

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。