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尾上菊之丞日記~よきことをきく~

2023.9.15

尾上菊之丞日記~日本舞踊家から若き歌舞伎役者たちへ。恩送りをしていく夏 其の一








はじめまして。尾上流 四代家元の三代目尾上菊之丞ともうします。この度ブログを書かせていただくことになりました。日本舞踊のこと、伝統芸能のことを知っていただく、きっかけとなりましたらうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

この夏は、7月に尾上松也さんと共同で演出を手がけた「新作歌舞伎 刀剣乱舞」を皮切りに、若手の歌舞伎役者さんたちとご一緒する機会がたくさんありました。中でも忘れられない記憶となったいくつかをお話ししたいと思います。







役者として舞台に立つ息子への思い
尾上右近さん主催「研の會」での出来事

 

 

8月に行われた尾上右近さん主催の「研の會」。右近さんの自主公演として今年8回目を数えました。私と右近さんとは長いお付き合いなんです。彼がまだ足元もおぼつかない幼児のころから、尾上流のお稽古に通ってくれていました。踊りやお芝居が大好きな子どもで、お芝居の絵を書いてみせてくれたりしました。彼はそのころから絵心があって、とても上手なんですよ。

 

 

実は今回の「研の會」は、私にとって特別なものでした。息子の嘉人が「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の子役、倅市松として舞台に上がったのです。あるとき右近さんから電話がかかってきまして「研の會で『夏祭』をやるんですが、嘉人くんが嫌じゃなかったら、出てもらえないでしょうか……出たいと思ってくれたらうれしい」と言ってくれたんです。機会があったらお芝居の舞台に、と思っていたので、とてもありがたい申し出。昨年12月に尾上流での初舞台を踏んだ息子にとって、これが役者としてのデビューになりました。

 

 

 

公演のあった2日間、私は息子につきっきりで世話をすることに……。右近さんはじめ、ご一緒してくださった花形の歌舞伎役者さんたち…… 坂東巳之助さん、中村種之助さん、中村米吉さん、中村莟玉さんたちが、嘉人をとても可愛がってくれました。





尾上菊之丞さんと息子の嘉人くん 尾上菊之丞さんと息子の嘉人くん

息子の嘉人と。「研の會」の楽屋での一枚。千穐楽「夏祭浪花鑑」の幕切れの神輿のシーンに「ひとくんも一緒に出ようよ!」と誘ってもらいよろこんで皆さんと同じ浴衣姿になってスタンバイ中。




尾上右近、義人、中村米吉 尾上右近、義人、中村米吉

尾上右近さん、中村米吉さんに囲まれた嘉人。稽古初日、少し緊張気味の嘉人を気遣ってくれて自撮り写真を撮ってくれました。嘉人がお世話になった御礼に、右近さんにお寿司をご馳走する約束になっているんですが、これはまだ果たせていません。





「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の子役、倅市松のこしらえで出番を待っているところ。 「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の子役、倅市松のこしらえで出番を待っているところ。

「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の子役、倅市松のこしらえで出番を待っているところ。






「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の、舞台上で床几に腰掛けているシーンがあるのですが、そこで嘉人の草履が脱げてしまうというちょっとしたアクシデントがありました。その時はご一緒してくださっていた中村鴈治郎さんと中村米吉さんが、すぐに草履を履かせてくださり、事なきを得たのですが、終演後、嘉人が楽屋でメソメソしだしたんです。子ども心に焦ったし、くやしかったのでしょう。でもそんな様子をつぶさに見ることができたのも、親としてはうれしいものでした。

 

 

 

化粧をしてくださったのは、京屋ご一門の中村京純さん。顔をする(化粧をする)って、慣れないことですし、じっとしていなくてはならなかったり、顔に鬢付け油やら眉つぶしやらでベタベタ触られて、子役にとって少し気持ち悪いと感じることもあるんです。でも京純さんが「顔は最初が肝心。子どもは初めにうまくやらないと顔をすること自体を嫌いになっちゃいますからね」と言って実に丁寧にやってくださいました。特に顔をおとす時、クレンジングが目に入ると大変。そこが一番の難所かもしれません。






