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第9回《前編》:六郷満山1300年の節目に大分県国東半島で開催された『DINING OUT KUNISAKI』

2018.06.03
国東3

 

 『Dining Out』ダイニングの会場となったのは、六郷満山(ろくごうまんざん)でも最も由緒のある寺院の一つ、文殊仙寺
入り口には、国東の象徴とも言える石仏仁王像がある

 

回で早くも13回目を迎える『DINING OUT』が、去る5月26日、27日の2日間にわたり大分県国東市で開催され、合計約80名のゲストが参加した。

私は、ホストとしてこの『DINING OUT』に深く関わってきたが、今回の国東で6回目のホストを担当することになった。よく勘違いされるのだが、『DINING OUT』とは、スターシェフによる単なるポップアップ・レストランではない。日本のとある地域にスポットを当て、一流のシェフと共にその土地の潜在力を掘り起こす、五感の総合エンタテイメントである。主役はシェフではなく、むしろ地元の人たちであって、彼らと共に協働で地元の魅力を再編集する、大人のための美食文化祭と言ってもいいだろう。

 

文殊仙寺(もんじゅせんじ)の本殿横に作られたオープンキッチンとダイニングの会場

 

DINING OUT』では毎回、起用されるシェフにも注目が集まるのだが、今回選ばれたのは、東京・麻布「茶禅華」の川田智也シェフである。川田シェフは中国料理を専門とし、「麻布長江」で修業した後、「日本料理 龍吟」でも研鑽を積み、2017年2月に「茶禅華」をオープンさせた。「和魂漢才」をコンセプトに、中国料理の豊穣なるレシピの奥深さに、日本料理の季節感や繊細さを加えた独自の表現によって、いま美食業界で最も注目されている若手料理人の一人でもある。

 

川田智也シェフは1983年生まれ。2017年2月にオープンさせた東京・麻布「茶禅華」は、わずか9ヶ月でミシュラン2つ星を獲得

 

て国東半島は、半島全体が火山由来の岩の塊になっていて、自然現象で出来た岩の窪みは「岩屋」と呼ばれ、古代より山岳信仰の修行の場になってきた。国東半島は、日本の“神仏習合”の象徴とも言われ多くの仏教寺院が点在するが、それらは「六郷満山」と呼ばれ、今年がその開山1300年の節目の年になっている。今回、ダイニングの舞台となったのは、その六郷満山の寺院の中でも最も由緒ある寺の一つ、文殊仙寺の境内の本殿の脇の特設会場だった。文殊仙寺は「三人寄れば文殊の知恵」でも知られる知恵を授かるご本尊として広く信仰を集めているが、ゲストたちは、石仏仁王像が鎮座する入り口から330段の階段を登ってダイニングへとアプローチした。欅の根がタコの足のように絡み合う、巨石の壁の前に仕立てられたダイニングには、客席の目の前にオープンキッチンが設置され一体感を演出したのだった。

国東半島は、古来より修行僧による「峯入り」という回峰行が行われていた。筆者もホストとして修行僧の装束で臨み、法螺貝を吹いた

 

DINING OUT』は、その土地の食材や伝統料理を使ったオリジナルの料理を味わえるのが大きな魅力だが、川田シェフが事前のリサーチの末に選んだのは、「国東オイスター」や天然のワカメ。特産のシイタケや日本では珍しい養殖ドジョウや桜王豚など、選りすぐりの食材がチョイスされた。中でも川田シェフが特に気に入った食材が、「三島フグ」である。三島フグは国東半島で取れる地魚だが、場所によっては高級食材として扱われるのだが、地元では“外道的”な扱いで安価で取引されている。それを、市場で見つけた川田シェフは、四川省伝統の「ガンシャオユイ」という料理を思いついたという。内陸の四川省では、ナマズなどの川魚をその調理法で美味しい料理にするが、「三島フグ」は川魚に見えなくもない。結果的に、今回の11皿のコースの目玉の料理に仕上がった。

揚げるとツノが出る「三島フグ」。国東半島の“鬼”をテーマにした今回のスペシャリテ

 

こちらは、桜王豚を使った「峨眉山」仕立て。川田シェフがかつて訪れた中国の峨眉山へのオマージュの一皿。実は、文殊仙寺の山号でもある

ンシャオユイ」とは、魚を揚げた後に餡掛けにするのだが、面白いことに、この「三島フグ」は揚げると胸ビレの両サイドから2本のツノが生えるのである。川田はそれを鬼に見立てたのである。国東には古代より鬼を信仰する文化が伝わる。鬼と言っても国東で鬼は悪者ではなく人々を導く仏の化身である。今でも国東の一部の寺では年明けに、「修正鬼会」と呼ばれる鬼が登場する火祭りの奇祭がある。川田シェフは、調理中に偶然ツノが生えた三島フグを、国東の鬼に見立てたのである。これは偶然なのだが、今回の『DINING OUT』の直前に、国東は日本遺産(Japan Heritage)に登録されたのだった。そのテーマはなんと「鬼が仏になった里『くにさき』」だというのであった。

その土地の気候風土や、自然の恵みや食文化や悠久なる歴史。そこに住む人々の営みまでも掘り起こし新しい物語として紡いていく『DINING OUT』

国東という土地が持つ潜在力の大きさを、ゲストだけでなく地元の人たちも共有できたという意味において、過去の『DINING OUT』に比べても極めて完成度の高い会になった。個人的には、国東は大分空港に隣接していることから、インバウンドを含めたアクセスの優位性も極めて高いと思うのであった。今後の課題は、その潜在力をどのように未来へと繋げるのか。いずれにせよ、そのポテンシャルの高さを大いに期待させる『DINING OUT KUNISAKI』であった。

 

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。