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~日本の香りを味わう~

《第3回》 二都物語《後編》 TORAYA TOKYO

2018.04.26

 

パリ店のスペシャリテ「ポワールキャラメル羊羹」

 

治から大正時代にかけて建てられたレンガ造りの建造物に愛着を感じてしまう。その時代に生きていたわけでもないのに身体の中でひっそりと眠っていた何かが呼び起こされて懐かしさと哀愁があふれてくるのだ。そんなレンガ壁を間近に愛でることができる場所が東京ステーションホテルの2階にある。TORAYA TOKYOである。

 

BGMにジャズが流れる店内は、東京駅にいることを忘れてしまいそうなほど喧騒とは無縁の静かな時が流れている。ここは虎屋グループ初のコンセプトショップで、とらやTORAYA CAFEとらや工房とらや パリ店の4つのブランドのスペシャリテが用意されている。前回ご紹介したパリ店のスペシャリテも二品あり、そのひとつはフルーツ羊羹の「ポワールキャラメル羊羹」である。

ランスに暮らしていた時にポワール・ウイリアムと呼ばれるウイリアム種の洋梨(日本ではバーレット種として知られる)と出逢った。気品のあるフローラルな香りがあり、生食はもちろんのことタルトをはじめとするパティスリーにも使われるので日頃から目にする機会が多い。ある日レストランで食事の最後にワゴンに乗った食後酒が運ばれたときのこと。その中に丸ごと一個の洋梨が漬けられた蒸留酒〈ポワール・ウイリアム〉があって、その姿がとりわけ印象に残った。とても華やかな香りがするお酒だ。

「ポワールキャラメル羊羹」にも使われていて、ポワール・ウイリアムが香る洋梨のコンポートとキャラメルと餡が織りなすマリアージュはうっとりしてしまうほどの美味しさだ。“羊羹”と名がついていても、伝統的な煉羊羹とは異なって生菓子であることは前回も触れた。口の中ではコンポートされたフルーティな洋梨が餡に重なるようにして存在感を放つ。

 

パリ店のスペシャリテ「アールグレイ饅頭」

 

こで味わえるパリ店の、もうひとつのスペシャリテは「アールグレイ饅頭」。アールグレイの茶葉が生地に練り込んであって、アールグレイには欠かせないベルガモットの香りが心地よい饅頭である。どちらもフランス人に馴染のある食材を使用して、初めての人にも餡や羊羹の美味しさを知ってもらうために開発されたものだ。その際に和菓子は包む文化なのでどのような素材が使用されているか見えにくいため、洋菓子のように見た目にわかりやすくすることにも心を砕いたそうだ。パリ店以外ではここだけで味わえるというのも魅力である。

 

東京駅の赤レンガ駅舎(丸の内駅舎)は2003年に国の重要文化財に指定された。そのことにより2007年から5年以上の歳月をかけて、東京駅を創建時の姿への保存・復原(※)および耐震補強工事が行わることとなったのだった。この工事によって化粧材の後ろに隠れていたレンガ壁があらわれ、開業時には見ることのできなかったレンガ壁が100年の時を経て間近に見られるようになった。但し、現在レンガ壁が見られる場所はTORAYA TOKYO以外では、北ドーム2階の東京ステーションギャラリーしかない。 

※「復原」とは当時の材料を使って補修することで、「復元」は補修に現在の材料と技法を使う。

レンガ壁は歴史の証言者でもある

 

 私があまりにも店内のレンガ壁に愛着を示すので、虎屋広報課の早瀬さんが詳しく調べてくれた。

 

TORAYA TOKYO に残るレンガ壁を利用するにあたっては、ドライアイスでの洗浄、ワックス掛け、一部塗装部分をリタッチした程度で、基本的にはそのままの姿で利用しているとのことだった。虎屋の黒川光博社長の意向で、重要文化財に指定された歴史的建造物であるレンガ壁を、生かすことを大切にしたのだという。

レンガ壁のところどころには配管などが埋め込まれていたと思われるくぼみが見られ、一定の間隔で黒く見える部分は、木レンガが1945年の東京大空襲で焼け焦げてしまったものがそのまま残ったものだった。レンガ壁の上に化粧材を張るために、この木レンガの部分に釘などの材料を打ち込んで固定していたという。こうした歴史的証言がアートのようになってレンガ壁は不思議な味を醸し出している。 

 

TORAYA TOKYOで激動の歴史を感じつつ、パリでのみで享受できる日本の味を楽しむ。
なんと贅沢なことか。レンガ壁を偏愛していなくても一緒にわかち合いたい日本の香りと味わいである。

 

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

 

【商品情報】

 

 ・ポワールキャラメル羊羹

  価格 486円(税込)

 

 

 ・アールグレイ饅頭
  
価格 411円(税込)
  ※2018年度は4月~9月、12月~3月の発売予定です。

 

 

【店舗情報】

TORAYA TOKYO

東京都千代田区丸の内1-9-1 東京ステーションホテル2階
TEL 03-5220-2345

https://www.toraya-group.co.jp/toraya/shops/detail/?id=14