〜日本の香りを味わう〜

《第24回》ブノワ、日本の旬を満喫するデザート

2019.03.18

熊本県天草産“不知火”のクープ パンデピスのアイスクリーム(左)、静岡産“紅ほっぺ”と瀬戸内レモンのクープ フロマージュブランのソルベ(右)

昨年末から意識して柑橘類を食べるようになった。風邪予防に効果があると聞いたからなのだが、改めて目を向けてみると、日本には海外でも注目される柚子だけでなく、香り高く美味しい柑橘がたくさんあることに今更ながら気づいた。タチバナという日本固有の自生種やそれから自然交配で生まれた品種もあるが、ほとんどが海外からもたらされ長い年月をかけ品種改良を重ねてきた努力の賜物らしい。以前この連載でもご紹介したように、古代の菓子は果実や木の実から始まった。柑橘は多くの古典文学にも描かれていて、古事記や日本書紀にも橘(タチバナ)という名の柑橘が登場するが、こちらは日本固有のタチバナというよりは、ダイダイやみかんのことだと考えられている。

先日、熊本県天草産“不知火(シラヌヒ)”をたっぷり使ったデザートに出逢った。友人に誘われて久しぶりに青山のブノワに食事に出かけたときのことだった。ブノワは100年にわたりフランス・パリで愛されてきた老舗のビストロ、ブノワのエスプリを受け継ぎ、2005年に青山にオープンしたフランス料理の巨匠アラン・デュカスのシックなビストロである。旬な食材を使った料理が居心地の良い空間で楽しめるのが魅力だ。


熊本県天草産“不知火”と“パール柑”のヴァシュラン アーモンドのシャーベット

“不知火”はポンカンと清美の交配種で、規定の条件をクリアするとデコポンという商標登録で呼ばれるのだそうだ。以前はグレープフルーツなど輸入物を使っていたところ、デュカス氏から「日本には美味しい柑橘がたくさんあるのになぜ使わないのか」と疑問を投げかけられ、旬を迎える国産の柑橘を大捜索した末に切り替えたのだという。

クープ(口が大きく開いたガラス容器)に入った“不知火”のデザートは、ジューシーで濃密な味わいが口に広がり、果実自体を余すところなく満喫できるように仕上がっていた。今月からは熊本県特産のパール柑と共に「ヴァシュラン」として供されていて、春の陽気を感じる季節に嬉しい爽やかなデザートになっている。

同じくクープに入った旬のイチゴのデザートも魅力的だった。こちらは甘酸っぱい静岡県掛川産イチゴ“紅ほっぺ”と瀬戸内レモンに、フロマージュブランのソルベ(シャーベット)を添えたもので、周りのテーブルの様子を見ても、このデザートはかなりの人気のようだった。


ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房のショコラ ブノワ風、長野県戸隠産 蕎麦の実のアイスクリーム

著『高級ショコラのすべて』でも紹介したブノワ定番のショコラデザートは、2月から大きく様変わりした昨年秋に公開されたドキュメンタリー映画『アラン・デュカス 宮廷の料理人』では、デュカス氏が最高のカカオを求めてブラジルのカカオ農園を訪ね、カカオの豆の香りなどを確かめるシーンがあったが、昨年春にル・ショコラ・アラン・デュカスがついに日本にもオープンした。そのため今回ショコラの新作には、ル・ショコラ・アラン・デュカスのカカオ75%とカカオ45%の2種類のチョコレートと、スーパーフードとして人気の高いカカオニブ(ローストしたカカオ豆を粉砕したもの)、さらにローストした長野県戸隠産の蕎麦の実が使われている。濃厚なチョコレートの味わいにカカオニブと蕎麦の実のカリカリした食感と香ばしさが合わさって絶妙な美味しさを奏でるデザートである。


北海道産フェッセル ブリーズ・ドゥ・メール、カカオパルプ

また北海道産のフェッセル(水切りかごに詰めたフロマージュブラン)と、カカオパルプ(カカオ豆の周りについている果肉)は、どちらも個人的にかなり好きな素材たち。この2種類の素材を合わせたものは初めて食したが、酸味とほのかな甘みが合わさってまろやかでスッキリとした味わいだった。


ブノワの総料理長セバスチャン・ルソー氏、静岡産“紅ほっぺ”と瀬戸内レモンのクープ フロマージュブランのソルベと

ノワの総料理長セバスチャン・ルソー氏は来日5年目。約1年半前に総理長に就任するまで副料理長を務めていた。「日本の食材、とりわけ日本の魚に関しては質も技術も優れているから、日本で働くのは長年の夢だった」そうだ。今ではほとんどの食材を日本で調達していて、季節毎に産地から直送される新鮮な食材が自慢だ。

アラン・デュカスのエスプリを守り、生産者に敬意を払って、できる限り食材が持つ自然のままの香りや味わいを尊重して、それを最大限に引き出すように料理をしているという。日本の食材についてもっと研究を重ねて、お客様に新たな発見を提供したいと情熱的に語ってくれた。

ブノワが青山にオープンして14年。店のオープン直後まで拙著『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』を執筆していたことが想い出される。久しぶりに訪れたブノワは、日本の太陽の下でしっかりと根を張り、品種改良を重ねた柑橘のような味わいのビストロへと進化していた。その味わいをみなさんも体感してみてはいかがだろうか。

text © Mika Ogura 2019

 

【プロフィール】

小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。

 

レストラン情報】


ビストロ「ブノワ」
東京都渋谷区神宮前5-51-8 ラ・ポルト青山10階
TEL 03-6419-4181
http://www.benoit-tokyo.com/