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第8回《後編》:若手料理人の国際料理コンクールで、日本人シェフが初の世界一に輝く!

2018.05.20
図1

 

写真左:若手シェフ世界一のタイトルを獲得した藤尾康浩シェフ(「ラシーム」/大阪)
写真右:メンター・シェフのルカ・ファンティン(「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」/東京)

 

欄の前編でも詳細を伝えたが、30歳以下の料理人の世界一を決める、国際料理コンクール「第3回 サンペレグリノ ヤングシェフ2018」の決戦大会で、日本地区代表の藤尾康浩(フジオヤスヒロ)氏が、世界一に輝いた。同コンクールで日本地区代表、あるいは日本人が世界一となったのは初となる。コンクールの詳細は前編をご一読いただきたいが、世界で約3,000人の候補から選ばれた21地区の代表21名のシェフたちによる決戦大会が、去る5月12日(土曜日)と13日(日曜日)の二日間にわたってミラノの特設会場で開催され、7人からなる審査団の試食・審査の結果、日本代表の藤尾が世界一の栄冠を勝ち取った。それだけではない。このコンクールには、競技参加者ごとに「メンター・シェフ」と呼ばれる“指南役”のベテラン・シェフが付き、いわば即席の師弟チームによるコンペになっているのがユニークなところだが、その21人のメンター・シェフたちが、審査員とは別に投票する特別賞「アクアパンナ テイスト オブ オーセンティシティ アワード」も、藤尾が受賞した。言ってみれば、今回の決勝大会は藤尾の圧勝だったということなのだ。

今回の結果は藤尾の実力はもちろんのこと、メンター・シェフであるルカ・ファンティンの力添えも大きかった。結果発表の壇上で、藤尾とともにルカが涙を浮かべて喜んでいたのは、会場の人々はもちろん、同時中継を見ていた世界中のガストロミーファンたちに大きな共感を生んだに違いない。お二人には、心より賞賛を贈りたいと思う。

 

世界一の栄冠を勝ち取った壇上で感極まった表情をする、藤尾とルカ。会場から惜しみない拍手が贈られた。

ら日本代表は、なぜ世界一になれたのだろうか?

過去のこの大会の取材経験も踏まえ、私なりの見解をお伝えしたいと思う。まず料理についてである。藤尾の料理は「Across the Sea」と題された鮎を用いた料理であった。私は、日本予選の時、彼が鮎を料理すると知って、難しい食材を選んだなと思った。日本人にとって鮎は特別な思い入れのある食材だが、海外の人にはその魅力の奥深さの部分が伝わりにくいからだ。もっとも海外経験も豊富な藤尾のことだから、それを逆手にとる戦略だと直感はしていた。その結果が、この皿である。

藤尾が今回作った鮎の料理「Across the Sea」

写真だとわかりにくいかもしれないが、鮎は頭と肝の部分が外され、腹には詰め物をして調理され、魚身とは別に肝のムースやキュウリと青いトマトのジュースなど、鮎のフレーバーの要素を付け合わせ的に分解して、食後感で鮎の魅力を再構築させていた。この調理法を壇上で問われた藤尾は明快な答えをしていた。「日本で鮎は、一般的に一匹丸ごと炭火焼きにして、頭から肝まで全て食すのが醍醐味とされますが、日本以外の人にとっては一般的でない」と藤尾は説明する。というのもキリスト教徒を筆頭に、海外では魚を頭や肝や尾ヒレまで、丸ごと食すのは好まれないからだ。鮎は淡水魚であるから、なおさら抵抗があるだろう。

果的に藤尾の調理した鮎は、一口で食べやすいように工夫してあり、最初の一口だけでも鮎の美味しさのフレーバーが、審査員にもダイレクトに伝わったようであった。実は、こういった料理コンペの料理で重要な戦略の一つは“ひと口”で味やコンセプトが伝えらえる、ということなのだ。今回の競技者は21名であるから、審査員は合計21皿の料理を食べなけば審査にならない。皿に盛り付けられた料理全てを食することはとても無理。一口でメッセージを伝えられるかが、勝敗の定石なのである。そのあたりは、国際経験豊富なルカが、しっかり指導していたと思う。

決戦会場は、ご覧のようにショーアップされた雰囲気の中で開催された。日本で開催される料理コンペなどとは、比べものにならない演出だ。

料理以外でも藤尾の勝因がある。それは、彼の英語でのプレゼンテーションだった。壇上でも女性MCが藤尾の英語力を褒めていたが、それ以上に彼が鮎を素材として選んだコンセプトを朴訥と明快に説明したのは印象的だった。ちなみに彼が鮎という素材を選んだ理由とは、日本の「季節感」を表現する食材であり、海と川を行き来するということから、日本の豊かな自然との調和の象徴であり、何より、世界に通じる味わいのハーモニーがあるから、と説明していた。それは、会場の多くの人にストレートに伝わっていたようだ。

藤尾が料理とともに、審査員に渡したイタリア語版「釣りキチ三平」の鮎釣りの場面。

して、藤尾は審査員に特別な秘策のプレゼンをしていた。料理と一緒に漫画『釣りキチ三平』の鮎のページのコピーを渡していたのだ。しかもその漫画は、英語バージョンだったのだ。ご存知の方も多いと思うが、『釣りキチ三平』はイタリア語でも翻訳出版されて、イタリアでは大人気なのだ。手前味噌で恐縮だが、漫画のアイデアは、私が事前に日本で藤尾にアドバイスしたものだ。日本人にとって鮎の特別感とは、その釣り方にも起因する、というのが私の持論だ。鮎は色々な釣り方があるが、象徴的なのは「友釣り」だ。これは鮎の成魚が縄張りを作る習性を利用して、竿の糸の先に行きた“囮鮎”をつけて、わざと体当たりさせて囮に仕掛けた針にかける釣法で、非常に難易度の高い釣りとされる。そんなことは海外の人はもちろん、日本人でも知る人は少ない。「三平は、子供ながらに鮎釣り名人なのだ」というようなことを漫画で説明したらと、藤尾に伝えておいたのだ。それがどのくらい効果があったか知らないが、英語版を探し出して本番で使うあたり、藤尾のプレゼン力の柔軟さだと思う。

これも結果的であるが、今回の日本代表はある意味で、世界の料理業界が求める「ダイバーシティ」を体現していたのだなあとも思う。藤尾は英国やフランスでも修業を積んで大阪で腕をふるう料理人である。一方、メンター・シェフであるルカ・ファンティンは、イタリア生まれで日本に渡り、日本の食材にリスペクトしたイタリア料理を作って評価されている。その二人が日本代表としてイタリアで開催されるコンクールで評価されているのだ。そのあたりを読み解くと、今後の世界のガストロミーのトレンドも垣間見えるのではないか。少なくとも、これから世界を目指す若手シェフは、ぜひこのアワードを参考にして欲しい。

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。