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《第1話》堀木エリ子氏(堀木エリ子&アソシエイツ代表)x 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.02.15
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に通じる和紙の世界に飛び込んで

齋藤「福井の工房に伺ったのは二十数年前でしたか。堀木さんたちがフードのついた服を着て、張りつめた雰囲気で紙を漉いておられた。すごく劇的な空間と動作で感動したことを思い出します。もともと和紙は神様に捧げるものなんですよね」

堀木「そうなんです。紙は神に通じるという職人さんたちの精神性があって、白い紙が不浄なものを浄化するという考え方から、より白く不純物のないものを1500年追求してきました。そこへ私が30年前に入って、紙に色を入れたり水滴で穴を開けたりしたわけで、大変だったんです。この小娘が何をするのかと」

齋藤「それをなんとか説得して、今は大丈夫でしょ?」

堀木「説得は無理なので、いつか真剣に取り組んでいることがわかってもらえるようにと継続してきました。徐々にご理解をいただいて、今はいい感じのコラボレーションができています」

齋藤「当時はあんな大きな和紙もなかった。昔から和紙に光を当てることは意識されていたのですか?」

堀木「そうです。移ろうことが和紙の面白さ。昔は白い障子を通して部屋の中でも満月だとわかるとか、気配を感じとれるのが日本家屋の情緒と呼ばれる感覚だったと思うので、都会の地下のような閉ざされた空間でも移ろいが演出できないかなと」



漉きの和紙の特長を活かし、新たな価値を生み出す

齋藤「建築空間でやっていくというビジョンは最初からですか?」

堀木「最初からです。というのは、私が和紙の商品開発の会社で経理をしていたとき、会社が閉鎖に追い込まれたという経緯があって。なぜかと考えてみると、手漉き和紙でいいものを開発しても、半年後には機械漉きの類似品が他社から出てくるんです。見た目は変わらないのに機械漉きは安いから、価格で比べられて負けたわけです。手漉き和紙が生き残れる方法を考えたときに、使うほど質感が増して強度も衰えないという特長を活かしたジャンルに進出していかないと残せないと思いました。そこで建築空間に焦点を当てて、和紙の特長を活かし、大きくて移ろう和紙をコンセプトにしたんです」

齋藤「当時、そういう大きな和紙のものを建築空間に使うというのはなかったですよね」

堀木「光を透過した、環境的な使い方はなかったです。手漉き和紙の良さを活かして、何層にも積み重ねて一枚に仕上げていくことで移ろいのある表現をしながら、機能や用途が与えられないかと考えたんです」



齋藤「皆が堀木さんのお仕事を評価するのはそこだと思うんです。手作りのものが素晴らしいと言うけれど、なぜ素晴らしいかの答えが用意されないと意味がない。例えば、エルメスグループにサンルイというクリスタルの工場があって、僕が三十数年前にその工場に行ったとき、職人が何分の一ミリも誤差がないものを手作りで作っていたんです。同じサイズのものを手作りで量産する技術はすごいけれど、今は機械がやってくれるから、違う商品価値を見つけなくてはいけない。でもなかなか難しくて、そういう昔のクリスタルやお皿を作っている工場は経営が厳しくなってきている。日本の伝統工芸もそれで困っていますが、堀木さんはその問題をクリアして、新しい価値を生み出されています」

堀木「私は銀行員でしたが、ご縁をいただいて和紙の世界へ入ったので、素人だったことがよかったと思うんです。職人さんに新しいことを言うと、大体『できない』とおっしゃるんですが、『本当にできないの?』と。私の場合、できることもできないこともまったく知らないから、やってみたらできたということの繰り返しなんです」

齋藤「その道で一流の職人であればあるほど、それまでのやり方に固執してなかなか変われないというのもあるんでしょうね」

堀木「ただ職人さんたちが変わらなければいけないかというと、それはどうなのかなとも思います。職人さんの技術を活かせる人が出てきて、ちゃんと活かしていけばいいわけで。役割分担をしてコラボレーションしながら新しいものを世界へ発信したり次世代につないでいければ、それぞれの立ち位置がぶれることなく、拡がりのある面白い仕事に発展するのだと思います」

 

《第2話へ続く》

 

<プロフィール>

堀木エリ子&アソシエイツ代表・和紙作家
堀木エリ子

1987年SHIMUS設立。
2000年(株)堀木エリ子アンドアソシエイツ設立。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、
2700×2100mmを基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
近年の作品は、「東京ミッドタウン」「パシフィコ横浜」のアートワークの他、
バカラとのコラボレーション、ニューヨークカーネギーホールでの
「ヨーヨー・マ・シルクロードプロジェクト」の舞台美術等。
「和紙のある空間 - 堀木エリ子作品集」(エー・アンド・ユー)、
「堀木エリ子の生きる力~ソリストの思考術」(六耀社)、
「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)など著書多数。

 

文・山本真由美 写真・伊藤信