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〜日本の香りを味わう〜

《第13回》恵那川上屋の「くり壱」

2018.09.27

 
くり壱

チの母は割烹料理屋の娘ということもあり、美味なるものを見つけるのが大好きだ。それは娘の私にもしっかりと受け継がれ食いしん坊に育った。母娘そろって栗に目がないという点も共通していて、母は秋になると栗の名産地として知られる岐阜県恵那市の栗を使った和菓子を送ってくれる。

さまざまな銘菓を経て、ここ十年ほどは恵那川上屋の詰め合わせが届くようになった。年ごとに内容は異なるが、私から必ず入れてくれるように頼んでいるものがある。それは「くり壱」といい、栗きんとんを蒸し羊羹で巻き、朴の葉で包み込んだものだ。栗きんとんといっても、おせち料理に入っているものとは別物で、蒸して裏ごした栗に少量の砂糖を加え炊き上げたもの。そのため食感も味わいも異なる。和栗は洋栗などと違って、水分が多く粘りがあるため、和栗の特性を活かした菓子ともいえる。栗きんとんだけでも魅力は充分なのに、蒸し羊羹とさらに朴の葉が加わるのだからたまらない。 

は海外暮らしが長いせいか、この連載で前に紹介した道明寺製の桜餅を始め、桜、柏、椿、笹…などの葉を巻いた和菓子にはとりわけ日本の香りを感じてしまう。中でも朴とみょうがの葉を使った菓子には特別な思い入れがある。朴の葉といえば、朴葉味噌、朴葉寿司といった岐阜の郷土料理が知られているが、朴葉餅という菓子もある。葉と食べ物が近い関係にある土地柄のようだ。

 

朴の木

那川上屋代表取締役、鎌田真悟さんに訊いてみた。

「岐阜県南東部の恵那地方(中津川市・恵那市)は、古くから良質な恵那栗の産地として知られ栗栽培が盛んなところでした。私が子供の頃に食べた栗きんとんは、その日の朝に採れた栗を炊きあげて作ったもので、それはもう美味しかった。このあたりは山の中なので朴の木は至るところにあって、地元の素材を使った栗の創作菓子を作ろうと思い生まれたのが「くり壱」でした」

くり壱(大)

恵那川上屋は、鎌田さんの父親である先代が1964年に創業した。鎌田さんが事業を継いだ頃は、すでに全国的に栗きんとんが有名になったことで、地元の栗だけでは需要を賄えず、他県から購入しなくてはならなかった。栗菓子の里であっても栗の里ではないという状態だったそうだ。

「栗は鮮度が命です。遠く離れた場所で収穫された栗は届くまでには日数がかかるため、現地では虫を殺すために栗を燻蒸(くんじょう)していました。この方法は虫だけでなく栗のでん粉が固くなってしまい風味までも殺してしまうのです」

 

田さんは地元の栗を地元で加工する必要があると強く感じた。そのためには農家が自信を持つことができて地域の自慢になるようなものを作らなくてはならないと考え、恵那栗の品質アップをはかるために二つの取り組みをした。

一つは地元のJAや栽培農家などと一緒に超特選栗部会を立ち上げ、土づくりから管理し、栽培条件、出荷条件をクリアできた栗だけを「超特選恵那栗」と名付けて出荷するようにしたのだ。条件には燻蒸は行わない、低樹高栽培で作られた栗しか認めないなどさまざまなものがある。こうした努力が実り恵那川上屋が契約した地元の栗農家の生産量は、創業30周年を迎えた頃には年間10トンくらいしかなかったが、今では年間120トンにまで増えているという。さらに将来も見据えて他県の農家にも規定の条件で恵那栗を育ててもらっている。

う一つはCAS冷凍(セル・アライブ・システム)を導入したことだった。CAS冷凍というのは、栗の冬眠装置のようなもので、解凍時には限りなく生に近い状態に細胞を再生できるそうだ。これが旬の秋だけでなく、年中新鮮な栗を味わうことを可能にした。

定番の秋の栗きんとん以外にも、夏の「栗観世」、冬の「ひなたぼっこ」、春の「里長閑」と、シーズンごとに地元で採れる旬な素材と栗きんとんを組み合わせた創作菓子がある。どれも美味しいが、先ずは「くり壱」を堪能してみてはいかがだろうか?

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

 

【商品情報】

  • くり壱(大)

栗きんとんを芯にした蒸し羊羹を朴の葉で包みました。栗と相性の良い朴の葉の香りをお楽しみください。
¥1,760(税込)
販売期間:通年
※くり壱(小) ¥990(税込)もあり

 

【店舗情報】
恵那川上屋 恵那峡店
住所:岐阜県恵那市大井町2632-105
TEL: 0573-25-2470

https://www.enakawakamiya.co.jp/shop/

※他の店舗についてはホームページで、また商品の詳細については各店舗にお問合せください。