日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

第10回:2018年度「世界ベストレストラン50」の結果から、 レストランの世界的な潮流を読み解く

2018.07.16
フォトキャプ_0D5D8F5E

2年ぶりに1位となった、イタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」

 

2018年度「世界ベストレストラン50」アワードが2018年6月19日、スペイン・ビルバオにあるエウスカルドゥナ国際会議場で開催され、今年度の世界のトップ50のレストランが表彰された。「グルメ界のアカデミー賞」とも称されるこのアワードは今年で16回目を迎えるが、世界中から食に関わるあらゆるトッププロたち1000人近くが、ビルバオの街に集結した。

果はニュース速報などで世界中に配信されたので、すでにご存知の方も多いと思うが、イタリアのモデナにある「オステリア・フランチェスカーナ」が、2年ぶりに1位の座に返り咲いた。同レストランは2016年に初の1位に輝いたが、昨年は2位に甘んじていただけに、シェフのマッシモ・ボットゥーラ (Massimo Bottura) 氏は、壇上で嬉しさを隠さなかった。


2018年度「世界ベストレストラン50」のアワードはスペインのビルバオで初開催となった

ボットゥーラ氏は、卓越したクリエーションでも定評あるが、近年はミラノ万博(2015年)を契機に食材ロスと貧困をテーマにした食堂「レフェットリオ (Refettorio)」を設立したり、世界中で講演やイベントを行うなど、シェフの範囲を超えた社会活動などでも評価が高い。彼の料理や活動を知る上でも『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』(池田匡克著、河出書房新社)をご一読頂きたい。

『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』(池田匡克著、河出書房新社)

 

者の池田匡克氏は、イタリア在住の世界的なジャーナリストであり、ボットゥーラ氏との親交も厚くその視点は多くの示唆に富む。なぜボットゥーラ氏が世界一のレストランとなり得たのか?その背景を探る上でも、現在のレストランの世界的な潮流を知る上でも必読の一冊だと思う。ちなみに日本評議委員長としての私のインタビューも数ページにわたり記述されているので、私のボットゥーラ氏への見解もこちらを参考にして欲しいと思う。

セレモニーの会場となったスペイン・ビルバオにあるエウスカルドゥナ国際会議場

 

さて、今回の「世界ベストレストラン50」の結果を私なりに総括してみたい思う。まず、「ファインダイニングラバーズ」のオフィシャルのサイトに今回の結界について興味深いデータを発表したので、まずはそちらをご参照頂きたい。
https://www.finedininglovers.com/blog/news-trends/worlds-50-best-restaurants-2018-infographic/

 

50店の大陸ごとの内訳だが、欧州28、北米8、アジア7、南米5、豪州1、アフリカ1 となっている。国別だとスペイン7、米国6、フランス5、英国4、イタリア4、ペルー3、日本3、タイ2、メキシコ、2オーストラリア2、以下1店舗が、ブラジル・チリ・中国・デンマーク・ドイツ・ノルウェー・ロシア・シンガポール・スロヴェニア・南アフリカ・スイス・トルコとなっている。結果だけ見ると、圧倒的に欧米のレストランが多いのがわかる。比べるとアジアの7店舗は、かなり少ない印象だ。日本は、ハイレベルなレストランが多い割には、3店舗は不当に少ないと思われるかもしれないが、国別だとペルーと並んで6位である。

今回は、ビルバオがあるバスク州ビスカヤ県が中心となってこのアワードを誘致した

さて、このランキングは、ルールが示すように審査員が実際に食べたレストランしか投票できないシステムである。審査員が多くいる国やエリア内のレストランに優位性があるのは自明であろう。現在、評議委員長は私を含め世界で26人いるが、その内訳は10人が欧州(北欧、ロシアを含め)で、4人が北米である。ざっくりした言い方をすれば、評議委員長以下、審査員の半数以上が欧米に偏っているのである。ランクインしている半数以上が欧米のレストランという結果を含めランキングの順位の考察には、前提として審査員のバランスについて差し引く必要があると思う。

はいえ、トップクラスにランクインするためには自国以外の審査員の票も必要になる。今回1位になった「オステリア・フランチェスカーナ」は、審査員やジャーナリストたちからの事前の評価が高く、国や地域を超えて支持を集めた結果となった。もっとも、開催地が3年ぶりに欧州に戻ったことで、来年は欧州勢の若手の台頭も含め、波乱含みではある。開催地は、翌年のランキングに大きく影響するからだ。2015年にアワードがニューヨークで開催された昨年の2016年度でニューヨークの「イレブンマジソンパーク」が1位になり、2017年にメルボルンで開催された翌年の今回、31位だったメルボルンの「アッティカ」は、10以上ランクアップして20位につけている。

右から「傳」の長谷川在佑シェフ、「日本料理 龍吟」の山本征治シェフ、「NARISAWA」の成澤由浩シェフ

17位ランクインで「ハイエストクライマー賞」を受賞した「傳」の長谷川在佑シェフ

のデータが示すように、今回は新たなレストランが9店もランクインして入れ替わったが、そんな中で極東の日本において「NARISAWA」や、「日本料理 龍吟」が長年にわたりランクインし続けていることは特筆に値するだろう。世界から根強い支持を得られている証とも言えるが、とりわけ28もランクアップして17位につけ「ハイエストクライマー賞」までも受賞した「傳」の躍進は驚異的ですらある。この「傳」の活躍の軌跡こそ、このアワードと、今後のレストランのトレンドを紐解く鍵があると思っているが、字数が尽きたので個人的な考察は別の機会に譲りたい。

いずれにせよ、開催地に有利に働くランキングである以上、日本開催は日本の評議委員長としても悲願である。そのことを、多くの関係者に改めてお伝えして締めくくろうと思う。

 

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。