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第9回《後編》:『DINING OUT KUNISAKI』はなぜ面白かったのか ~奇跡の料理ができるまでの舞台裏~

2018.06.18
国東後編1

国東の土地のパワーを感じるため、国東半島の修行「峯入行」でも使われる険しい山道を巡礼する川田智也シェフ

 

13回となる『DINING OUT』が、大分県の国東市にある古刹、文殊仙寺で開催され大成功に終えたのは前編でお伝えしたとおり。今回は、その舞台裏の物語について少し触れようと思う。

DINING OUT』の味わいどころのひとつは、スターシェフによる新たな料理の誕生の瞬間に立ち合うことである。「どんなシェフが、どんな土地を舞台に、料理をつくりあげるのか」。毎回、その発表にドキドキさせられるが、その対比の妙も含めたセレクトこそ、『DINING OUT』の面白さの原動力になっている。あらためて、過去の『DINING OUT』の土地と担当シェフを振り返って気づくことは、本来その土地とシェフの間に、縁やゆかりがないことだ

■過去の『DINING OUT』一覧
http://www.onestory-media.jp/post/?id=464

たとえば、シェフがその土地出身だとか、シェフがかつて修業した店があるとか、そんな関係がないのがユニークなところである。むしろ、意外な組み合わせであることが多いと感じるだろう。筆者はホストという立場から、その経過をある程度知っているが、開催地の選定やシェフの選定の最終的な決定権は、総合プロデューサーの大類知樹さんに委ねられていて、開催地の人がシェフを決めるわけでも、シェフが開催地を決めるわけでもない。むしろ、シェフには大類さんから突然に指命が入り、多くの場合シェフ自身とあまり縁のないところ、あるいは一度も行ったことのない土地で指命されるケースが多い。それは大類さんの確信犯的な狙いかもしれないが、だからこそ、多くのシェフは指命された瞬間に、大きな期待と不安の間で逡巡するのである。

国東の地元の魚市場で、地物の魚を選ぶ川田シェフ。地元の人が見落としている旨い魚はいないのか?ハンターのような視線が、隅々に向けられる

「思わず目線があった!」とシェフがいう、三島フグ。ミシマオコゼとも呼ばれる高級魚であるが、なんと地元ではこの箱いっぱいで数百円で取引されていた。後に、この魚が今回の『DINING OUT KUNISAKI』の目玉になった

 

は、最初は断ることも考えていました」というのは、今回の『DINING OUT KUNISAKI』を担当した東京・広尾「茶禅華」の川田智也シェフである。「正直、国東がどこにあるかも、よくわかっていませんでしたから」。未知なる土地の未知なる食材で、新たなコース料理を短期間で作らねばならないプレッシャーは、私たちにだって容易に想像できるだろう。しかも、『DINING OUT』は、アウェイの屋外のダイニングで40人の料理を提供しなければならない。30代半ばの若い川田シェフにとって、それは重圧そのものだったに違いない。

国東といえば、原木椎茸だが、こちらは品種ごとに味わいと香りを際立たせたつくりの生産者。その甘美な匂いに陶然なる川田シェフ

かし、その逡巡や葛藤を超えていく過程こそが、『DINING OUT』本来の醍醐味に通じるのである。今回の川田シェフもそうだが、シェフに指命がきてから本番まで、最長でも半年あまりしかない。それまでにシェフは何度も現地入りして、地元の市場や生産者、漁師や猟師たちを訪ね歩き、料理のヒントになる素材を探し巡る。そのひとつ一つを食すことで、徐々にその土地のもつ味わいやフレーバーを自分のものにしていくのであった。それだけではない、川田シェフの場合であれば、国東半島に伝わる伝統料理や伝統食について長老や関係機関を徹底的に取材し、土地がもつ食の背景を徹底的にあげている。時に修験道の山道に入り、そのダイナミズムを感じ、国東半島が作られた地学的な生い立ちを学び、そこから素材の魅力を紐解いたり、六郷満山(ろくごうまんざん)に伝わる「修正鬼会」(しゅじょうおにえ)と呼ばれる土着の奇祭から調理法を編み出したのである。

文殊仙寺で護摩祈祷をする。天台密教ならではの祈祷に伝わる謂れから、地元の人々の願いや営みを紐解く

 

熊野磨崖仏を巡礼するシェフ。こうした歴史的遺蹟からも料理のヒントを探る

地元の銘酒「西の関」の蔵元・萱島酒造で、テイスティングをする。結果、本番でもつかうことになった

DINING OUT』の料理は、そうやってシェフ自身が知らない土地で、まだ知らなかった食材や食文化を探しだして作り上げるものであり、そこが普通のレストランと大きく違う魅力になっている。独断を承知でいえば、『DINING OUT』の料理は、単に美味しい不味いを論じる料理ではない。むしろ、旨い不味いを超えて、味わいの彼方に紡がれた物語を味わうための料理なのである。だからこそゲストは、シェフの軌跡を追体験することで、知らない土地で美味しさに目覚める、というダイナミズムまでも味わえるのである。

 

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。