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齋藤峰明コラム第3回:エレガンスについて《前編》

2018.02.06
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 なぜ今、エレガンスなのか。全てが忙しく動き変化する現代、こんな一昔前のボキャブラリーのような言葉を持ち出すのは時代錯誤なのではないか。と思われる方も多いのではないかと思う。効率とスピード、そして何よりも結果が求められる現代の世の中で、優雅さや品格をイメージさせるこの言葉はもう過去のものであろうか。私は今だからこそむしろエレガンスが求められるのではないかと思う。

エレガンスといえば、一見ファッション用語と思われるかもしれないが、その語源はラテン語で、選択眼を持っていることを意味し、転じてセンスの良いことを指す単語である。エレガンスもセンスも日本語に訳されず、日本人はそのまま使っているのは、まさに感覚や知覚に関係する言葉なので、日本語の語彙に完全に当てはまる言葉がなかったのに違いない。エレガンスという言葉は日本では確かにファッションの分野で使われることが多い。洗練された服や装いそれ自体ををエレガントと言ったり、それらの選択や組み合わせをエレガントと表現したりする。この言葉のニュアンスには日本語の優雅、洗練、品格、調和といった貴族文化に属する言葉が含まれ、事実、ヨーロッパではフランスやイタリアやイギリスなど宮廷文化が栄えた国でよく使われるボキャブラリーである。フランス語の「élégance」は、単に身に付けるものに関する選択の良さだけでなく、人の表情や身のこなし、立ち振る舞い、そして言葉の表現の美しさや巧みさまでを語る時に使う言葉であり、エレガントな服、エレガントな装い、エレガントな立ち振る舞い、エレガントな表現、エレガントな人、エレガントな生き方というように、人に関係するあらゆる部分に使われる。こうなると人の生き方、存在のあり方までを表すことになってくるので大ごとである。

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グレース・ケリー。美しく、エレガントな彼女は時代を越えて愛され続ける。

 ァッションにおいても、これ見よがしに美しさやものの良さを見せびらかしたり、自分の価値観を押し付けたりするのはエレガントではなく、突飛なデザインやあまりに奇をてらった装いは他の言葉で賛美されても、エレガンスという言葉は使われない。相手をびっくりさせたり傷つけたりするような攻撃的な表現ではなく、あくまでも控えめでその場の雰囲気を考慮しながら、相手にも心地よさを生み出す状況を作ることがエレガンスなので、どこかでマナーとも繋がっている言葉だとも言える。

日本には粋(いき)という言葉があり、江戸ではいきといったのに対して京都では粋(すい)と言い、その反対語は無粋(ぶすい)である。ただ江戸の粋という言葉には、ちょっとひねりが効いていて、どこか達観しているところがあり、素直にセンスがいいという意味のエレガンスとはやはり異なるような気がする。粋の話についてはまた別の機会に譲るとして、エレガンスの反対語の
フランス語はイネレガンス(エレガントでない)という単語が存在するもののあまり使われない。それよりもgrossier粗野という言葉や、disgracieux不体裁というように、より直接的に否定的な表現をすることが多い。従ってエレガンスの反対は、相手に不快感を与えることであり、エレガンスとはまずは相手を不快にしないことで成り立つ言葉である。

 のようにエレガンスは社交の世界でよく使われる言葉であり、相手を尊重する精神なしには成り立ち得ない。私がフランスの会社に勤めていた頃、ある社員にその人にとっては必ずしも嬉しくないことを伝えざるを得ない時、役員同士でよく議論したのは、どのようにエレガントなやり方でそれを伝えるかだった。フランスでは数学の問題の解き方でも美しい解き方をエレガントな解き方といい、同じ「正解」でもエレガントでない解き方は賞賛されない。結果が全てではなく、ものごとの過程におけるスタイルが大事なのだ。外交の国でもあるフランスでは外交用語でもある。外交においては単に協調性だけが求められるのではなく、当然自国の利益に鑑み、言い分をはっきりと訴える必要があるのはいうまでもない。ここでも国家間の交渉で、求められるのはエレガントな交渉術であり、相手国にとっても自国にとってもエレガントな解決方法であったり、エレガントな着地点であったりする。

 

《後編に続く》

 

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<プロフィール>

齋藤 峰明(さいとう・みねあき)

シーナリーインターナショナル代表 
1952年静岡県生まれ。高校卒業後渡仏。パリ第一(ソルボンヌ)大学芸術学部卒業。1975年フランス三越に入社。1992年、40歳の時にパリのエルメス本社に入社後、エルメスジャポン株式会社に赴任。営業本部長、専務取締役を経て、1998年より代表取締役社長として、日本でのエルメスの発展に尽くす。2008年外国人として初めて、エルメスパリ本社副社長に就任した。
2015年、エルメス社を退社後、シーナリーインターナショナルを設立。代表として、新コンセプトのフットウエアブランド「イグアナアイ」の紹介や、日本の伝統技術及びデザインアイテムを紹介するギャラリー「アトリエ・ブランマント」をパリにオープンするなど、パリと東京をベースに日本の新しいライフスタイルの創出と、世界への発信の活動を開始。ほかにライカカメラジャパン株式会社 取締役、パリ商工会議所日仏経済交流委員会 理事など。
1997年 フランス共和国 国家功労勲章シュヴァリエ 叙勲。

ATELIER BLANCS MANTEAUX (アトリエ・ブランマント)  http://www.abmparis.com/ja/latelier/#1