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~日本の香りを味わう~

《第1回》 ピエール・エルメ・パリ

2018.03.17


砂糖漬けにした愛らしい桜と、桜の葉を象った桜の葉の塩漬けパウダーが春の訪れを感じさせる「日本の庭」

界的に活躍しているフランス人パティシエ、ピエール・エルメが初めてお店を出したのは、他でもない日本だったことは意外と知られていない。1998年ホテルニューオータニ東京内のお店からスタートしたピエール・エルメ・パリは、日仏友好160周年にあたる今年創業20周年を迎える。
エルメ本人によれば、「偶然の出会いに恵まれて」日本で基盤を築くことになったのだった。オープン前年にホテルニューオータニ東京で開催されたイベントに参加したことで出店の誘いを受けたことと、日本の現ピエール・エルメ・パリ社長のリシャール・ルデュという信頼できる人材がいたことが大きかった。
ピエール・エルメとホテルニューオータニ東京内のSATSUKIでお茶をすることになった。20年以上前から時折こうして話を訊く機会を作ってもらっている。ここでは隣に位置するピエール・エルメ・パリで販売しているパティスリーがイートインできる。エルメ・ブランドのパティスリーを味わいながら、しあわせそうな笑みを浮かべたエルメが口を開いた。


わさび風味のホワイトチョコレートガナッシュの中にイチゴのコンポートを忍ばせたマカロン「マニフィック」。わさびのピリッとした刺激とフルーティで甘酸っぱいイチゴが絶妙な味わいをかもし出す。外側には両面にそれぞれイチゴとわさびが散らしてある

ルメについて語るとき「パティスリー界のピカソ」というフレーズがよく引用される。これは1994年にUS版の月刊誌のために1週間に及ぶ密着取材があった時に、エルメの仕事ぶりを見て評されたものだという。
「私がクリエーションをするときの2つの方法が似ていたようです。ひとつは過去に誰もやらなかった素材の合わせ方で新たな味わいを創り出すということ。もうひとつはある味わいについて徹底的に見直し探求することで、輝きを与え優れたところをより際立たせることです。自分ではごく自然にやっていたことなのですが、指摘されてからは意識してより高めていくようになりました」。

エルメにとってはアートも欠かせない要素であり、創業以来さまざまな分野の表現者とのコラボレーションにも積極的に取り組んできた。これまで育んできた関係は財産だという。それは互いに高め合い成長するという本当の意味でのコラボレーションだったからだ。


「日本の庭」は、トンカ豆とレモン風味、グリオットのマスカルポーネクリームとサクサクしたサブレ ディアモンがアクセントに。極薄いクリスタリヌを砕くとさらに華やかな食感と味わいが楽しめる軽やかな一品。HEAVEN(ピエール・エルメ・パリ青山2F)にて4月30日まで提供される


国の土地でのスタートはさぞかし困難も多かったのではないかと想像するが、本人の答えはいたって前向きだ。「人が困難と考えることでも私はチャンスと受け止めます。日本人は多くを要求し、常に新しいものや創造性を好む国民なので、良いものを創るためには重要なことです」。また「イスパハン」を始めとするエルメ・ブランドの代表作の数々は、日本でもお馴染みのフランス伝統菓子とは違ったからこそ日本で注目されることになった。「違い」というのは大切なことだとも説く。
「イスパハン」とは、エルメが生み出したバラ、ラズベリー、ライチを組み合わせたフレーバーだが、これは前出の「過去に誰もやらなかった素材の合わせ方で新たな味わいを創り出す」代表的なシリーズだ。誕生のきっかけとなったのは、30年前にブルガリアでバラを使ったお菓子と出会い、ローズとフランボワーズを合わせたお菓子を作ったことだった。1997年にはさらにライチを加えて進化させて 「イスパハン」が完成した。今では55から60くらいのレシピが同シリーズにあるという。


わさびのジュレ、グレープフルーツの果肉と皮のコンフィ、わさび風味マスカルポーネクリームを三層にして、ビスキュイと抹茶のギモーヴをトッピングした爽やかな「エモーション デリシューズ」。過去になかった組み合わせからこれほど素敵で新たな味わいが生まれることに驚いてしまう

ルメ流のクリエーション方法は和素材にも生かされていて、創業年にはわさびとグレープフルーツを組み合わせたグラスデザート、エモーションのレシピを完成させた。さらに2008年にはかねてからの念願だった伊豆にあるわさび農園を訪ねると、その翌年にはフランスでわさびとグレープフルーツを使ったマカロンを発表。また生産者からわさびは先端の根の部分が甘いという説明を受けたことで、わさびの甘さがイチゴに合うことを直感して、わさびとイチゴのマカロンが誕生することとなった。
実際に味わってみると、これまで経験したことのないエレガントで繊細な風味が口に広がり、エルメの才能にあらためて驚かざるを得ない。

を創り出すことについて、エルメはこんなエピソードもこっそり教えてくれた。
2002年から柚子を使っていたものの、当時フランスでは手に入らない食材だった。そこでエルメはマンダリン、レモン、ライム、グレープフルーツを組み合わせることで柚子の味を創っていたのだという。


ピエール・エルメ氏とホテルニューオータニ東京にあるピエール・エルメ・パリの前で。20年以上にわたって様々な話を訊いてきたが秘密のエピソードは尽きない

本で創業して以来、フレッシュなワサビはもちろんのこと、小豆、抹茶、白味噌、酒粕、きなこ、黒胡麻、そして柚子と、さまざまな和素材を試みてきたエルメ。これから試してみたい和素材は梅干しを始めまだまだあるという。さまざまな分野の表現者とのコラボレーションしかり、パティスリーを通じたエルメの日仏交流はこれからも続いていく。今後どんな驚きの味わいを生み出してくれるだろう。ぜひ注目していきたい。

 

text © Mika Ogura 2018

【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか) エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 


【商品情報】

デセール ジャルダン ジャポネ(日本の園)
価格 2,160円(税込)
提供期間 2018年3月15日から4月30日まで
提供場所 HEAVEN(ピエール・エルメ・パリ青山2F)
      東京都渋谷区神宮前5−51−8
      ラ・ポルト青山1・2F
      TEL 03-5485-7766
     www.pierreherme.co.jp

 


●エモーション デリシューズ
価格 864円(税込)
販売期間・場所共に未定

 


●マカロン マニフィック
価格 302円(税込)
販売期間・場所共に未定