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齋藤峰明コラム第2回:「見立てる」ということ《後編》

2018.01.02
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のように見ていくと、物の価値とはけっしてその物の物質的な価値だけを指すものではないことに気付きます。物は使う人の想いや、異なる使い方によって新しい価値を産み出すのです。

例えばエルメスのケリーバックはとてもわかりやすい例で、世間ではエルメスのケリー=大人の女性の憧れのバックの代名詞とされ、「いつかはエルメスのバックが似合う女性になりたい」とおっしゃる女性もたくさんいます。そんな長年の憧れがようやくかなってケリーを手にするときの女性は、ケリーバックそのものよりもきっとケリーバックを持てるようになった自分自信に感動しているのではないかと思うのです。ケリーは、これまで一生懸命がんばってきた自分へのいわばご褒美のようなもの。また同じケリーバックでも、例えばそれがその女性の母親から譲り受けたものであれば別のストーリーが生まれます。母親が大切に使ってきたバックには母親の人生がいっぱいつまっていて、ともすれば娘さんにとってはバックという概念を超えた母親そのもののような存在になるはずです。そんなふうにして、物には人の想いが宿ることで、どんどん価値が増していくというようなことが起こるのです。

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、日本の伝統工芸は絶滅の危機にあり、このままでは物を作る職人さんがどんどん減り、その技術が途絶えてしまうという状況にあります。我が国は、戦後生活スタイルが劇的に西洋式に変わったので、これまでの日本の生活様式に育まれた伝統技術が淘汰されてしまうのは自然の成り行きです。現代の日本人は着物も着ないし、畳のある家で生活もしません。かつては生活に根ざしていた職人技術が現在のライフスタイルでは必要とされていないのです。しかし、このまま消滅させてしまうにはその技術や精神はあまりにももったいなく、伝統工芸の後継者問題などは度々多くのシーンで語られるところですが、私はこの現状を救うのが「見立て」の精神だと思っています。日本の伝統技術を本来の意図ではないところに転用して活かすことができれば、そこに新しい生命が吹き込まれることになり、必要性が生じれば技術はまた受け継がれていくのですから。それには発想の転換が必要ですが、千利休が日用品を茶道具に使ったように、私たちもまたこれまでの概念にとらわれずに自由な使い方を提案すればいいのです。

 はパリで「アトリエ・ブランマント」というギャラリーを運営していますが、ここに桶職人が作った桶を並べてみました。桶は本来、足を洗ったり洗濯物を洗ったりする用途で作られていますが、言うまでもなく現代の日本人は日々の生活の中で下駄や草鞋を履きませんから足を洗う必要もなく、桶は現代の私たちの生活必需品ではなくなりました。ところが、私が桶をギャラリーでワインクーラーのようにディプレイしてみたところ、これが飛ぶように売れたのです。フランス人にとって本来の用途がどうであろうと、今ここで目にする桶がデザイン的にも美しく機能的にも優れたものであれば、それはじゅうぶんに買う価値のある物になるわけです。そのように、紹介する私たちが今のライフスタイルにあったものへと発想の転換ができれば、日本の技術や文化にはいくらでも可能性が開けるのだと思います。つまり、「見立て」をすることは物の再発見になるわけです。

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を愛でるという精神は、人生にたくさんの豊かな時間を与えてくれます。本来、私たち日本人には形にとらわれずに物事の本質を見る資質が備わっていたのに、大量生産と消費の時代の中で、そのよいところがすっかり失われている気がします。これまでお話してきたような物の概念を考えると、私にとって使い捨ては自分の想いまで捨てる行為のように思えてなりません。

自由な発想でグローバルな時代に合った日本の新しいライフスタイルを提案し、新しい価値を見いだしていくことが、今、私たちがしなければいけないこと。今こそ、私たち日本人が精神的な豊かさを取り戻すべき時だと思うのです。

「見立て」から生まれる日本の新しいライフスタイルにぜひ期待したいですね。

 

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<プロフィール>

齋藤 峰明(さいとう・みねあき)

シーナリーインターナショナル代表 
1952年静岡県生まれ。高校卒業後渡仏。パリ第一(ソルボンヌ)大学芸術学部卒業。1975年フランス三越に入社。1992年、40歳の時にパリのエルメス本社に入社後、エルメスジャポン株式会社に赴任。営業本部長、専務取締役を経て、1998年より代表取締役社長として、日本でのエルメスの発展に尽くす。2008年外国人として初めて、エルメスパリ本社副社長に就任した。
2015年、エルメス社を退社後、シーナリーインターナショナルを設立。代表として、新コンセプトのフットウエアブランド「イグアナアイ」の紹介や、日本の伝統技術及びデザインアイテムを紹介するギャラリー「アトリエ・ブランマント」をパリにオープンするなど、パリと東京をベースに日本の新しいライフスタイルの創出と、世界への発信の活動を開始。ほかにライカカメラジャパン株式会社 取締役、パリ商工会議所日仏経済交流委員会 理事など。
1997年 フランス共和国 国家功労勲章シュヴァリエ 叙勲。

ATELIER BLANCS MANTEAUX (アトリエ・ブランマント)  http://www.abmparis.com/ja/latelier/#1