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「GohGan 大分」は、いかにして 食で地域をイノベーションしたのか?《前編》

2019.01.15
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合計15のコース料理の最初の一皿。これは、「うみたまご」のオリジナルの人気のお菓子のパッケージを、そのまま器に使った。本来は、玉子型のお菓子が入っているが、うずらの玉子を模した一口サイズの料理で提供。料理名は「Bloody Mary」。

昨年11月10日(土曜日)、11日(日曜日)の二日間にわたり、大分県大分市にある大分マリーンパレス水族館「うみたまご」に併設するレストラン「A-Zoo」を貸し切って、地元の豊後料理をクリエイトするイベント、「饗OITA by GohGan」が開催された。料理を担当したのは、バンコクの人気レストラン「ガガン」のシェフ、ガガン・アナンドさんと、福岡のフランス料理店「ラ・メゾン・デュ・ラ・ナチュール・ゴウ」の福山剛さん。両日に渡り合計80名あまりのゲストが、県の内外から参加した。私は、スーパーバイザーとしてこのプロジェクトそのものを監修したのであった。その立場から、このイベントの狙いや趣旨、そして地元に与えたイノベーションなどを振り返ってみたい。

のイベントは大分市が主宰する「豊後料理クリエイトイベント」のプロモーションの一環として計画が進められた。目的は明確で、「食を通じた地域振興と大分への誘客」である。それに付随して地元農林水産物のPR、地元の料理人達に豊後料理の付加価値を高めてもらうという狙いもふくまれていた。もっと噛み砕いて言えば、大分に古くから伝わる食と食材を生かした新たなおもてなし料理を “豊後料理”として定義づけし、それを通して地元の魅力をブランディングする、ということである。その起爆剤として計画されたのが、ガガン・アナンドさんと福山剛さんによる「饗OITA by GohGan」である。そもそも二人のシェフは、4年前からコラボレーションの料理会「GohGan(ゴーガン)」を定期的に開催していた。バンコクと福岡の双方の店で交互に開催するほか、京都やソウルでも開催して、予約の取れない人気イベントになっていた。それも無理のないことで、ガガンさんの店は現在「アジアベストレストラン50」で4年連続で1位を獲得。「世界ベストレストラン50」でも5位。Instagramでは16万人を超すフォロワーを持つ。一方の福山剛さんのレストランも、「アジアベストレストラン50」で、48位にランクインする福岡の人気店である。

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ガガン・アナンドさん(左)福山剛さん(右)と、半年以上の準備を経てイベントを企画した。

回、その人気イベント「GohGan」そのものを大分に誘致し、大分の地域振興に一役買ってもらうことが期待された。ただし、今回はいつものポップアップ的な「GohGan」ではなく、彼らに大分市の食材や歴史や食文化を紐解いてもらい、GohGan流の豊後料理を開発し、それを地元のシェフ達にフィードバックしてもらおうという狙いもあった。いわば、イベントとレシピ開発を一体でお願いをした訳である。

この企画を監修するにあたり、私が裏のキーワードとしたのが、「イノベーティブ」という言葉である。イノベーティブとは、直訳すると「刷新的な」という意味であろうが、業界や地域あるいは、既成概念に新たな価値を創造するという、幅広い意味を込めてキーワードに据えてみた。そもそも、最近のレストラン業界では、従来のジャンルには収まらない、新しい料理のスタイルを提供するお店に、“イノベーティブ”と括る事例が増え、料理やレストランのキーワードとして浸透しつつあるからだ。

例えば、今回の豊後料理のような、地方の伝統的な食文化に新たな魅力を吹き込もうとするのであれば、何らかのイノベーションを仕掛けは必要になるだろう。その文脈において、奇想天外なパフォーマンスの連続で、文字どおりイノベーティブな「GohGan」に、豊後料理をぶつけるのが適任と考えた。

 
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」の創立は1964年にさかのぼる。別府湾に面し遠くは国東半島を望める絶景。かつて水族館の年間来館者数日本一を記録するなど、大分を代表する観光スポットでもある。ここで美食レストランのイベントをするのは初の試み。

場に選んだのは、大分マリーンパレス水族館「うみたまご」だった。大分市を象徴する人気の観光名所である水族館を期間限定の美食レストランにするというのも、イノベーティブな試みとして位置付けた。ガガンさん、剛さんそれぞれには、水族館に事前に足を運んでいただき、導線や演出などの微細に渡る構想を練ってもらい、同時に地元の農林水産物の情報や郷土料理の歴史も幅広くリサーチして頂いた。食材などは、地元に精通する「食ラボ大分(大分食文化研究所)」の協力を仰ぎ、旬の食材や生産者のリサーチ、あるいは食器や器の情報などを、SNSを使い逐次シェフたちに共有し、メニュー開発の準備を進めてもらった。


A-ZOOのキッチンがラボに早変わり。ガガンさん剛さんのスタッフの合計20人余りが、新作に取り組んだ。(写真左)剛さんのスマホには、食ラボ大分から逐次配信される大分の食材情報がインプットされていた。(写真右)

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一皿ごとが驚きの連続。80余名のゲストたちは、想像を超えた豊後料理を堪能した。

かくして、半年以上の準備期間を経て、当日のイベントを迎える訳であるが、一人3万5000円という価格にも関わらず、二日間80名あまりのチケットは、発売開始間も無くソールドアウト。多くのメディアも駆けつけ大成功に終わるのだが、その肝心の料理や当日の模様、ゲストたちの感想あるいはガガンさん剛さんの豊後料理にかけた想い、そしてどのあたりはイノベーティブであったか、などは後編でお伝えしたいと思う。

《後編》に続く

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。