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《第3話》杉本博司氏(現代美術作家)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.08.14
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プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、現代美術作家・杉本博司さんとの対談の第3回。作品の中に一貫して“時間”と“歴史”に対する思索を込めてきた杉本さんとの話題は、現状への違和感へと拡がっていきます。

 

綿と無常観を紡ぐ日本の芸術

齋藤
ご自身の中に日本の血が流れているとおっしゃいますが、写真作品においては、杉本さんは日本を直接的な題材としては扱ってはいらっしゃいませんね。一方で、パフォーミングアーツにおいては、能や文楽に取り組まれています。

杉本
日本の古典芸能の基本は、「もののあはれ」。「驕れる者は久しからず」と言った平家物語に代表されるように、権勢を誇る人もいつかは滅びる、常に同じモノはない、万物流転———、そういった無常観が日本の文学にも美術にもすべて入っています。

そういったものを一番端的に表現しているのが、夢幻能。浮かばれない魂が呼び出され、何事かを語る。現世側はそれを慰め、あちら側へと帰してあげるという儀式です。こういった時間軸は、世界の演劇史の中でも珍しい。ギリシャ悲劇には似た儀式がありましたが、連綿と続く日本の能とは違い、一旦、滅びています。

© Hiroshi Sugimoto, Courtesy of Odawa Art Foundation

齋藤
僕は杉本さんの「海景」シリーズを見ると、ギリシャのエーゲ海を思い出すんです。古代ギリシャには、人間には関係のないところで成立している絶対的な美がある。これはもう、「神さまがいる」としか表現できないものがね。永遠に続く時間を、僕は「海景」シリーズに感じます。

© Hiroshi Sugimoto, Courtesy of Odawa Art Foundation

「古代人が見た風景を、現代の人間が同じように見ることは可能か」。水平線で二分された海と空という極めてミニマルな「海景」シリーズは1980年から撮影を開始。撮影地は各国に散らばる

杉本
「海景」は、まさか売れると思わなくて(笑)。ところがこれが一番のヒットになった。マーケティング的観点から考えたら、絶対売れないと思ってたんですが。色々なことをやってきましたが、いい意味での裏切りはたくさんありましたね。行き当たりばったりなんですよ。計画性はまったくないです(笑)。

齋藤
杉本さんが新しいことをされる度に、僕はいつも驚いて、「さすがだな!」とばかり感じています。

端の向こうにある興醒めからの反動

杉本
自分が“日本文化を生きている”という通奏低音のCが押さえられていれば、発露の形態は演劇でも美術でも写真でもなんでも、本来は同じなんです。それが現代では、何かが違う。違和感がある。それで一旦は行きすぎてつまらなくなってしまった先端の文化や日本というものを、もう一度もっと良かった時代に戻してみようかと考えているわけです。言わば、逆行形式。反動なんです。一番前衛に立ちながら、反動をやっている(笑)。

齋藤
わかります。僕にも同じ感覚があります。現代社会は西洋文明が世界を席巻していますが、西洋だけが地球を動かしている状況はあまりに淋しい。西洋文明はモノを進化させて大量に生産しますが、何かが違う。日本が西洋文明をただなぞるだけでいいのだろうか? 異なる文化を持つ日本には、果たすべき役割があるのではないか? いつも、そう思います。

杉本
例えば明治の金工品技術は、超絶技巧と言われるほどに素晴らしく高度です。日本人は細かいことが好きだし、仕事を与えられるとぐーっとのめり込んでしまう。しかし時代が下り、丁寧で緻密な職人仕事では採算ベースに乗らなくなってきた。「早く、安くやれ」とね。トヨタのクルマづくりひとつとっても、そうでしょう。

ところが、日本人にはコツコツと地道に仕事をするのが好きな人も多い。そういう血が流れているんでしょうね。例えば、アトリエにあるステンレス製の空調。吹出口が床から飛び出している近未来的なデザインのあれが完成するまでには、職人が何度も試作してくれた。こちらが、「もういいよ」と言うのに、彼の方から「納得がいかないから、もう1回お願いします」と。予算は決まっているのにね。職人として挑戦しがいのある仕事に出合うと、彼らの血が騒ぐんですよ。

齋藤
スター・ウォーズに出てくるような、まるで未来のオブジェ。杉本さんの発想を実現できる技術力を持つ人がいることも、日本のすごさでしょう。

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杉本
技術力や熱意のある職人を絶滅させないためにも、発注する人間が必要なんですよ。量産品ではああいったエアコンは作れませんから、アートとしかいいようがないモノになりますが。

齋藤
「冷たい空気を出すアート」ですね(笑)。

「Colors of Shadow」(2004年) © Hiroshi Sugimoto, Courtesy of Odawa Art Foundation

 

杉本
一方で、西洋の基本を押さえておこうと考えました。アトリエにあるプリズム。あれは、日本では2012年の「エルメス・エディター『影の色』」展で公開したもののひとつです。

18世紀初頭にヨーロッパ中でペストが流行した時、アイザック・ニュートンはロンドンから自分の故郷に避難します。その間、2年ほどですが、暇なので日光の観測をするためにプリズムを作り、自宅2階に設置しました。彼はそれを使って日夜研究を続け、書き上げたのが『光学』。これが光の研究の始まりです。いわば、近代科学の源のようなものですね。

和ロウソクが燃え尽きるまでを撮影した「陰翳礼賛」シリーズ(1998年) © Hiroshi Sugimoto, Courtesy of Odawa Art Foundation

 

齋藤
そうやって西洋における光と向き合われても、やはり杉本さんはまた日本における光に辿り着かれるわけですね?

杉本
ええ。谷崎潤一郎の陰翳礼賛などに繋がっていきますね。

  

《本対談は全4回を予定しています。第4回に続く》
※第1回はコチラ、第2回はコチラから

 

 

<プロフィール>

杉本博司

現代美術作家。
1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動は写真、彫刻、演劇、建築、執筆など多岐にわたり、現在も精力的に新作を発表。作品はメトロポリタン美術館をはじめ、世界中の著名美術館に収蔵されている。2008年に建築設計事務所「新素材研究所」を設立。そして、2009年公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年10月、小田原市に「江之浦測候所」を開館する。2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2010年秋の紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、2017年文化功労者ほか、受賞・受章多数。

 

公益財団法人小田原文化財団
◆小田原文化財団 江之浦測候所
所在地: 神奈川県小田原市江之浦362番地1
TEL:  0465-42-9170(代表) 
休館日:   火曜日・水曜日、年末年始および臨時休館日
入館料:   一律3,000円(税別)
       ※完全予約・入れ替え制(事前チケット購入、当日券なし) 詳細はコチラ

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

 

構成/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)