内田デザイン研究所がデザインした「ENSO ANGO麩屋町通 Ⅱ」。

Style

Living in Japanese Senses

内田繁とアトリエ・オイをつなぐ感性(前編)

2019.5.14

京都のホテル「ENSO ANGO」にみる
内田繁イズムとアトリエ・オイの「日本の美」

内田デザイン研究所がデザインした「ENSO ANGO麩屋町通り Ⅱ」。Tatami Salonと名づけられた和風庭園を臨むこの部屋では坐禅や様々なワークショップも開催される。

才能豊かなアーティストが彩りを加えるホテルは、
5棟でひとつ。京都の街を回遊して楽しむ

通りを曲がると見えてくる景色や、季節ごとに異なる花々や樹木の香り。そうした京都の空気、四季を存分に味わえるホテルが誕生した。館内で過ごす時間はもちろんのこと、周辺の路地を歩く時間の楽しみも提案してくれる「ENSO ANGO」(エンソウ アンゴ)。

 

四条通と五条通にはさまれた麩屋町通、富小路通、大和大路通に建つ五つの棟からなるホテルであり、「全体でひとつのホテル」とのユニークな考えのもとに計画されている。レストランのある建物、バーのある建物、茶室や畳の部屋のある建物……と各ホテルを巡るように滞在する。アンゴホテルズ株式会社の十枝裕美子社長は「町を歩く際の発見や、偶然の出会いを楽しめる旅を提案したい」と語る。

 

全体のディレクションを手がけたのは、日本のインテリアデザイン界を牽引した内田 繁が設立者となる内田デザイン研究所だ。日本の文化や伝統的な空間感覚を今日の空間で表現し、日本の美に関する著書も多い内田の精神は、エンソウ アンゴのデザインにも丁寧に受け継がれている。


「麩屋町通り Ⅱ」のレセプション。内田繁デザインの茶室「山居」を通した陰影が美しい 「麩屋町通り Ⅱ」のレセプション。内田繁デザインの茶室「山居」を通した陰影が美しい

「麩屋町通り Ⅱ」のレセプション。内田繁デザインの茶室「山居」を通した陰影が美しい

光の扱い、オブジェの位置など、茶道を例とする配置の精緻さが表現されている茶室 光の扱い、オブジェの位置など、茶道を例とする配置の精緻さが表現されている茶室

「日本における光の扱い、オブジェの位置など、茶道を例とする配置の精緻さには学ぶところがある」と語るアトリエ・オイの3人の創設者のうちの1人、パトリック・レイモン

「麩屋町通 Ⅱ」のレセプション前に設えられた立礼の茶席。 「麩屋町通 Ⅱ」のレセプション前に設えられた立礼の茶席。

「麩屋町通 Ⅱ」のレセプション前に設えられた立礼の茶席。


「関わる人びとの顔が見えるホテルであること、さらにはお客様との距離感の重要性について、内田は常に口にしていました」。内田デザイン研究所の長谷部 匡所長が、そう教えてくれた。

 

一昨年に他界する直前まで、端正なデザインの空間の実現とともに心地よい空間の質を探究し続けた内田。ホテルのインテリアデザインでは、さまざまなアーティストを招くことを行っていた。エンソウ アンゴでも、内田デザイン研究所が設計した端正な空間に、複数のアーティストが参加し、彩りを加えている。

 

陶作家でギャルリ百草主宰の安藤雅信、アーティストの日比野克彦、建築家・デザイナーの寺田尚樹、スイスの建築・デザイン事務所atelier oï(アトリエ・オイ)。スタッフのユニフォームはギャルリ百草主宰の安藤明子が手がけている。

「麩屋町通 Ⅱ」の外観。 「麩屋町通 Ⅱ」の外観。

「麩屋町通 Ⅱ」の外観。建築、インテリア、家具デザインから玄関の手水までを内田デザイン研究所が担当した。

「富小路通 Ⅱ」。。 「富小路通 Ⅱ」。。

「富小路通 Ⅱ」。客室の色彩をはじめとするイメージづくりが内田デザイン研究所とアトリエ・オイの対話を重ねながら進められた。「影を生む」アトリエ・オイの照明器具も。


静寂、光と影と闇、光の重なり、気配、うつろい……。
連続された新しさのなかに永遠がある

エンソウ アンゴの空間デザインで重視された点に、「陰影」があった。ホテルの5棟のフロントで目にできる内田デザイン研究所とアトリエ・オイの共作の照明器具をはじめ、随所で陰影の美しさが表現されている。

「ENSO ANGO 麩屋町通 Ⅱ」を例に見てみると、内田の和紙の照明器具をはじめ、茶室「山居」がもたらす影も美しい。「Tatami Salon」と名づけられた畳の部屋の床の間でも、美しい明かりと影の存在に出会う。

 

アトリエ・オイの造形を通して陰影の奥深さを堪能できるのが「ENSO ANGO 富小路通 Ⅱ」。日本の文化に関心を持ち、「自分たちが感じとっている日本文化は非物質的な世界で、精神性を伴うもの」と語るパトリック・レイモンを始めとする彼らの感性が随所に宿る。「季節のうつろいさながら、場の空気が柔和に変化する様を日本では感じます。それを表現したかった」とレイモン。

