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~日本の香りを味わう~

《第4回》和を活かす《前編》 パティスリー・サダハル・アオキ・パリ

2018.05.10

「エクレール ゲンマイチャ」

 

も近づく八十八夜…♪」が過ぎて新茶の季節である。日本に限らず日本茶は海外でも当たり前のように消費される時代になった。抹茶を使ったパティスリーも珍しくなくなり、先日パリのデパートの食料品売り場で発見したのは、「これっておうちでお菓子を作るため?」と問いたくなるほどの量が入った抹茶の大袋だった。

 

パリで抹茶を使ったパティスリーと聞いて、パティスリー・サダハル・アオキ・パリを思い浮かべるのは私だけではないだろう。白地にグレイがかった黒文字でパッケージやロゴが統一されていて、長めの長方形のパティスリーが整然とショーケースに並ぶ。定番のカラフルなショコラシリーズもやはり長方形だ。パリの老舗デパートの個性派揃いのパティスリー売場でも、こうした“ZEN”をイメージさせるシンプルなスタイルが目を引く。パティシエの青木定治さんがパリでスタートしたブランドで、現在はパリと日本に5店舗ずつある。

 

「フォレ ヴェルト キョウト」

 

木さんが渡仏された時は、私がパリに暮らしていた時代と十年近く重なっていることもあって、時代背景には共有できる部分も多い。青木さんが仕事を始めた頃は、素材として抹茶を使うのはまだかなり目新しかった。パリでケータリングの依頼を受けた顧客のために作った抹茶のパティスリーが、見た目の色から「ホウレン草」と間違えられたこともあったそうだ。日本の食が根付いている今のパリでは信じられないような話である。

マカロンを今川焼きに融合させて「東京焼き」を誕生させるとか、反対にフランス伝統菓子を抹茶などの和素材を使ってアオキ流にアレンジした折衷パティスリーを定番商品にするなど、ユニークな試みをしている。

フランスでは昔から親しんできた定番料理やパティスリーを新たに蘇らせる「再評価(ルヴィジテ)」という流れがある。ポイントとなるのは、基本となる素材の要素やエスプリは変えずに新たな形にして提供すること。連想ゲームのように食した人が定番の品を頭に思い浮かべられなければ成功とは言えない。気鋭の料理人やパティシエたちが果敢に挑んでいるが、小手先だけのことにならないようにするのはかなり難しい。

抹茶、玄米茶、黒胡麻を使った絶品エクレール(右上から時計回り)

 

の中で青木さんは定番のパティスリーをうまくアオキ流に作り上げることに成功している。わかりやすい例としては〈エクレール〉だ。和素材を使ったものには、抹茶、玄米茶、黒胡麻などがある。外側はパリッとしていて風味が良く、どれもシンプルで美味しい。訊けばすべての素材にこだわりの品を使うため、茶葉もこれぞと思うものを日本からわざわざ持参しているのだそうだ。

さらに2つの伝統的なパティスリー〈オペラ〉と〈フォレ・ノワール(黒い森)〉は、それぞれ「バンブー(竹)」と「フォレ ヴェルト キョウト(京の緑の森)」として生まれ変わっている。コーヒーとチョコレートのマッチングが鍵となる〈オペラ〉はコーヒーを抹茶に。またチョコレート、キルシュ漬けチェリー、生クリームを使った〈フォレ・ノワール〉はチョコレートを抹茶に、どちらも素材を置き換えるなどしてアオキ流に再構築したものだ。アオキワールドを堪能しつつ、オリジナルのパティスリーも連想できて楽しめるのでお勧めである。

「バンブー」

(前出を含む画像4点すべて、パリの郊外にあるパティスリー・サダハル・アオキ・パリのアトリエの日本庭園をイメージしたテラスにて)

 

れらのパティスリーは、すべて縦×横×高さがすべて3cm × 12cm × 3cmに整えられている。4等分することで、3cm角のキューブ型のプチフールにもできるという。

かなり計算をして作り上げているのかと思って訊いてみると、当初は経済的な余裕がなく限られた角セルクル型でできるだけ無駄を無くして効率良く作るための秘策だったそうだ。それが今やブランドのアイデンティティとなっている。物事を肯定的に捉える青木さんらしいエピソードだった。

 

青木定治さん(左)の背後にあるのは、青木さん作チョコレートを使ったオブジェと、輝かしい賞状の数々(パティスリー・サダハル・アオキ・パリのアトリエにて) 

 

パリ郊外の街並みがとても魅力的な住宅街の一角にある青木さんのアトリエを訪ねた。

の場所を選んだのはパリの胃袋であるランジス卸売市場が近く、新鮮な食材を手に入れやすいからだそうだ。パリにお店をオープンしたばかりの頃に訪ねた時は、青木さんが作るのも配達もほとんどひとりで孤軍奮闘しているような印象だった。ところが今のアトリエは規模の大きさもハイテックな機材が置かれた部屋の数々もストックされている製菓チョコレートの量も…何から何までが進化の度合いの大きさを物語っていた…《後編》に続く。

 

《第六回》パティスリー・サダハル・アオキ・パリ《後編》では、初夏に嬉しい柚子を使った新作と秘密の餡のお話をご紹介します。

 

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

 

【商品情報】

 

・エクレール ゲンマイチャ

 

・エクレール マッチャ

 

・エクレール セザム ノワール

 

・フォレ ヴェルト キョウト

 

・バンブー

 

 

【店舗情報】

パティスリー・サダハル・アオキ・パリ
http://www.sadaharuaoki.jp/boutique/
http://www.sadaharuaoki.com/boutique/paris-fr.html

※商品の販売期間等の詳細については各店舗にお問合せください。