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~日本の香りを味わう~

《第22回》世界遺産のフォンテーヌブロー宮殿、歴代王のダイニングで味わうミシュラン®ガイドの星付き日本人シェフによるチョコレート料理

2019.02.14


前菜。鴨のフォアグラのプレッセ、イチジクのジュレ、赤いビーツのシャーベット、黄色いビーツ、カカオニブ、抹茶チョコレートのコポー(後がけ)

フランス・パリから南東に車で1時間ほどのところにあるフォンテーヌブローは、かつての王の狩場だった広大な森と、中世から19世紀まで歴代の国王や王妃や皇帝が暮らした宮殿がある壮美なところだ。多くの印象主義の画家を魅了したことでも知られる。日本人とも無縁ではない。明治期に活躍した洋画家、浅井忠は、夏目漱石の小説『三四郎』に登場する深見画伯のモデルとされる人物だが、『フォンテーヌローの森』などフォンテーヌブローを題材にした作品を遺した。日本人にとっても絵画を通して親しんでいる場所なのだ。森と宮殿は1981年にユネスコの世界文化遺産に登録された。


フォンテーヌブロー城の正面玄関(当時、左階段は王だけが使うことができた。右階段は来賓用。この日は王だけに許された左階段から登ることができた)

の宮殿内のかつての歴代王のダイニングで、ミシュラン®ガイドで1つ星の日本人シェフによるチョコレートを使ったフルコースを味わうという贅沢なディナーが開催された。宮殿はフランスで最も大きなものの一つとされ、現在は国立美術館として一部が一般公開されていているが、歴代王のダイニングは普段は非公開の場所である。

そこは幾つもコラム(円柱)と大理石や大鏡に囲まれた荘厳な大広間で、宮廷の豪奢な生活が目の前に繰り広げられそうな雰囲気があって、佇んでいるだけでも充分に幸せな気持ちになれた。

料理を担当したのは、フォンテーヌブローにあるレストラン ラクセルのオーナーシェフで、大分県出身の後藤邦之氏(以下クニヒサさん)。クニヒサさんは、フランス料理に情熱を燃やして25歳の時に渡仏した。15年前にフォンテーヌブローに一時期住んでいたことがあって、その時にいつかここでレストランをやってみたいという気持ちが芽生えていったそうだ。動機となったのは、季節に関係なくいつも多くの観光客が訪れる場所で、パリ近郊という立地条件の良さがあるのに、ミシュラン®ガイドで星が付くようなレストランが一軒もないことだった(今も星を獲得しているのはレストラン ラクセルのみ)。


レストラン ラクセルのオーナーシェフ、後藤邦之氏

独立する前からすでに料理界から「若き才能」として注目される存在だったが、2012年にヴァネッサ夫人とともにフォンテーヌブローでレストラン ラクセルをオープンすると間もなく、ゴーミヨ®で「Grand de Demain (未来の巨匠)2013」と評価され、翌年2月にはミシュラン®ガイドで1つ星を獲得した。

ラクセルで食事をする度に、日本の食材をうまくフランス料理として活かしていることが心に残る。そうクニヒサさんに伝えると「地元の人たちは日本食材をほとんど知らないので、自分の料理を通してうまく広めていけたらいいなぁと思ってやっています」と、応えた。


前菜のお供として出された絶品ショコラのブリオッシュ by Frederic Cassel

今回のディナーは、フォンテーヌブローに本店を持つフランス人パティシエ、フレデリック・カッセル氏が会長を務める「アンペリアル・ショコラ」の会期中に初の試みとして催された。「アンペリアル・ショコラ」はフォンテーヌブロー城で開催されるチョコレートの祭典である。若手育成のために地元で開催したいという、カッセル氏の長年の夢が実現したものだった。ディナーでは、カッセル氏もショコラのブリオッシュ、パン、デザート、そして最後の小菓子を担当した。また日仏友好150周年を記念して、日本からは明治ザ・チョコレートのチームも参加した。日本企業が参加するのも初のことだった。


メイン。雌鴨のフィレ。シナモン風味のブルグル(地中海沿岸の食材でプチプチした食感が楽しめる全粒穀物)、栗と人参のクリーム、カカオソース

日のメニューは、ムール貝と青リンゴをカレー風味のスープ仕立てにしたアミューズから始まり、前菜は鴨のフォアグラ、メインは雌鴨のフィレ、ショコラのデザート、最後に飲み物と小菓子(ショコラ)という流れだった。食材として鴨を選んだのは、「チョコレートの味わいに負けないような素材を考えた末に決めた」のだそうだ。

前菜の鴨のフォアグラのプレッセは、イチジクとビーツのシャーベットとカカオニブが艶やかな彩りと新鮮な味わいを演出していた。そこに明治ザ・チョコレートの抹茶をベースにして作ったチョコレートの塊をトリュフのように薄く削って散らして、和の香りを添えたのだった。お供のショコラのブリオッシュには、メキシコホワイトカカオから作られたチョコレートとカカオニブが使われるという贅沢さだ。(メキシコホワイトカカオについては> コチラから)

メインは雌鴨のフィレに、色鮮やかな栗と人参のクリームとシナモン風味の全粒穀物ブルグルとカカオソースを添えたもので、冬の味覚が五感で味わえて栗とショコラ好きにはたまらなく魅力的だった。


デザート。インスピレーション・ジブン by Frederic Cassel. 希少なベリーズ産のカカオから作られたチョコレートを使用している

ベリーズ産のプレミアムカカオを使用したデザートと最後のショコラに至るまで、同席していたフランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」のメンバーたちも、誰もが大いに絶賛していた。

 
中世の衣装に身を包んだ喜劇団カンパニー・デ・アルルカン(後方)が寸劇を披露してくれた。フレデリック・カッセル氏(左)、フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」のメンバーたち(手前)と一緒に

「皆さんに喜んでいただいたので機会があればまたやってみたいです」と、クニヒサさんは言った。試行錯誤して着地してみたら、チョコレートという新たな引き出しが一つ増えていたようだ。いつか日本でもレストランやパティスリーを開きたいという夢もある。レストラン ラクセルは改装工事に入った。リニューアルオープンする4月には、さらに進化したクニヒサさんの料理に出逢えることだろう。

 text © Mika Ogura 2019

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか) エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

【店舗情報】

レストラン ラクセル  RESTAURANT L'AXEL
43 rue de France 77300 Fontainebleau FRANCE
定休日:月曜日(終日)、火曜日(終日)、水曜日(昼)
電話:+33 1 64 22 01 57
info@laxel-restaurant.com
※現在は改装中のため閉店。4月にオープン予定。

 

【商品情報】

●デクヴェルト


ディナーの最後に飲み物と一緒に登場したフレデリック・カッセル氏のショコラが日本でも味わえる。カッセル氏が仲間と取り組んでいる「カカオ・フォレスト」という良質なカカオを守り育てる活動を通じた“発見(デクヴェルト)”をテーマにしたショコラたち。その活動拠点であるドミニカ共和国産の良質なカカオを使ったカッセル氏初の試みとなるオリジナルチョコレート「デクヴェルト」を使ったショコラを始め4種のプレーンタイプに、カカオ農園の生活向上にも貢献しているフルーツを使った2種類のショコラを加えた全6種の味わいを詰めたコフレ。

フレデリック・カッセル三越銀座店 6個入り 3,024円(税込)

(以前この連載でカッセル氏の柿のミルフイユをご紹介した>コチラから