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《第3話》小山薫堂氏(放送作家)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.06.13
齋藤さん×小山さん07

 

湯道を体現した初の湯室「おゆのみや」(写真提供:フェニックス・シーガイア・リゾート)

 

プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、放送作家・小山薫堂さんとの対談の第3回。第2回でお話しいただいた「湯道(ゆどう)」にフランス的視点を加えたことで、さらなる展開が……。

 

米に足りない「裸のつき合い」の効能

 

齋藤
西洋はご存知の通り、個人主義。特にフランスはその傾向が強いですね。ですから、銭湯で裸のつき合いをするなんていうことは、彼らの想像の範疇外です。

今年2018年の年頭演説で、フランスのマクロン大統領は2001年に一旦廃止された徴兵制度を復活させる考えを示しました。これは、個人主義があまりにも発達しすぎて、みなで何かを分かち合おうという精神が非常に希薄になっていることが背景のひとつにあると、私は思います。フランスは、概念的には「自由、平等、博愛」の精神を理解しています。しかしフィジカル面ではそれがなくなりつつあるのです。

小山
「同じ釜の飯を食う」徴兵制度と、銭湯には関連性があると。

齋藤
僕が勤めていたエルメスの社員には、フランスのブルジョワ家庭で育った人が多いんです。だから非常にフランス的というか、頭が硬い部分がある。日本法人に対しても、日本流のやり方を受け入れなかったり……。ある時、フランス人で日本の経理担当者と、週末に一緒にスキーに行ったことがあるんです。その夜、僕は彼を旅館の大浴場に連れて行きましてね。もちろん、彼はすごく抵抗するわけですよ。

小山
人前で裸になる!

齋藤さん×小山さん10

齋藤
そうです。非常に抵抗感を示していましたが、それでもみながそうやって入浴しますから、入りました。相当、勇気が要ったと思います。でもね、それからですよ、彼の頭が柔らかくなったのは(笑)。

小山
それは、かなり面白いエピソードです(笑)。

齋藤
そこで、気がついたのです。堅物はまず、温泉や銭湯に連れて行くべしと。タブーを自分の中に抱えている、鎧で自分を固めているタイプの人は、まずそれを解放してあげないといけないんです。真面目すぎて凝り固まっているタイプは、まずお風呂に入れて精神と身体を揉んであげるといい(笑)。

小山
先日、スイスの高級山岳リゾート地・グシュタードでホテルを経営している方から、「湯道のコンセプトでホテルを作れないか?」という相談をいただいたんです。彼らが狙っているのは、ただ飾り立てるラグジュアリーではありませんでした。より内なるもの、さらなる幸福感を得るためには、お風呂は非常にいい装置だと言うんです。

齋藤
僕の友人で、以前、東京に住んでいたイギリス人のエンジニア・カップルがいまして。彼らの夢はオーベルジュ経営。数年前にそれを本当にフランスのラ・ロジエールで実現させたのですが、面白いのはその宿の名前が「シャレー・マツザカ」っていうんですよ(笑)。敷地内に松があって、坂があるから(笑)。

齋藤さん×小山さん11

小山
ええっ! 日本人の方じゃないんですか? 和食屋さんみたいな名前ですね。

齋藤
違います(笑)。焼き鳥や牛カツなどのシンプルな日本料理を出す、四ッ星の高級オーベルジュ。そこにね、彼らは露天風呂を作ったんです。この「マツザカ」に来るお客は、最初は露天風呂が何かも知らないわけです。でも、それがまた人気の所以になる。

小山
みなさん、日本式で入浴してるのですか?

