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《第2話》杉本博司氏(現代美術作家)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.07.26
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プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、現代美術作家・杉本博司さんとの対談の第2回。江之浦測候所についてお話しいただいた第1回に続き、第2回では銀座メゾンエルメスでの「歴史の歴史」展を核に、話題は“時間”へと進みます。

 

ーティストを育てた古美術

齋藤
LAのアート・センター・カレッジ・オブ・デザイン卒業後はニューヨークに移られ、70年代の終わりからは骨董商もされていましたよね。

杉本
ええ、そうです。ソーホー地区に「MINGEI」という店を出しまして。この経験が、一番勉強になりましたね。何せ、平安時代でも天平時代でも、自分で買い付けては矯めつ眇めつ眺めるわけです。モノをじっくりと見ることで、平安時代の線とはどんなものか、鎌倉時代になるとどう変化するか、室町時代で崩れるとどうなるか……、それがわかるようになってくる。

骨董商になったのはまだ作家としては食えなかったからで、店は10年ちょっと続けました。その後、1995年のメトロポリタン美術館での個展「SUGIMOTO」をきっかけに収入が逆転。それで“売るのを止めた”んです。自分のために買うだけにしました。実を言えば、人のために買うより、自分のために買う方がもっとレベルが高いんですよ。

齋藤
商売の時は、「売れる物」を買わねばなりません。

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杉本
「売れる物」だったら、簡単なんです。浮世絵とか琳派とか。でも商売じゃないとすれば、自分本来の審美眼が試される。

齋藤
僕らより上の世代には日本人にも数寄者がいましたが、最近ではあまりいらっしゃいません。

杉本
益田鈍翁(マスダドンノウ)や原三渓など、財力と趣味を兼ね備えた人はもう見かけませんねぇ。齋藤さんがなればいいんですよ!

齋藤
いやいやいや、財力がないですから(笑)、まずそこからダメですよ。

杉本
僕自身は、時代錯誤の趣味人、孤独であまり仲間も多くない。現代でも財力のあるコレクターはいるにはいますが、自分とはちょっと違うなと感じています。僕は、日本的な正統を引き継ぐ生き残りでしょうね。

青山二郎が「俺は、日本文化を生きているんだ」と言いましたが、70になって僕も、そんな気持ちが分かるなぁと(笑)。

齋藤
本当ですか! うらやましいです。そんなこと、生きている間じゅう、僕には言えないでしょうね(笑)。

杉本
古美術購入は、アーティストとしての教育費、コストであると税務署には言ってます(笑)。そして自分の作品と精神的なよりどころの基礎である古美術を一体化して見せるという初めての試みが、銀座メゾンエルメス フォーラムで2003年に開催した「歴史の歴史」展でした。

齋藤
現代美術のギャラリーで、作品と古美術を一緒に展示するというのは、非常に衝撃的な方法でした。

杉本
「歴史の歴史」展以降、戦前の古物などと併せて展示した「ロスト・ヒューマン」展など、戦争の意味や医療的なものなど、日本美術史だけでなく、世界史、人類史をも巻き込んだ展示をしようという方向になっていきました。ですから、エルメスでの展覧会はきっかけとして重要でしたね。

齋藤

そう言っていただけるなんて、光栄です。銀座メゾンエルメスは2001年の開業からまだ間もない頃で、きちっとしたよい展覧会をしたいと意気込んでいましたから、杉本さんにご協力いただけたことは、本当に嬉しかった。

杉本
そういえば、あの展覧会で展示した《男根の遺言》がありましたでしょう? 縄文時代の石棒を50年代のアルミ製救急ベッドに乗せたもの。担当キュレーターの女性は、あれを触った後に妊娠したんですよ。他にももうひとりいたな。

齋藤
ええ? そうなんですか?! それは初耳でした。えーと、それはさておき……(困惑)、杉本さんは能や文楽なども手がけていらっしゃいますよね。

久と瞬間。常に“時間”と共にある杉本芸術

杉本
2005年、東京・六本木の森美術館でやった「時間の終わり」展で能舞台を作り、それを世界に巡回しました。能に関わるようになったのは、長谷川等伯に対抗して2001年に撮影した「松林図」がきっかけです。

齋藤
コンテンツではなく、環境や装置を作るという点が、面白いです。

杉本
今思えば、無謀でしたよ(笑)。しかしここで、瞬間的に成立する芸能の世界、パフォーミングアーツに目覚めてしまったんです。

齋藤
写真とは、どんな関係性がありますか。

杉本
写真というものは、1回撮れば、パーマネント、半永久装置です。いつ行ってもそこにある。しかしパフォーマンスは、今日が良くても、明日は違うかもしれないし、そもそも失敗するかもしれない。ヒヤヒヤ、ドキドキするんですよね。「ああ、よかったなぁ」と思う一瞬を味わう方が、芸術としての格が上だと思ったんです。

すべての芸術は音楽に憧れるという話があります。瞬間的に儚く消えていって印象だけが残る方が、絵や写真という形に残るものよりも、潔ぎがいいんですよ。

齋藤
杉本さんの代表作といえばまず、映画1本分の光で映画館を長時間露光した「劇場」や、アメリカ自然史博物館のジオラマ展示を撮影した「ジオラマ」などのシリーズが挙げられるでしょう。これらを拝見して僕は、写真を通して人類の歴史までを撮ってらっしゃるのだと感じてきました。一瞬が積み重なるパフォーマンスとは、また違うタイプのパフォーマンスだと思うのですが。

杉本
確かに写真は、「決定的瞬間」を撮ることで時間の芸術であるという考え方や価値がありますね。それに対して僕の作品には、瞬間がなく、時間がドロドロと溶けている。それが先史時代からずっと続いているのです。その時間を観念的に感じ取ることができる、「観念写真」と言えばいいでしょうか。

齋藤
それは作品を通じて、よく伝わってきます。

杉本
写真は新しい技術であることもあって、長年、芸術とは見なされない時代がありました。ですから写真を観念芸術にまで昇華させることで、「写真は崇高なアート」である、と持ち上げようという意図があったのです。

永久の時間、時間そのものというメディアである写真と、瞬間的に成立するパフォーミングアーツ。僕の心の中では両者がカウンターバランスとなって、非常に心地良い存在になったのです。

《本対談は全4回を予定しています。第3回に続く》

※第1回はコチラから

 

<プロフィール>

杉本博司

現代美術作家。
1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動は写真、彫刻、演劇、建築、執筆など多岐にわたり、現在も精力的に新作を発表。作品はメトロポリタン美術館をはじめ、世界中の著名美術館に収蔵されている。2008年に建築設計事務所「新素材研究所」を設立。そして、2009年公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年10月、小田原市に「江之浦測候所」を開館する。2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2010年秋の紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、2017年文化功労者ほか、受賞・受章多数。

 

公益財団法人小田原文化財団
◆小田原文化財団 江之浦測候所
所在地: 神奈川県小田原市江之浦362番地1
TEL:  0465-42-9170(代表) 
休館日:   火曜日・水曜日、年末年始および臨時休館日
入館料:   一律3,000円(税別)
       ※完全予約・入れ替え制(事前チケット購入、当日券なし) 詳細はコチラ

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

 

 

構成/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)