日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

「チョコレートで感じる日本の香り」《第六回》 パティシエ エス コヤマ その2 伝統的な和の食文化

2018.02.17

1_koyama2_umeboshi
和歌山県産の南高梅の梅干しを燻して作った「燻し梅干し」。 チョコレートの世界大会「インターナショナル・チョコレート・アワーズ 2017」にて金賞、アジアパシフィックコンペティションにて銀賞をそれぞれ受賞した。

徳寺納豆を使った「一休」という名のショコラに衝撃を受けて作り手を訪ねることにした。パティシエ エス コヤマのお店は兵庫県三田市にある。私にとっては長年のパリ暮らしから帰国して初の関西圏入り。新幹線からの乗り換え時に皆がエスカレーターで右立ちをしているのに遭遇して、いきなりのカルチャー・ショックである。
 在来線の車窓から眺める風景は時間が経つにつれて平静さを増していく。投宿する三田ホテルに到着して目的地が徒歩圏内にあることを再三確認して安堵したのも束の間、いざ歩き始めると本当に店があるのか不安になるほどのどかさにあふれていた。のちにこの環境こそが独創的な発想を支える要素のひとつだと知ることになるのだが…。

 到着してみると、お店の前には平日なのに人が列をなしていた。パティスリーから続く庭には「ようこそコヤマ・ワールドへ」と言っているかのような可愛いらしい銅製の人形たちが点在している。庭の先には、ショコラ、パン、バウムクーヘン、コンフィチュール・マカロンと…専門店が続き、木から落ちた大きな花梨の実が小径に沿って並べられていた。あの時からお店はさらに増え続け、1,500 坪の敷地内には先日8軒目となるデコレーション&アニバーサリーケーキ専門店「夢先案内会社 ファンタジー・ディレクター」 がオープンしたという。都心から離れた場所を選んで、本店のみで展開しているだけあって、ここには車を飛ばしてでも来たくなるような“パティシエによるおかし”をテーマにした仕掛けがたくさん用意されていた。

2_koyama2_portrait
パティシエ エス コヤマのオーナーシェフの小山進さん

 迎えてくれたオーナーシェフの小山進さんは、意外にもお店のある三田ではなく、京都で生まれ育ったという。洋菓子職人だった父親、そしてその父親が酒の肴として食べていた酒粕の記憶がショコラ「酒粕」のヒントにつながったこと。多忙な父親に代わりコヤマ少年に虫取りを指南してくれた気丈な母親のことや、料理人たちとの交流などを訊くうちに、小山さんの多くのアイディアは京の食文化の中で育まれたエスプリとセンスが根底にあることを実感した。いまも少年の心を持った熱い人だった。

 小山さんのバックグラウンドを色濃く反映した「DNA 京都」は、“知られざる日本の素材”の魅力をテーマにしているだけあって、「ふきのとう」「酒粕」そして大徳寺納豆を使った「一休」など、和素材をチョコレートで表現した8種類の詰め合わせとなっている。
 そのひとつ「ふきのとう」も、その香りと味わいが深く印象に残ったもののひとつだった。フレッシュな摘みたてのふきのとうを1時間かけてオーブンで焼きあげ乾燥させ、すべての香りを生クリームに移して、ミルクチョコレートと合わせてガナッシュ仕立てに。さらにコーティングした上からもドライふきのとうのパウダーをふりかけているというだけあって、チョコレートの甘みと共にほろ苦いふきのとうの風味が口の中にあふれ、春の訪れを味覚として楽しむことができる。

エスコヤマ
フレッシュな摘みたてのふきのとうをオーブンで焼きドライ状態にしたものを使った「ふきのとう」、とんちで知られる一休和尚が大徳寺に伝え遺したといわれる大徳寺納豆を使った「一休」(左から)

 がつけば私たちが自然の中でふきのとうやクロモジ…などを愛でたり香りに触れたりする機会はすこぶる少なくなっている。日本人であってもそれらが芽吹いている光景すら目にしたことがない人も珍しくはないだろう。それがチョコレートによって、その魅力を再発見できたり興味の対象になったりするのだから小山さんの仕事の意義は極めて大きい。

 

5_koyama2_3Tablettes
四国・吉野川の清流で採取された最高級品種“スジアオノリ”と和歌山県産の柚子を使った「吉野川産青のり&プラリネ柚子」、京都独自の製法で漬け込んだ賀茂茄子の味淋漬を使った「京奈良漬(賀茂茄子)」、カブの一種で伝統野菜の“ひのな”を酢と塩で漬けフリーズドライ加工したものを抹茶と合わせた「抹茶&日の菜漬け」(左から)

 「一休」「ふきのとう」はもちろんのこと、「クロモジ」そして梅干しの酸味とスモーキーな香りが楽しめる「燻し梅干し」や完熟赤山椒のまろやかな刺激と風味が魅力の「完熟赤山椒」など、今年の新作からもずいぶんと奥ゆかしさが感じられる。
 伝統的な和の食文化を取り入れたタブレット(板チョコレート)の新作シリーズでは、これまで無縁に思えた伝統野菜や藻や京の漬物さえも粋なチョコレートに仕立てて見せた。こうしてチョコレートで日本の香りを表現できる才能あふれる作り手がいることは、私たちの未来に希望を持たせてくれる。それらはチョコレートという枠を超えて後世にまで大切に受け継がれてほしい香りと味わいなのである。

 

パティシエ エス コヤマ  その1 クロモジ の記事 >>

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

【商品情報】

パティシエ エス コヤマ

●DNA 京都
6_koyama2_DNA KYOTO+
桜の葉&フランボワーズ 、一休、ふきのとう、酒粕(一年熟成)、金胡麻のプラリネ、玉露、 抹茶&パッションのプラリネ、焦がし醤油
1箱8個入 価格:2,916円(税込)

●アンダーグラウンド チョコレート アワード 2017
7_koyama2_UNDERGROUND-CHOCOLATE+
コブミカン2017、赤と緑 No.3 (木苺&リーフ)、燻し梅干し、生姜の醤油漬けプラリネ、燻し醤油、完熟赤山椒、アブサン&マンゴーパッション、オニオンタタン
1箱8個入 価格:3,240円(税込)

●タブレット(左から)
8_koyama2_Tablettes
吉野川産青のり&プラリネ柚子 
「インターナショナル・チョコレート・アワー ズ 2017」にて
世界大会にて銀賞、アジアパシフィックコンペティションにて金賞
京奈良漬(賀茂茄子)
同世界大会にて金賞、同アジアパシフィックコンペティションにて金賞
抹茶&日の菜漬け
同世界大会にて銀賞、同アジアパシフィックコンペティションにて金賞をそれぞれ受賞
1箱 各:2,160円(税込)

 

取扱場所:エスコヤマ ショコラトリーRozilla、
エスコヤマONLINE SHOP
https://shop.cake-cake.net/es_koyama/cate1_select.phtml

 

【商品のお問合せ】
パティシエ エス コヤマ
TEL 079-564-3192