息子の成長とともに、実感した「繋がり」

 

 

裏方として息子の世話をしたこの2日間。楽屋で若手の役者さんに可愛がっていただいたり、舞台で草履が脱げてしまい泣きべそかいたり、京純さんに顔をしてもらって気持ちよさそうにしている様子を見たり。私自身も感じることがたくさんありました。「研の會」という尾上右近さんの勉強会で、歌舞伎の舞台に立つ息子を見て、自分たちが生まれる前からずっと繋がってきているんだということを実感したんです。

 

 

そもそも右近さんが嘉人になぜ声を掛けてくださったかにも、理由がありました。実は右近さんが子どもの頃に初めて舞台に上がったのは尾上会という尾上流の舞踊会で、私の姉・尾上紫が演じた「京鹿子娘道成寺」の所化(坊主)の役だったんです。

 

 

右近さんのお父様は七代目 清元延寿太夫師。清元節の家元です。右近さんはその後、子役として歌舞伎の舞台に立ち、活躍します。でも歌舞伎か清元か、考えることもあったでしょう。彼は二刀流を選び、尾上右近という歌舞伎役者として、また、清元栄寿太夫として清元の世界でも頑張ることにしたんです。私が子どものころには考えられなかったことが、今はできる。それはすごいことなんです。




清元の家元の家に生まれた右近さんですが、曽祖父は名優六代目尾上菊五郎。尾上流の初代家元でもあります。我々のルーツは重なり、踊りの手ほどきを受けた私の父・墨雪や私にも恩返しがしたいと。その恩を嘉人に少しでも返せたらと、そんな思いもあって声をかけてくれたのだと思います。出発点が、尾上流の舞台だった、ということを彼が覚えていてくれて、私の父・墨雪や、私に恩返ししたいと、嘉人を起用してくれたんです。今度は右近さんから私の息子・嘉人へ、バトンを渡してくれたような気がします。

 

 

私は舞踊の家に生まれましたので、子どもの頃に歌舞伎の舞台に立つことはありませんでした。歌舞伎の振付をすることはあっても役者として舞台に立つことはないわけです。歌舞伎への憧れがあり、若いころは葛藤もありました。今回私が経験できなかったことを息子がしている姿を見て、色々なことが「繋がっている」ことを大いに実感した、そんな2日間でした。

 

 

嘉人はというと、右近さんはじめ「研の會」の皆さまのおかげで、お芝居が大好きになったようです。また出たいな!なんて言っています。

 

夏の思い出、次回にも続きます!






演劇ユニット新派の子 錦秋公演 河竹黙阿弥没後百三十年「新編 糸桜」

2023年10月12日(木)・13日(金)
東京都 中央区立日本橋公会堂

原作:河竹登志夫「作者の家」
脚本・演出:齋藤雅文
出演:波乃久里子 / 尾上菊之丞 / 大和悠河 / 只野操 / 村岡ミヨ / 鴫原桂 / 石橋直也 / 下野戸亜弓 / 堅田喜三代社中 / 喜多村次郎 / 市村新吾 / 佐堂克実

今、絶賛お稽古中のお芝居「新編 糸桜」です。詳しいことは次回にゆっくりお話しさせていただきます!




尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

 

1976年3月、日本舞踊尾上流三代家元・二代目尾上菊之丞(現墨雪)の長男として生まれる。2歳から父に師事し、1981年(5歳)国立劇場にて「松の緑」で初舞台。1990年(14歳)に尾上青楓の名を許される。2011年8月(34歳)、尾上流四代家元を継承すると同時に、三代目尾上菊之丞を襲名。流儀の舞踊会である「尾上会」「菊寿会」を主宰するとともに、「逸青会」(狂言師茂山逸平氏との二人会)や自身のリサイタルを主宰し、古典はもとより新作創りにも力を注ぎ、様々な作品を発表し続けている。また日本を代表する和太鼓奏者、林英哲氏をはじめとして様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションにも積極的に挑戦している。

日本舞踊・藤間流八世宗家・藤間勘十郎さんとともに立ち上げたオンラインサロン「K2 THEATRE」や、「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。




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