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《第3話》森田真生さん(独立研究者)× 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.12.19
第3回トップ_1427

プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーターの齋藤峰明と、独立研究者の森田真生さんとの対談第3回。孟子の『道は近きにあり』という言葉に感銘を受け、寺子屋塾を運営する日々に思うこととは?!

ゼロから新しい学問の芽をつくる

森田:
僕は、これから学問と言われているものや制度が大きく変わっていくと思うんです。制度というのは、組織や法律ではなくて、共有されている予想なんです。たとえば終身雇用制度の本質は、この会社に入ったら定年まで働ける、退職金がもらえるという予想が共有されていること。人と人がインタラクションしているうちに予想が育まれ、それが安定的に共有されると制度と言われる。 

齋藤:
それは、何か信用できることを予想することですよね。こうしたらこう成り立つと信用することを予想しないと、多分何もできない。

森田:

そうなんです。今あらゆる場所で制度が壊れている時代で、たとえば学問の世界で言えば、大学にいれば学問を続けられるはずだという予想が壊れ始めている。既存の予想が壊れていく時代には、あらゆるゲームをゼロからプレーしていく必要がある。そこにまた新しい制度が生成していく。僕は、そういう場面に参加していたい。独立研究者という立場で生きているのもそのためです。学問や研究のあり方がこれから大きく変わっていくはずですが、新しい学問の芽を、既存の制度の外側で少しずつ育んでいきたい。

齋藤:
僕はそういうのにわくわくしているんです。時代が今行き詰まっているから、そういう時が絶対来ると思って。

森田:
思った以上のスピードでそういう方向に来ていると思います。だからこそ、いまの生き方が、二十年後、三十年後の制度を形作っていくと自覚していたいですね。変化の激しいときだからこそ、性急な行動に逃げるのではない仕方で、丁寧に思考を育んでいく必要がある。

齋藤:

森田さんみたいな生き方があると、自然に仲間ができて、皆が共通に予想する新しい世界が生まれてくると。

森田:

そうだといいですね。それぞれの人が、それぞれの生き方を通して『こんなふうに生きていくのはどうだろうか』と提案できるはずなんです。ささやかな力でもそれぞれがそれぞれの場所でこれをしっかりやり遂げていくことが、世界は少しずつ変えていく。大きな改革よりも、そういう小さな力が積み重なって世界が支えられているのだと、誰もが自覚できる世界こそ豊かだと思うんです。

 

大切なのは、今いる場所でできることをやること

森田:
僕は講演で地方の子どもたちと話すのが好きなんです。その子には言葉にするまでもないような地元の生活に根差した話が、僕にはすごくインパクトがあって。東京に出て世界を変えようという発想ではなく、今いる場所で自分ができることを一つずつやっていくことが世界をよくしていくんだと、子どもたちと接する中で感じたんですね。自分がいるその場所で深めていったものを伝えるのは人にすごく響く。それで、実は近所の町家を借りて春から寺子屋を開いているんです。

今いるこの場所で、というのは、実はこのお正月、息子が入院して病院でしばらく過ごしたんですね。いまはおかげさまでもう元気ですけど、このときは絶飲絶食が続いて、息子は水が飲みたいと泣きまくる。そんな中で、テレビに息子が大好きな『機関車トーマス』が流れて、彼がちょっと笑ったんです。それが家族にとってとても嬉しかった。未来のことは何も約束できないけれど、そういう小さな良かったことが、日々の生活の中に常にある。それで、その時読んでいた孟子の『道は近きにあり』という言葉が響いてきたんです。

僕はそれまで遠くにばかり答えを求めていたと、そのときハッとしたんです。本当に大切なものはすぐそこにあり、やらなければいけない仕事はいますぐここで始められるのではないかと。何も殊更難しく考えないで、すぐに始められることからやってみようと。それで小さな寺子屋を開いて、縁のある人たちと一緒に学ぶ場を京都で始めたんです。


第1話第2話も是非、ご覧ください。》

 
<プロフィール>

森田真生

独立研究者。
1985年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科を卒業後、独立。現在は京都に拠点を構え、在野で研究活動を続ける傍ら、全国各地で「数学の演奏会」や「大人のための数学講座」などライブ活動を行なっている。2015年10月にデビュー作「数学する身体」(新潮社)を上梓。

http://choreographlife.jp/

 

構成・文/山本真由美、写真/伊藤信(人物)