 

エントランスに設けられた手水(ちょうず)も光と影による表現で、内田の代表作品でもあるライトアップされた水景「ダンシングウォーター」へのオマージュでもある。中庭の照明器具は夜間、星のように煌めき、樹木の影を落とす。エレベーター前のミラーもアトリエ・オイらしいポエティックなもので、上階に進むにつれて雲が消えていく様子を目にできる。

「富小路通 Ⅱ」の中庭。 「富小路通 Ⅱ」の中庭。

「富小路通 Ⅱ」の中庭。アトリエ・オイ制作のモビールのような照明器具は夜間星のように煌めき、樹木の影を落とす

うつろう時間や光とともにある場の軽やかさは、ENSO ANGO 富小路通 Ⅱのラウンジでも同様に表現されている。この部屋を包むのは美濃和紙と提灯の伝統的な技法を応用したアトリエ・オイデザインの照明の光で、イサムノグチの「あかり」と同じオゼキの制作。さらに飛騨産業のテーブルと椅子、美濃和紙でつくられたモビールオブジェなど、アトリエ・オイのデザインが集合している。


また、レストランのペンダント照明は和傘の老舗である日吉屋と実現させたもので、「京都の技をもつ人々との共作を」と考えたアトリエ・オイが、和傘の骨組と編み方の美しさを活かすべくデザインした。バーのバックカウンターには、京都の清水焼による光に透ける陶板が施された。

飛騨産業のテーブルと椅子、奥のソファ、美濃和紙を使った天井のモビール、正面の壁の扇型の照明、提灯型の照明はすべてアトリエ・オイのデザイン(富小路通 Ⅱ) 飛騨産業のテーブルと椅子、奥のソファ、美濃和紙を使った天井のモビール、正面の壁の扇型の照明、提灯型の照明はすべてアトリエ・オイのデザイン(富小路通 Ⅱ)

飛騨産業のテーブルと椅子、奥のソファ、美濃和紙を使った天井のモビール、正面の壁の扇型の照明、提灯型の照明はすべてアトリエ・オイのデザイン(富小路通 Ⅱ)

京都の和傘の老舗である日吉屋との協働により実現させた、和傘の骨組みのデザインのペンダント照明 京都の和傘の老舗である日吉屋との協働により実現させた、和傘の骨組みのデザインのペンダント照明

京都の和傘の老舗である日吉屋との協働により実現させた、和傘の骨組みのデザインのペンダント照明

バーのバックカウンターの光に透ける陶板は京都の清水焼 バーのバックカウンターの光に透ける陶板は京都の清水焼

バーのバックカウンターの光に透ける陶板は京都の清水焼


静寂、光と影と闇、光の重なり、気配、うつろい……。固定された状況とは異なる空間が、内田が「変化の相としての空間」と記していた文章を思いおこさせる。茶室というウツなる空間に亭主が「時」をつくりだすように瞬間の美をつくる変化こそ新しさ、と述べた文章で、「連続された新しさのなかに永遠があるという思考は、建築の構築化をきらい、繊細なものに目を向ける『感覚の振動』が下敷きになったもの」と。

 

「何にもとらわれることのない自由な空間の創造は、社会の束縛から逃れ、個人の内面にだけはたらきかける空間の創造である。日本において空間とはそうした自由な変化を前提としたものであった」(内田 繁『インテリアと日本人』晶文社)

 

このような精神を大切にしたうえで、「安心して滞在できると同時に、周囲の都市の文化と縁を切ることなく、暮らするように滞在できるホテルであること」(内田デザイン研究所 長谷部氏)がエンソウ アンゴでの試みとなっている。

 

アトリエ・オイが同じ心を共有したうえで、このホテルのインテリアデザインに関わっていることはとても興味深い。スイスに生まれ育ちながら「日本の文化に強くひかれる」と語る彼らの感性に、さらに触れていこう。

 

(敬称略)

ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)

京都の四条通と五条通にはさまれたエリアに点在する、5棟でひとつの分散型ホテルという新しいコンセプトで昨秋オープン。陶作家・安藤雅信の世界観が形となった「麩屋町通 Ⅰ」、茶室やTatami Salonで和の文化を堪能できる「麩屋町通 Ⅱ」、ゲストキッチンが完備した「富小路通 Ⅰ」、日本で初めてアトリエ・オイの空間インスタレーションに触れることができる「富小路通 Ⅱ」、コンパクトでミニマルな滞在が可能な「大和大路通 Ⅰ」など、目的にあった棟を選び、それぞれを自由に往来しながら京都の街を暮らすように楽しむことができる。

京都府京都市下京区富小路通高辻下る恵美須屋町187

 

※2020年3月より「ENSO ANGO」から「THE GENERAL KYOTO」に名称変更。記事中情報も変更されているため、要確認を。

THE GENERAL KYOTO https://globalhotels.jp/en/

 

 

 

→内田繁とアトリエ・オイをつなぐ感性(後編)につづく

 

Text by Noriko Kawakami
Photography by Satoshi Asakawa , Tomooki Kengaku

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