日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

《第2話》小山薫堂氏(放送作家)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.05.30
齋藤さん×小山さん05

 

プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、放送作家・小山薫堂さんとの対談の第2回。第1回の小山さんの仕事観から始まり、最近特に力を入れているという「湯道(ゆどう)」に話は拡がっていきます。

 

道」とは、日本ならでは入浴習慣の究極

 

齋藤
小山さん、「湯道」とは何ですか?

小山
我々現代の日本人が、日常の習慣として疑うことがない「入浴」という行為は、飲料水にできる水を大量に使うなど、実は非常に贅沢なことだと思います。そして他人と裸で湯船に浸かる風習は、世界的にもとても珍しい。この生活に根付いた文化をより深く考え、実践し、「道」として極めましょうというのが、「湯道」です。2015年に提唱しました。

 

齋藤さん×小山さん04

(写真提供:フェニックス・シーガイア・リゾート)

2016年3月、宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートにオープンした小山薫堂氏プロデュース、湯の道を説く「湯道」を体現した初の湯室「おゆのみや

 

齋藤
日本には何百年も前から、「入浴する」文化がありましたね。一方、ヨーロッパ、特にフランスはカトリック国なので、社会的にお風呂に入ることはよしとされていなかったのです。19世紀までは医師による運動もあり、入浴=不健康という考え方が浸透していました。

小山
香水メーカーの戦略などではなく?

齋藤
いいえ、違います。でも、体臭を隠すため、結果的には香水が発達したわけです。当時、アラブ系には入浴文化がありましたし、一部ヨーロッパにもその考え方は入りましたが、抵抗は非常に強かった。ヨーロッパ北部、ドイツまでは裸になる文化がありましたが、南ヨーロッパはNG。日本のように水が豊かではなかったというのも、入浴文化が生まれなかった理由の一つだとは思いますが……。

入浴で身体を清潔にすることは健康によいと奨励されるようになったのは、やっと19世紀末から20世紀初頭にかけて。僕が最初にパリに行ったのは70年代初頭ですが、当時はマレ地区のヴォージュ広場にさえ、水道がなかったんですから。お風呂があるアパートメントなんて、かなり裕福な家でした。

小山
へぇー!そうなんですか!

齋藤さん×小山さん06

 

齋藤
入浴は実は健康にいい、軽いソースは健康にいい。そんな風にフランス人が現代的な健康に対する意識を高めていった時に、丁度日本の生活文化を発見したという面があるのでしょう。

小山
昔のフランス料理は、ソースが重く、力わざで味の方向性を作っている感じがありましたね。

齋藤
日本人は、自然をありのまま暮らしの中に持ってくるのがうまいじゃないですか。料理しかり、入浴しかり。日本はどこでも温泉が出るので、湯に入るのはごく自然な行為だったわけです。何せ、お猿さんまで温泉に入りますから(笑)。

海外の方は、どちらかというと自然を変えることで、自分たちの生活を確保する。日本人は生活の中で一体化する、共生するという感覚が強い。お茶のような、「普段の生活の中にある文化」がそのまま昇華されて「道」になるのも、宜なるかなと思います。

ですから、小山さんが「湯道」を提唱されるのは、小山さんだからの面白さもありますが、日本の文化として自然な流れなのかもしれません。

 

湯という、日本ならではのコミュニティ

 

小山
僕が想像するに、日本人の性格形成で、建築の様相は非常に大きいと考えているのです。欧米は石や煉瓦造りで、広い家や個室は当たり前。しかし日本は、狭い土地に木と紙で作った家に暮らし、常に他人の気配を感じています。「ごほん」と咳をしたら、聞こえるような。個である以前に「他の中の個」であり、常に誰かを慮らなければいけないという生活環境が、日本文化の特徴の源にあるんじゃないでしょうか。

お風呂も、その一つではないかと。

齋藤
他人との距離感の取り方や、関係性ですか?

小山
僕が最初に叱られた記憶は、保育園児の頃の銭湯なんです。船のおもちゃを湯船に持ち込んでガチャガチャやっていたら、知らないおじさんに「コラーっ! お前、ここでは迷惑だろう!」と。

多分これが、僕の中に初めて「迷惑」という概念が生まれた瞬間なんです。今はどんどん人を叱らなくなってる。大人が子どもを叱らない、叱る場所がなくなっている。そういう自分も、銭湯で他人の子どもに怒る勇気はないんですが(笑)。ですから今でもたまに、頑固なおじいちゃんが子どもに「ちゃんと身体を洗え」とか叱ってる姿を見ると、ああ、昔はこういう社会だったから、人と人の絆が段階的に作られていったのかなと感じます。

齋藤
銭湯には、コミュニティがあり、そのためのルールがありますものね。

小山
銭湯やお風呂には、人を育てる要素がたくさんあると思うんです。

先日、京都にあるフランスのアーティスト・イン・レジデンスであるヴィラ九条山に滞在するデザイナーが僕を訪ねてきました。彼は、「自分の夢はパリに銭湯を作ること」だと言うんです。スパやサロンなどのラグジュアリーな施設ではなく、“ニッポンの銭湯”を作るんだと。

その理由は、コミュニティ。彼は日本の銭湯で人情に触れ、そこにものすごく惹かれたんだそうです。かつてパリのコミュニティの中心はカフェでした。それと同じものを、彼は銭湯に感じたわけです。

その後、彼が東京に来たので一緒に東京の銭湯巡りをしました。多分、フランス人だからこそわかってくれる面があるとは思うのですが、彼と色々話をした中で、「やっぱり、湯道いけるかな」と思いました。

齋藤
フランス人こそが、「湯道」的なものを実は求めているんだと思うんです。

小山
本当ですか? それはなぜでしょう。

 

第1話

第3話

 

 

<プロフィール>

小山薫堂

放送作家。脚本家。1964年6月23日熊本県天草市生まれ。
日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。2008年、初の映画脚本「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得した。作詞に、「ふるさと」(第80回NHK全国学校音楽コンクール小学校の部課題曲)など。

執筆活動の他、熊本県地域プロジェクトアドバイザー、下鴨茶寮主人、京都館館長などを務める。「くまモン」の生みの親でもある。

 

 

構成/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)