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チョコレートで感じる日本の香り《第三回》:パティシエ エス コヤマ その1 クロモジ

2018.01.06

 
「クロモジ」

近ヴィジュアル的な味わいを感じる機会があった。ショコラを口に含んでみたら、風で枝葉をさわさわと揺らす樹木のイメージが浮かんできたのだった。さわやかさの中にほのかに柑橘のような味わいがあった。
 パティシエ エス コヤマの小山進さんの新作4種からなる「ススム コヤマズ チョコロジー2017」の中のひとつで、「クロモジ」という名のボンボン・ショコラをテイスティングした時のことだ。その名の通りショコラにはクロモジが使われている。クロモジはお茶の席の高級な楊枝の材料として知られるクスノキ科の低木で、神道儀式で用いられることから「神の木」とも呼ばれる。

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写真1枚目:クロモジの楊枝 

写真2枚目:クロモジの枝

の別荘がある伊豆にはご近所にたいそう物知りなマダムがいて、家の周りに芽吹く山菜や草木について機会があるごとに伝授してくださる。ある日、彼女は自分の家の前にあるクロモジの小枝を折って私に差し出すと、いにしえより薬効があるとされ、伊豆では「もんじゃ」とも呼ぶことを教えてくれた。それは清々しく癒されるような香りだった。

 口に入れて味わっているためか、小山さんの「クロモジ」はあのときの小枝よりさらに香りが立っている。その理由のひとつは伐採の時期が関係しているという。クロモジの樹木の香りが最も濃くなるのが新月で、そのタイミングに伐採することを「新月切り」というのだそうだ。
 「新月切り」をした枝や葉を「真空常温乾燥」と「プラズマ乾燥」という二つの技法で乾燥させ、生クリームで煮出すことですべての香りを生クリームに移し、樹木のオイルも入れ込んでペルー産ミルクチョコレートと合わせている。
 冒頭で感じた味わいの秘密はここにあったのだ。知れば知るほどここまでやるのかと驚くことばかり。徹底して香りを追求した成果が味と共にショコラに深く反映されていた。

 ショコラの原料となるカカオも中南米で古代文明の栄えた時代には宗教儀式に欠かせないものだった。日本のクロモジと中南米のカカオという神に関係する2つの原産地の異なる樹木が結びつくことで生まれる高貴な味わいだった。

  「ススム コヤマズ チョコロジー」は2011年度版から毎年続くシリーズで、新作群の中でも最も挑戦的なクリエーションの一つといえる。このシリーズが最初に話題となったのはフランスでのことだった。 

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「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2017」と、小山進さんと龍泉とのコラボレーションによって生まれたボンボンショコラ専用のナイフ「チョコレート所作」3点セット(レザーケースとカッティングボード付き)

ランスには私もメンバーとなっているチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」がある。この会のユニークな活動に一つは、毎年ショコラティエの格付けをして秋にガイドブックを出版していること。格付けの上位になるとパリのサロン・デュ・ショコラで表彰される。
 小山さんは2011年に初出品した「ススム コヤマズ チョコロジー」でいきなり最高位の評価を受け、さらに外国人部門の最優秀賞にあたるアワーズと合わせてダブル受賞を果たした。それまで評価の対象となるのは、ほとんどがフランス国内に店舗を持つショコラティエだったことからもわかるように、すこぶる画期的な出来事だった。

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ペルーのカカオ農園にてカカオの味を確かめる小山進さん

品者の中には、自分の才能を見せようとするあまりに奇をてらって間違ってしまう。小山さんはボンボン・ショコラに欠かせない基本の3種とオリジナル2種を提出した。極めてシンプル、そして丁寧なつくりをしていることが一目でわかるような美しい仕上がりと質の高い味わいだった。
 オリジナル2種の一つは、「一休」という名の大徳寺納豆を使用したショコラだった。大徳寺納豆はとんちで知られる一休和尚が大徳寺に伝え遺したといわれる。 “納豆”といっても糸引納豆とは別物で、どちらかというと八丁味噌に近い。
 このショコラは、京食材というフランス人にとって未知なるものを、親しみのある塩バターキャラメルの法則で組み立てたという斬新さで、審査をする人たちの舌も心も鷲掴みにしたのだった。それまで誰も思いつかなかった発想力と完成度の高さが最高位のダブル受賞につながった。
 私たちは皆、ショコラの作り手はいったいどんな人なのかと興味が湧いた。

 

                                         〜 《第六回》に続く 〜

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年には過去十数年にわたる執筆活動が評価され、フランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

【商品情報】
パティシエ エス コヤマ
SUSUMU KOYAMA’S CHOCOLOGY 2017
ススム コヤマズ チョコロジー2017

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1 HARU ~赤と緑が交差するとき(苺&ふきのとう)~
2 神の木 ~クロモジ~
3 プラリネ柚子 ~エスペレットピーマンの刺激と共に~
4 サンマルティン ~終わりなきカカオ探求の旅~
上記の4個入り
価格:1,728円(税込)
取扱場所:エスコヤマ ショコラトリーRozilla、
エスコヤマONLINE SHOP
https://shop.cake-cake.net/es_koyama/cate1_select.phtml

 

【商品のお問合せ】
パティシエ エス コヤマ
TEL 079-564-3192