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第4回《後編》:「日本に眠る魅力」を呼び覚ます Vol. 4 ~欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)締結で日本にどんなチャンスがあるのか!?《後編》

2017.12.31
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筆者は2017年末より、EUからパルマハムと グラナパダーノのアンバサダーに任命された。これはそのディプロマの証明書。

 

EUのコミュニケーションのやり方を知れば、日本ブランドの戦略の道筋も見えてくる。

は、2017年の秋から欧州連合(EU)に任命されて、イタリアのパルマハムとグラナパダーノ(チーズ)双方の、アンバサダーに任命されました。任期は未定ですが、おそらく数年の契約になると思います。このアンバサダーとは、いわゆる親善大使のような役割で、イタリアを代表する二つのプロダクトとその背景にある食文化の魅力を広める目的を担っています。私は、ジャーナリストとして、イタリアの食文化についても長く取材を続けているので、そうした知見が評価されての任命だと思います。そして、先ごろパルマハムとグラナパダーノの生産地である北イタリアを巡り、改めてその魅力について現地取材をしてきたところです。

 さて、前編でもご紹介したように先ごろ日本とEUは経済連携協定(EPA)を妥結しました。相互の多くの物品の関税が即時、あるいは漸次撤廃される予定で、パルマハムとグラナパダーノもEU側の代表的な品目に入っています。実は、私がアンバサダーとしてEUから期待されていることは、そうしたメリットの告知ではなく、前編でも展開したEPAのもう一つの大事な目的———双方の地域の農水畜産物を守る地理的表示(GI)の保護にあると思っています。GIというのは、地域にちなんだブランド農水畜産物を守る制度ですが、パルマハムとグラナパダーノの双方はEUを象徴するGIのアイテムだからです。EUは、私を通じてパルマハムとグラナパダーノのGIとしての魅力の本質を、日本の多くの人に伝えたいと思っているのです。もちろん、私は双方のプロダクトや食文化、あるいはそれを大切に守っているイタリア人の感性に強く共感しているので、この任務を受けているのですが。同時に、この活動を通じて、日本の農産物の魅力をEUに広めるチャンスはどこにあるか、ということも探っています。

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グラナパダーノは、EUの認証を受けて長年にわたり伝統的なレシピを厳密に守っているイタリアのチーズ。1996年に原産地名称保護(PDA)にも認定された乳製品でもある。

産物を守るというと、日本ではすぐに生産者の保護政策の方に思考が巡りがちです。今回のEPAでも、今後は設備投資など生産者への支援に多くの政府予算が投入されることになるでしょう。もちろんそれも大切ですが、地理的表示(GIの保護とは何も生産者だけを守れば達成されるわけでなないことに、日本の行政もマスコミも、そして生産者自身も気がつくべきだと思います。ポイントはGI護とは、名称の保護が大事でもあるということです。EPA施行後は、日本のハム製品に「パルマ」という名称が使えません。パルマ・スタイルやパルマ風もNGです。名称はブランドのアイデンティティそのものだからです。逆説的ですが、結果的に私のアンバサダーとしての活動の目的も、ここに帰着するのです。これは、コピーを徹底的に排除するための、EUのしたたかな戦略が隠されているのです。

 逆に言えば日本の農産物をEUに展開するための大きなヒントが隠されていると思います。前編でも書きましたが、日本は今回のEPAで「日本酒」や「特選松坂牛」など43品目がGIの対象になっています。ならば、私がEUからアンバサダーに任命されたように、EUのインフルエンサーに、日本酒アンバサダーとか松坂牛アンバサダーになってもらってもいいと思うのです。彼らを通じて、EUにおける日本のGIの表記の徹底を図るだけでなく、そうした人を実際に日本に招いて、日本のGI農産物の魅力を知ってもらい、さらに啓蒙してもらうのも有効な手段だと思うのです。それも一つのコニュニケーション戦略だと思うのですが、そうした戦略に予算を組もうという話が、どこからも聞かれないのは、あまりに残念なことだと思います。

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2017年秋に、グラナパダーノの生産地を取材する筆者。その取材の模様は、日本のテレビ番組や雑誌などでも紹介している。

 ブランドのイメージ戦略とは、もの作りの現場のクオリティを守ることも大事ですが、それと同じくらいコニュニケーション戦略も大事です。EUの強みは、そのことを農水畜産関係者たちも、よく知っているということです。実は、今回のEUとのEPA締結は、そのことを学ぶ上で、大きなチャンスになると思っています。

 

 《前編はコチラから》

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。