齋藤
家族風呂としての利用ですね。オーナーは「日本人は裸で入る」という話はするそうです。でも、水着を着て入浴する方もいると聞きました。

他にも、スイスに日本人経営の旅館「割烹温泉旅館 兎山」があったり、フランスで温泉を掘ろうと資金集めをしているフランス人の友人もいます。ですから、銭湯や温泉など、風呂文化をヨーロッパに持ち込もうと考えている人はいるんですよ。日本滞在経験があり、お風呂の素晴らしさを実体験した人は、それに魅了されるんですね。

小山
でも未体験の方にとっては、謎が多いでしょうね。ですから「湯道」をやることによって、特に海外の方に、入浴方法や作法をきっちり伝えられると考えたんです。

 

常から生まれる「道」の先には、さらなる広がりが

 

齋藤
「湯道」は、具体的にどんな活動をされているのですか。

小山
まず、京都の家に湯室を作りました。そこでたまに、湯会をします。ざっくり言えば、茶会のような感じですね。料理は、『下鴨茶寮』の料理長に「湯室で食べるのにふさわしい、酒の肴を作って下さい」とお願いして。最初に出たのは、ふろふき大根です(笑)。桶に見立てた器に手ぬぐいが載せてあって。座が進むと、「じゃ、まず正客からひと湯浴びて下さい」とお声がけします。座敷に据えた屏風の向こうに、湯船がある仕掛けなんです。

齋藤
そこでは、みなさん、一緒に入浴はされないんですか。

小山
ウチの湯室のそれは、ヒノキの小さな風呂なので、一人ずつです。今後は大勢で入るスタイルを、また未来に誰かが作ってくれたらいいかなと思っています。まず、あまり型を作りすぎると広まらないでしょう。それに日本人がこれをあまり一所懸命やりすぎても、コントになる(笑)。

齋藤さん×小山さん12

僕のモットーは「歴史は未来に作られる」なんです。僕は未来に「湯道」を語ってくれる人のために、たくさん種を蒔いておけばいい。宮本武蔵は、未来の人が小説に書いたから、今我々が思う“宮本武蔵”がいる。それと同じです。

齋藤
サービス精神が旺盛ですね。

小山
以前、樂吉左衞門さんと対談した際に、「湯道」普及のコツを伝授いただいたんです。「非常に、簡単です。小山さんが死ねばいいんです」と(笑)。

齋藤
そ、それは……、その通りかもしれません(笑)。しかし、やはり小山さんの視点は面白いですね。やはり、毎日の生活に着目されている。日本における「道」の始まりはいつも、日常の中にあったと思います。例えば空手は、武器を持てなかった農民がどう自分たちの身を守るかが発端で生まれました。それがいつしか、「道」になった。みながやることで、行為としての社会性が生まれ、いつしか「道」になったのでしょう。これは、フランスではまずこうは行かないと思いますね。それが、日本独自の個性、面白さではないでしょうか。

齋藤さん×小山さん08 齋藤さん×小山さん09
(左)狐桶 75,600円/中川木工芸 (右)湯道たおる864円/おぼろタオル

 

小山:
毎日の生活といえば、職人さんの世界にも注目しています。今、「湯道」では家元好み(笑)というものを作っていただいていて、今は狐桶や湯桶、手ぬぐいなどがあります。モノによっては、非常に高価ですが(笑)、その分、モノやお湯に対してすごく感情移入をするんです。愛情を持って、接するというか。

齋藤
現代の日本人は、伝統工芸と日常を切り離して考えがちですが、本来は違います。エルメスにはMOFを受章した職人がいますが、彼らは伝統的な技法を使いながら、今、本当に使うモノを作っているのです。伝統の継承が仕事なのではないのです。

齋藤さん×小山さん13

小山
今、雑誌『Pen』で「人間国宝の肖像」という連載を書いているのですが、確かに伝統の継承が目的になってしまい、本来の魅力の発信ができていないと痛切に感じています。

齋藤
「湯道」を通じて、伝統工芸の世界の活性化にまで拡がると、さらに素晴らしいでしょうね。

 

 

第1回

第2回

 

 

<プロフィール>

小山薫堂

放送作家。脚本家。1964年6月23日熊本県天草市生まれ。
日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。2008年、初の映画脚本「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得した。作詞に、「ふるさと」(第80回NHK全国学校音楽コンクール小学校の部課題曲)など。

執筆活動の他、熊本県地域プロジェクトアドバイザー、下鴨茶寮主人、京都館館長などを務める。「くまモン」の生みの親でもある。

 

◆湯道公式サイト
http://yu-do.jp

 

 

構成/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)