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《第2話》近藤誠一氏(元文化庁長官、近藤文化・外交研究所代表)x 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2017.11.01
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 日本人の自然観が独自の発想を醸成

 近藤「最近私が教えた学生の中にも伝統芸能の後継者をサポートするNPOを立ち上げたり、日本の文化に興味を持つ若い人もでてきています。でもまだ点となっているだけで、なかなかつながりきれていないようです」

齋藤「僕も大きな視点からそういう人たちを助けてあげないといけないと思います。点を面にするためのプラットフォームになれるよう、このプレミアム・ジャパンも力になっていきたいですね」

 近藤「それぞれが持つ小さいネットワークがつながり大きなネットワークができると、それは社会を動かす原動力になり得るはず。実は現在フランス・アルザスに匠の基地を作ろうとしているんです。いつかそこがネットワークのハブになればと考えています」

 齋藤「面白そうですね。どんなプロジェクトになるのか、ぜひ教えてください」

 近藤「ヨーロッパに存在する日本の伝統工芸品・美術品は、刀剣だけでも国宝・重要文化財クラスが1万本あるといわれています。ギメ美術館やルーブル美術館などであれば、学芸員もいて修復も可能ですが、小規模の美術館や東ヨーロッパでは扱い方がわからずメンテナンスもされておらず、それこそ錆びた状態でもそのままなのが現状なのです。学芸員も自信がないから展示もできていないんですね。そういうものを掘り起こして鑑定し、必要な修復をするプロジェクトです。アルザス成城学園の元校舎と庭園の敷地2.3ヘクタールを1ユーロで売ってくれると聞き、購入して現地法人を設立するつもりです。 

齋藤「それは楽しみですね」

 近藤「“匠”とは人のことでもあり精神のことでもあります。西洋合理主義とは違う、日本人の一種の哲学思想といえるかもしれません。一番の違いは“自然観”ではないでしょうか。人間は自然の一部であり自然と共存することを良しとするのが日本人です。美というものも、自然から教えてもらうという発想が強いと思います。対するヨーロッパはどちらかというと、人間は自然よりも偉く自然を超越する存在だという考え方です」

 齋藤「自然をオーガナイズしているという感覚かもしれません」

 近藤「そうですね。自然を支配していいんだ、自然は材料として、自分たちの幸福のためにいくらでも使っていいんだという発想なのですね。でもだからこそ科学技術が発達したわけですから、西洋の合理主義が悪いというわけではありません。ただ、現在はそれが行き過ぎてしまっているのだと思います」

 齋藤「日本と西欧それぞれの発想の大元が大きく異なっているわけですね」

 近藤「いろんな理由があると思いますが、例えば旧約聖書の冒頭、天地創造では神が人間を作られたときに人間を祝福して『産めよ、増えよ。地上にいるものを従わせよ。地球の支配者になれ』と言っておられます。さらに人間は科学的発見を伝えるための言語があるので、あとから生まれた人がゼロから始めなくても、先人が作った理論や発見の上にどんどん積み重ねて文明が発達できたわけです。だから『人間社会は一直線に発達するもの』という進歩史観が欧米には強いのだと思います」

 齋藤「ところが日本人はそうじゃない」

 近藤「はい。自然の中で一体となって生活してきた日本人は、四季が廻るように、また仏教でも六つの世界に生まれ続けるように、輪廻という発想です。だから常に進歩があるわけではないんです」

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齋藤「G7の中で西洋以外の文化を持っているのは日本だけ。世界のことを決定する上でそれはとても意味があることだと思います。その意味を発揮した方が、世界のためにもなるのかなと思っています」

近藤「96年リヨンサミットでシラクが出したテーマが『グローバリゼーションの光と影』。当時我々日本も、グローバリゼーションはきつい競争を迫られるが、後ろ向きなことを言うのは弱者であって、どんどんその波にのっていかなくちゃいけないという考え方が主流。シラクはそんなアメリカ的な経済一辺倒に対するブレーキをかけようとしているのかなと思いましたね。結局グローバリゼーションの結果が、現在の貧富の差や移民排斥などの問題を引き起こしています。やはり合理主義だけで進むのではなく、感性や倫理など非合理的なことも受け入れて、初めて人間はバランスが取れるのではないでしょうか。サイエンスのような客観合理的な証明ができるものだけが真実ではない、真実とはもっと大きな深いものだという発想も持つことも必要だと思います。そんな中で、日本人はこれだけ近代化して合理主義も受け入れているけれども、それに染まりきらないバランスを持っていると思うんですよね」

 齋藤「経済以外においても発想の違いは大きいですね」

近藤「欧米では芸術は人間が作り出すものという発想が強いですが、日本人は芸術も自然から学び、哲学・思想も自然現象の中からヒントを得ています。新幹線の先頭車両やパンタグラフの設計に際し、空気抵抗を減らすためのデザインもカワセミやフクロウの羽の形状をヒントにしているぐらいですから」

 齋藤「フランスのド・ゴール政権で文化大臣になったアンドレ・マルローは、80年代に『20世紀は物質主義の時代で21世紀は精神主義の時代だ』と言っていました。近藤大使がおっしゃったように、合理主義から日本の世界観のようなところに来ているのかもしれません」

 近藤「まさにマルローは『世界の民族で最後まで生き残ってほしいのは日本民族』とも言っていました。それは日本人が、合理主義とともに感性や非合理性も尊ぶバランスを持ち、なおかつ文化的にも洗練されて繊細な表現ができる、人類を代表すべき民族だということなのだと思います」

 

《第3話へ続く》

<プロフィール>

元文化庁長官、近藤文化・外交研究所代表
近藤誠一

東京大学教養学部卒業後、1972年外務省に入省。1973年~75年英国オックスフォード大学留学。外務省では経済局、広報文化交流部などを担当する。在フィリピン大使館参事官、在米国大使館公使を務めた後、1999年OECD(経済協力開発機構)事務次長に。その後2006年にはユネスコ日本政府代表部特命全権大使、2008年駐デンマーク特命全権大使を歴任。2010年から13年まで文化庁長官。退官後は近藤文化・外交研究所代表を設立。外務省参与(国連安保理改革担当)を務める傍ら、東京大学大学院特任教授、長野県文化振興事業団理事長、京都市芸術文化協会理事長等を務める。「世界に伝える日本のこころ」(かまくら春秋社)、「FUJISAN 世界遺産登録への道」(毎日新聞社)など著書多数。