六本木ヒルズ森タワー、森美術館のエントランスに立つと、高さ11メートルの天井から吊られた壮大なインスタレーション作品に圧倒される。《どこへ向かって》と題されたその作品は、空間に白い船が何艘も浮かび、美術館の入り口へとさまよいながら集まってきているようにも見える。私たちはどう存在し、どこへ向かうのか。生と死、記憶や夢など、目に見えないものや物理的には存在しないものを形として表現してきたアーティスト、塩田千春のこれまでの活動を網羅した大規模な個展が、この森美術館で開催されているのだ。
2019年6月20日(木)から10月27日(日)まで行われている「塩田千春展:魂がふるえる」は、ベルリンを拠点として世界各国で年間20もの展覧会へ作品を発表するなど、精力的に活動し高い評価を得ている塩田の、初期作品から最新作まで113点を展示している個展だ。
絡まり合い繋がり合って空間を覆う、無数の赤い糸や黒い糸。鑑賞する者はその空間に入り込むことによって、不安や沈黙、魂や記憶など、物理的には存在しない“ものの存在”をまざまざと実感できる。観る者を巻き込んで展開するイマーシブ型のインスタレーションによって、“不在の中の存在”をテーマに取り組んできた塩田千春の感性がダイレクトに伝わってくる。


《どこへ向かって》 2017年 白毛糸、ワイヤー、ロープ 展示風景:「どこへ向かって」ル・ボン・マルシェ(パリ)2017年 撮影:Gabriel de la Chapelle
この個展を開催するにあたり、塩田は12年前に患った癌が一昨年再発し、闘病しながら作品制作に向き合っていたことを語った。近年の彼女の作品には身体のパーツが多く登場するが、切り取られ、部分となった身体を並べることで、魂の不在を視覚化しているようにも感じられる。作家自身が生や死と寄り添いながら、物理的には存在しない魂というものを、どのようにとらえ視覚化しているのか。観る者へ、そしてその魂へ問いかける。
◆「塩田千春展:魂がふるえる」
2019年6月20日(木)~10月27日(日)
森美術館東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
10:00~22:00(火曜10:00~17:00)
会期中無休
http://www.mori.art.museum
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