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〜日本の香りを味わう〜

《第15回》フレデリック・カッセル フランス人パティシエが日本で出逢った味わい、柿、柚子、ほうじ茶が香るミルフイユ。

2018.10.25

 

くへば鐘が鳴るなり法隆寺
『獺祭書屋俳句帖抄.上巻』p57 「法隆寺の茶店に憩いて」より

年も柿の季節がやって来た。柿が登場する多くの句の中でも、無類の柿好きで知られる正岡子規によるこの俳句はとりわけ親しみ深い。

近年、柚子が日本から海外に渡り人気だが、柚子より遥か昔の16世紀頃に日本からヨーロッパに渡ったとされる果実があった。冒頭の句に詠まれた柿だ。初めてパリのマルシェ(市場)で大きな釣鐘型をした柿を見つけたのは、まだ私がパリに暮らしていた時のことだった。フランスでも「KAKI」と呼ばれているものの、地元ではアジア原産という認識はなく、あたり前のように生活の中に溶け込んでいた。ただし渋柿なので、お店の人から熟すのを待って中身をスプーンですくって食べるようにと教えられた。

 
「柿のタルトタタン」(参考商品)

日、来日中のフランス人パティシエのフレデリック・カッセルと、彼の新作ミルフイユ・フィンガー KAKIの話していて、私は前出の体験を想い出した。フレデリックは数年前に鳥取へ食材探求の旅に出た時に、初めて日本の甘い柿に出逢ったのだという。低樹高栽培だったので、手が届くところに実がなっており、その場で熟れているものをもいで味わうことができた。口に入れた瞬間、フレデリックの頭にはお菓子作りを教えてくれた祖母との想い出が蘇ってきた。祖父母の自宅には果樹が育つ広い庭があり、菜園ではじゃがいも、グリーンピース、サラダなど季節毎の野菜を植えていて、鶏なども飼っていた。自分たちが食べるものはすべて庭でまかなっていて、鳥取の柿のように熟した果実をもぎ取って食べていた。祖母は庭の食材でお菓子を作ってくれたそうだ。そんな光景を思い浮かべているうちに、柿を使ったタルトタタンが思い浮かんだ。リンゴのような硬さがあり、色的にもキャラメルがけをしたら美しく仕上げられると確信したのだ。

こうして日本の柿を使った「柿のタルトタタン」が完成したのだという。味わってみると確かに食感は焼きリンゴのようで、キャラメルと合わさってほのかに干柿のような風味がした。

 
ミルフイユ・フィンガー KAKI」 photo by Federic Cassel

れから数年が経ち、今回、柿を使った新作は、フレデリック・カッセルのスペシャリテでもあるミルフイユ仕立てにしようと考えた。

ティシエは、味覚の建築家なので、家を作るように組み立てて行く。基礎は底の軽やかなアーモンド生地(ビスキュイ・ジョコンド)とパイ生地(フィユタージュ)。ただしパイ生地を重ねる伝統的なスタイルではなく、両側にパイ生地を配するという形にして食べやすくした。薄く重ねた柿のコンポートは、干柿の甘みだけで砂糖は使用せず、フレッシュな柿を合わせることでさらに甘みを抑え、そこに柚子のクリームを重ねた。最初に柿を食べた時、ほうじ茶を飲んで、とても相性が良いと感じていたから、ほうじ茶とマスカルポーネを混ぜたシャンティイを飾りに使うことにしたんだ」。

フレデリックはこう説明すると、新作を美味しそうにほおばり「ほうじ茶が飲みたくなる味わいだよね」と独りごちた。ほうじ茶のシャンティイは控えめながら味わい深い。そこに柿と柚子の風味が折り重なり和風味のフルーティーで爽やかなミルフイユだった。確かにほうじ茶が飲みたくなる味わいだ。

 
来日したフレデリック・カッセル氏(右)と新作を味わう

フレデリック・カッセルの店舗が日本にでき、来年で十周年を迎える。年二回来日しては、食を含む日本文化をたくさん学んでいるという。

「日本では贈るためフランスでは自分のためという、二国間のお菓子に対する意識の違いにも驚かされている。柿を始めとする日本にしかない果実との出逢いも楽しみだ。柚子をパティスリーに使うようになったのもここ十年くらいのこと。日本の金柑の美味しさにも感激している。来日すると金柑をキロで買って、おやつ代わりに食べるのも楽しみのひとつ」。柿の次は、金柑を使ったパティスリーを考えたいそうだ。

日仏間を往来すること十年。新作はその集大成ともいえる魅力的な味わいに仕上がっていてお勧めである。最後にメッセージを訊ねてみるとこう締めくくってくれた。

「日本に来るようになって、健康面でも考えるようになった。例えばブルーベリーは目に良いとか、日本人は食材に関する健康意識が高い。柿はビタミンCが豊富だというから、ぜひ多くの人に新作を味わってもらいたい」。

 

text © Mika Ogura 2018

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

 

【商品情報】

 ●ミルフイユ・フィンガー KAKI

発売予定 11月1日より
※商品の詳細はホームページでご確認ください

http://www.frederic-cassel.jp/

 

【店舗情報】
フレデリック・カッセル銀座三越
住所:東京都中央区銀座4-6-16 B2F
TEL:03-3535-1930
※銀座三越の営業時間に準ずる