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~日本の香りを味わう~

《第11回》永楽屋の琥珀

2018.08.23

「琥珀」

 

楽屋の「琥珀 柚子」は、初めて味わった時からとても印象に残る和菓子だった。

まわりをすりガラスで覆ったような角柱の中に柚子のピールが浮かんで見えて、味わいには奥ゆかしさがある。さらに乾燥して糖化したごく薄い表面が口の中でシャリッと砕ける食感もとても新鮮だ。インスタ映えを狙って人工的な着色などを必要としなくとも、存在そのものにインパクトがある。寒天、柚子、水飴、砂糖というシンプルな原材料で、これほどみやびな和菓子ができることにも心を動かされた。

「琥珀 柚子」は、京都の知人からをお土産として「琥珀詰め合わせ」をいただき出逢ったものだった。「琥珀 柚子」に加え「琥珀 橙」「柚子こゞり」「琥珀 栗」、そして3種の「重陽」が懐紙とともに入っていた。「琥珀 橙」も「琥珀 柚子」と見た目はよく似ている。違いは柚子ではなくグレープフルーツのピールを使っているところ。爽やかな風味がして、こちらも上品な仕上がりだ。 

「琥珀 柚⼦」

 

豆、紫蘇、抹茶の3種ある「重陽」は、その名の通り五節句の一つにちなんだもの。重陽(旧暦9月9日)が「菊の節句」とも呼ばれることから、愛らしい菊の花の形をしている。陰陽道では奇数は縁起の良い数とされていて、最も大きな数字である9が月日に重なる9月9日は、五節句の中でもとりわけ重要な節句だったらしい。「重陽」の中ではとりわけ「紫蘇」が個性的だ。そこはかとなく感じられる塩気が甘みのある寒天と調和することで風情ある味わいを醸し出している。 

「琥珀 重陽」⼩⾖、抹茶、紫蘇(左から右へ)

 

永楽屋はそもそも不思議なお店である

和21年に創業したときから、京佃煮と和菓子を一緒に商ってきたという。永楽屋の広報の方に訊いてみると、からいものとあまいものを同じ店で扱うことは全国的に見てもかなり珍しいそうだ。日本人の食生活に欠かせない「米と茶」を介して繋がるものということで、前者を「黒」、後者を「白」として商品を色で区別をしている。「琥珀」は永楽屋の「白」を代表する菓子だということだった。 

「白」の中でも「柚子こゞり」は、素材の持ち味をいかし丹精込めてつくられた「ほんまもん」の味として、2007年に社団法人京都府食品産業協会から京ブランド食品に認定された自慢の逸品である。寒天にみじん切りにした柚子がたっぷりと練りこまれているので、「琥珀 柚子」とはまた違った食感が味わえる。 

永楽屋が「白」に使用している柚子は、品質を守るために、職人が現地に足を運び、香りを確かめ、触り、観て、直接仕入れた木頭柚子のみを使用している。それを炊いて蜜漬けの状態にしたものを「琥珀 柚子」などに使う。「柚子こゞり」だけは柚子を半年以上砂糖に漬け込んだものを使うそうだ。木頭柚子とは、徳島県木頭産の柚子のことで、寒暖の差が大きく、降水量の多い豊かな自然が育む柚子は、その品質の高さから特別に銘が与えられ「木頭柚子」と呼ばれているのだという。 

「琥珀 柚⼦」の炊き作業

外暮らしが長く和菓子の名前はそれほど明るくないこともあって、氷の中に素材を閉じ込めたようにも見える菓子が「琥珀」と名付けられた由来が気になった。訊いてみると、寒天と砂糖を煮とかして冷まし固めた状態のものを、さらに乾燥させることで「琥珀」となるのだそうだ。「琥珀」は木の樹脂が長い年月を経て固形化した宝石になぞらえたもので、干錦玉(ほしきんぎょく)とか干琥珀(かんこはく)とも呼ばれるという。クチナシの実で寒天を着色することもあったことから名付けられたとされる。

柚子もグレープフルーツも寒天の中に浮かぶピールがきりりと一文字になっていて美しいが、つくる苦労を訊いたら職人技になおさら驚かざるを得ない。「琥珀 柚子」を始めとした「琥珀」シリーズは、菓子であっても宝石の琥珀ように視覚でも楽しむものという考えから、表面に白濁やヒビが入らぬように注意を払い、姿かたちにこだわり抜いているのだという。

繊細な味わいなので特に甘党というわけでなくても愉しめるのもいい。今の季節にお勧めしたい京の和菓子である。

 

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

【商品情報】

  • 琥珀詰め合わせ 5品入り

 

¥3,240円(税込)

 

【店舗情報】
永楽屋 本店
住所:京都府京都市中京区河原町通四条上る東側
TEL: 075-221-2318

http://www.eirakuya.co.jp/

※単品購入可。商品の詳細については店舗にお問合せください。