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《第4話》杉本博司氏(現代美術作家)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.08.30
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プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、現代美術作家・杉本博司さんとの対談、最終回となる第4回です。改めて世界中から引っ張りだこで多忙を極める杉本さんが語る、日本や世界への提言。そして、向かおうとする先について、お聞きしました。

を救う日本人の縄文的感性

 

齋藤
直近のご予定は?

杉本
今年はベルギー王立美術館に呼ばれまして、「Still Life」展が8月10日まで開催されてますね。同じく今年2018年10月16日から来年2019年1月20日まで、フランス・ヴェルサイユ宮殿のトリアノンで個展が行われます。アトリエに模型があったでしょう? あれは来年2019年のパリ・オペラ座350周年で上演されるバレエ『At the Hawk’s Well / 鷹の井戸』のためのものなんですよ。

齋藤
とにかくお忙しい! 立て続けじゃないですか。特にこの10年ほどはすさまじいご活躍。やはり、時代が要求しているんですね。

杉本
うーん、杉本を評価する一般の目が遅すぎたんじゃないかね?(笑)。70になって忙しくて、死んでる暇がありません(笑)。

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齋藤
まだまだ、杉本さんにはやっていただかねばならないことがたくさんありますから。世の中に唯一無二の正解はないと、僕は考えています。ただ、多くの日本人の心の中に、明快な可視化、言語化はできていないけれども、「何か、今の世の中はおかしい」という感覚があるのではないでしょうか。

僕のミッションのひとつは、日本の原風景を再生し、その中で成立する産業を再構築することと任じています。現代は物質的なものばかりを追いかけ、精神性が置き去りにされている。しかし、それを打破する糸口がつかめない。「誰かが、やってくれないか」と悶々としている。その役割を期待されているのが、まさに杉本さんなのではないでしょうか。

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杉本
梅原猛さんがこんな風に言っておられますね。「日本人が独自文化を育んだ背景には、縄文時代がある」と。やはり、縄文は非常に重要な時代なのです。

新石器時代に当たる縄文時代は1万年と、長期間続きました。日本人は愚鈍だったから世界の文明に追いつけず、じっと閉じこもっていたという考え方がかつてありましたが、実はそうではありません。自然を畏怖し、その恩恵を享受してきた日本人には、自然に対する強い心的トラウマがあるのです。

文明とは自然を壊すこと。木を切り、耕作地を作り、動物を家畜化する。自然のリズム、摂理というものを壊すことで人間のエゴを実現するわけです。

ところが、日本は世界でも例のないほど豊かな島国。その恵みを受けてきた日本人には「壊す」ことへの多大な恐れがある。「祟り」、つまり自然からの仕返しを回避し、自然との交信に最大限の能力と努力、技術、知恵をつぎ込んできました。自然との細かいヒダによるコミュニケーション力が非常に高いわけです。

その研ぎ澄まされた知的な感性があったからこそ、6世紀に中国から文明が入ってきてもすぐに受け止めることができた。あっという間に万葉集や古今和歌集が編まれ、そのわずか200年後には世界最初の文学である源氏物語が生まれたことからも、それは実証済みでしょう。

©小田原文化財団

齋藤

今、地球上にいる哺乳動物の7割は家畜だと言われています。人間は自然を壊し、地球を支配してきた。これは、“不自然”なことです。

杉本
拡大再生産の行き着く先は、滅亡。そのゴールは極めて近い———。

齋藤
今のスピードで行けば、目の前ですよね。

杉本
これを止められるのは、日本人の縄文的感性でしょう。今はもう、拡大再生産なくして、豊かにいきる術を考える時代です。僕は学生時代にマルクス経済学をやっていましたが、縮小再生産でいいじゃないかと思うんです。近代化以前、150年ほど前の地球規模に戻そうじゃないかというのが僕の考え。若かったら僕は、経済学者としてこのテーマを世に問いかけるんですけどねぇ(笑)。

 

本への回帰、その理由とは

齋藤
杉本さんの、日本や世界に対する問題提起はいつも刺激的かつ、必然であると痛感します。長くニューヨークにお住まいですが、今もお変わりなく?

杉本
自分の時間配分としては、ニューヨークに行き、暗室に入る時間は非常に少なくなってきましたね。これが食い扶持ですからちゃんとやっていきますが、稼いだ金は全部、小田原につぎ込んでます。宵越しの金は持たない(笑)。去年ぐらいから、日本にいる時間の方が長くなってきました。

齋藤
最終的には、日本に戻られるのでしょうか。

杉本
うーん、やっぱりね、ニューヨークでは死にたくないなと思って(笑)。

齋藤
え、そうなんですか?! それはなぜでしょうか。

杉本
ニューヨークは働く場所であって、死ぬ場所じゃないなと。スタジオはチェルシー地区にあるのですが、向こうではアパートとスタジオの間の2ブロックを行き来するだけで、他にはほどんど出ません。工場がそこにある、という感じです。

植生というか、身体に合ったところにいたいんです。小田原は居心地がいいですし、東京も、アトリエがある白金エリアは緑がたくさんありますから。

齋藤
杉本さんの原点である、写真については今後どうされていくご予定ですか。

杉本
自分が好きな印画紙がついに生産中止になりまして、在庫が1年半分ほどしか残っていません。それに8×10のカメラは重いから、撮影はもう無理ですよ(笑)。ああでも、小田原に海を撮れる場所を作ってあるんです。そこでなら、8×10で撮ろうかなと。

冬至光遥拝隧道と光学硝子舞台(於:小田原文化財団 江之浦測候所)© 小田原文化財団

 

齋藤

やはり、小田原へと向かわれるんですね。

杉本
小田原の江之浦測候所には、ひとつの完成形としてのビジョンがあるんです。時間のスケールは、5000年、1万年単位。5000年後にここがどうなるか?を想定しながら、作っています。これを、僕が生きている間にどこまで実現できるか。現場主義だから、設計図を書いて「後はよろしく」なんていうやり方はできない。石ひとつとっても、1センチの置き方の違い、方向の違いで、まったく完成度が違ってしまいます。職人と一緒に現場で作り上げていくやり方は変えられません。だから他のことには手間も時間も惜しみ、できる限り、小田原に注力したいのです。

 

 第1回第2回第3回も是非ご覧下さい。

 

<プロフィール>

杉本博司

現代美術作家。
1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動は写真、彫刻、演劇、建築、執筆など多岐にわたり、現在も精力的に新作を発表。作品はメトロポリタン美術館をはじめ、世界中の著名美術館に収蔵されている。2008年に建築設計事務所「新素材研究所」を設立。そして、2009年公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年10月、小田原市に「江之浦測候所」を開館する。2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2010年秋の紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、2017年文化功労者ほか、受賞・受章多数。

 

公益財団法人小田原文化財団
◆小田原文化財団 江之浦測候所
所在地: 神奈川県小田原市江之浦362番地1
TEL:  0465-42-9170(代表) 
休館日:   火曜日・水曜日、年末年始および臨時休館日
入館料:   一律3,000円(税別)
       ※完全予約・入れ替え制(事前チケット購入、当日券なし) 詳細はコチラ

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

 

構成/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)