仙禽 ナチュール(酵母無添加きもと):「気になる日本酒」 vol.22 あおい有紀

2016.03.26

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「酵母無添加」木桶仕込みの生もと造りという、新たな境地

今期の造りで新たなチャレンジとなるのが、酵母無添加の生もと造り。まさに仙禽が目指す「日本酒の未来は生もとが担っている」の思想の下、最も蔵の個性を反映させる古式生もとにこだわりました。品種改良した酒造好適米ではなく、復刻米の亀の尾を使用。低精米で、協会から頒布されている酵母を添加せず、蔵付き酵母の力を受けながら木桶で仕込む。江戸時代の造り方に限りなく近づけ、蔵独自の色がそのまま描写される日本酒を再現しています。

もと摺りも重労働ですし、発酵も蔵に漂っている酵母が入ってくるのをひたすら待たねばならず、醪(もろみ)日数は50日以上と通常の倍以上かかります。今期は木桶8本分を造っていますが、空気中のどの酵母が入ってくるか分からず、木桶によって、発酵中にぶくぶく泡が立つ醪と立たない醪があるとか。醪の温度管理が難しい木桶で、不安定な要素も多く衛生管理など人一倍注意を払わなくてはならない。時間と労力がかかったとしても、それを凌駕する、レシピの存在しない生もと造りに“無限の想像と創造”を感じると言います。

ラベルのデザインは、仙禽ファンでもあるイギリスのベストセラーの画家、マッケンジー・ソープ氏が描いたもの。ワインのシャトー・ムートンは、ヴィンテージごとに画家が違うデザインを描いていますが、仙禽では、ナチュールの8本の木桶ごとに、ラベルデザインを変えていく予定です。8本完成したら、それぞれに飲み比べてみたいですね。

 

最強のパートナー達とともに

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薄井一樹専務(右)と薄井真人常務(左)

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小林昭彦杜氏

薄井一樹専務の掲げる仙禽ブランドを、これまで形にしてきたのが、次男で造りの現場を担う、薄井真人常務(32歳)、そして20年以上せんきんの蔵で酒造りを続ける小林昭彦杜氏(48)。薄井専務が蔵を継いで3年後に薄井常務は蔵に入りましたが、その時から兄弟という意識は一切なく、シンプルに上司と部下の関係だと言います。

薄井真人常務は、「蔵に入った20代は経営を一から立て直す時でもあり、周りの視線がとても気になっていて、薄井一樹の弟だとか、蔵の息子だから甘えられるなどと見られるのはとても嫌でした。意見を言うことはあっても、喧嘩をすることは今は全くないですね。あくまで上司と部下の関係なので」ときっぱり。血が繋がっている肉親に一番甘えたくない。お会いする度、穏やかな方という印象でしたが、酒造りにおいてはとてもストイックな一面を感じた瞬間でした。

さらに薄井真人常務はこう続けます。「要は、仙禽=薄井一樹、なんです。僕は表に出たいとは一切思わない。仙禽の方向性や酒販店との取引などは、すべて専務が一人で判断しています。様々なことを判断し明確にして道筋を示さないといけない立場で、僕の否じゃないくらいプレッシャーもあると思うけれど、割りと強そうにみえて弱いところもあるので、そこを支えていきたいですね。専務にいい意味でブレーキを効かせる、また現場の声を組み上げて必要なことは専務に上げる。僕みたいな性格は、トップは絶対無理ですし、最強のNo.2になるのが生き甲斐。このポジション、本当にやり甲斐あるんですよ!」

また、ふたりの関係をこう例えます。「僕は常にテトリスでいたいと思っているんです。専務はテトリスでいうと一本棒、なので僕は常にその受け皿となる穴をあけておかないといけないなと思うし、現場スタッフにも、出る人がいれば引っ込んでる人もいる。皆を支え、鼓舞しながらそのバランスを取るのが僕の役目だと思っています。小林杜氏は常にニュートラルで、専務に対しても敬語で話し、考え方を尊重してくれる。素晴らしく、とても心強い存在ですね」

それぞれに役割を認識し、試行錯誤しながらも互いを認めながら進化していく、まさに最高で最強のパートナーだなと感じました。古式生もと、ドメーヌ化と、地域に根ざし将来を見据えた薄井兄弟が目指す仙禽らしさの追求は、まだまだこれからも続いていきます。

 

取材・文/あおい有紀

写真(お酒のボトル)/sono(bean)

【あおい有紀の〈気になる日本酒〉】一覧記事はこちら
https://www.premium-j.jp/yuki-aoi/

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など